43:思わず愚痴る
エルサと言えば、神官の実習も一緒だった。そして彼女は、古の悪魔の魔力にまみれた剣を拾ってしまい、その呪いに囚われるところだった。それを私とアクラシエルで助けた。それまで会話をしたことがないクラスメイトだったが、その日以降は挨拶を交わすようになっていたが……。でもそれ以上のことはない。
というのもエルサは、いつも教室では本を読んでいたし、おとなしくあまり話もしない。だから親しくなったと言っても、挨拶を交わすぐらいだ。
私はゆっくりエルサの方へ向かう。
エルサはキャラメルブロンドのおかっぱ頭で、背は150センチぐらいの、小柄の可愛らしい「女の子」という感じだ。ゲームのパッケージにも描かれていなかったし、名前はあるものの、モブキャラに近い存在。
そのエルサはこちらに背を向け、マスカットの房に、天使の力を使っている。
作業が終わるのを待ち、私は声をかけることにした。
だが。
「エルサ」と、声をかけようとした私は、思わずその動きを止めることになる。
「なんで乙女ゲーの世界で、摘粒作業なんかしなきゃならないのよ。農作業やら花の手入れやら、家事やらで、乙女ゲーの世界に転生したって言うのに、なんもないじゃないのよ。
せっかくヤバイと思っていた剣だって拾ってみたのに。ラファエルともウリエルともその後、何もないし。まったくさ、こっちは死の代償を支払っているのだから、せめて流行りの悪役令嬢にでも転生させてくれればいいのに。
あ~あ。本当にもう、つまらない。アクラシエルが急にカッコよくなったから、アクラシエル攻略ルートでもいいんだけどなぁ~。本物の悪役令嬢ポジションのアリエルがいつもそばにいるから、近づけないし……」
まさか。
エルサの後ろ姿をガン見した。
こ、このエルサもまさかの転生者!?
しかしまさかモブに近いキャラに転生するなんて……。
可哀そうな気もしたが、フラグを回避できなかった場合の悪役令嬢ポジションの末路は、悲惨だ。
それに比べれば、まだモブの方が……。
そうだよ。神官になれれば、毎日イケメンにだって抱きつくことができる。「大天使の宮殿への宮仕え」の『役割』を担えれば、大天使とのワンチャンもあるかもしれない。それが無理でも、職場恋愛的なものだってあるかもしれないのだから……。
むしろモブの方が幸せなんじゃないの!?
「悪役令嬢のポジションに転生したら、フラグ回避が大変だよ」
思わず声に出してしまった。
エルサが固まっている。
ど、どうしよう……。
慌てて自分も転生者であることを伝えようと、一気に話始める。
「あ、でも、モブだと攻略対象との絡みがないからそこは辛いよね。でもさ、ほら、神官の『役割』につけば、イケメンに抱きつくこともできるじゃない。それに宮殿での『役割』につけたら、一応大天使は見ることができるかもしれないし、もしかしたら何かあるかもしれないし。それがなくてもそこら辺にいる天使もイケメンが普通に多いし……。
でも、まあ、お互いついていないよね。発売前の乙女ゲーの世界に転生しちゃうなんて。私も親友から試供版をかりて、感想を伝えることになっていたのに。でもプレイしようとしたら私は死んじゃって……。親友に申し訳ないと思っているんだ。ねえ、あなたは……」
ゆっくり、エルサが振り返る。
「まさかと思うけど、あんたもここに転生していたの、雛月カナ?」
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