51:特別実習
耳元で、懐かしい声が聞こえる。
「アリエル、久しぶりだ。元気だったか?」
ウリエル……!
「お前がやりたかった『大天使の宮殿への宮仕え』の『役割』、どうだった?」
「どうだった?」と聞いているのに、口はまだ手で押さえられている。
声を出せないし、返事もできない。
「ああ、そうか。アリエル、お前が経験したかったのは、入浴の手伝いの『役割』だったな」
そう言うと、さらに口を耳に近づけた。
息が耳にかかる。
それだけでなんだかもうゾクゾクして、変な気分になっていた。
「……特別にお前だけに、入浴の手伝いの『役割』の実習を許そう」
そこでようやくウリエルは、口から手を離す。
「ウ、ウリエルさん、突然何なのですか!?」
「だから、アリエル、お前は入浴の手伝いの『役割』を担いたいのだろう? とても強力な癒しの力を持っているのに。本当に、お前にふさわしいのはどっちの『役割』か、おれが特別に判定してやる」
……! アクラシエルが言っていた通りだった。
ブレンドした香油を持参して良かった。
「……分かりました。大天使であるウリエルさん直々に判定いただけるのは、光栄です」
きっぱり私が答えると……。
「物怖じしないな、アリエル」
ウリエルは楽しそうに笑うと、私の体を解放する。
「ついてこい」
ウリエルは浴室の中へと歩いて行く。
その後ろ姿を、慌てて追いかけた。
巨大な浴槽には、既にお湯が満たされている。
ウリエルはその浴槽に向けて歩きながら、羽織っていたマントを外し、着ていたキトンを脱ぎ始めた。
「!?」
慌てて視線を逸らす。
一瞬見えた背中。背筋がよく鍛えられていた。上腕や肩の筋肉も美しい。
戦場に出れば「一度の鞭で千の悪魔を討ち取る者」と恐れられるだけあった。
本当に屈強そうな肉体をしている。
私はゆっくり浴槽の方を見た。
ウリエルは既に湯船につかり、体を洗い流している。
落とされていたマント、キトン、腰ひもなどを拾うと、浴室内に置かれた籠にいれた。
タオルが確か棚にあったはず。
棚からとった大判のタオルを、浴槽の淵に置く。
本当は、そのタオルで体を包み、拭くというのも、入浴の手伝いの『役割』に含まれていた。
というか、体を洗うのも『役割』に含まれている。
それも全部やらなければならないのだろうか?
でもそれは本来、複数人でやる『役割』のはずで……。
いや、やる必要があるのだろう。
意を決し、湯船に入ろうとした。
すると突然ウリエルが振り返る。
「アリエル、香油で行うもみほぐしの準備をしろ」
急に振り返るから、心臓が止まりそうになる。
それでも必死に言葉を口にする。
「……! 体を洗ったり、拭いたりは……」
「おれは基本的に入浴の手伝いの『役割』は、男性の天使にやらせている。女性の天使には香油を塗ってもらうだけだ。だから気にするな」
なるほど……。
プレイボーイだからてっきり、女性の天使にやらせているのかと思った。
「分かりました。準備します」
なんだか安心し、いつものペースに戻ることが出来た。
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次回更新タイトルは「たった一人が独占するには、惜しい体」です。
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