21:立ち始めたフラグへの恐怖
不幸中の幸い。
それは、ガブリエルが一人で飛行をしてくれたことだ。
アクラシエルと私が並んで飛び、ガブリエルは私達を先導するように、一人で前を飛んでくれた。しかも、ウリエルのように、やたら話しかけることもない。
それだけは本当に助かった。これ以上恋心が深まらずに済むからだ。
その一方で、アクラシエルはずっと話し続けている。
古の悪魔の魔力を清めた時、私の癒しの力を感じ、アクラシエルは言いようのない幸福感に包まれたこと。あまりにも幸せ過ぎて、気を失ってしまったこと。自分と私の癒しの力の波長は、ものすごく合っていると思う……などなどを熱心に語っていた。
私はその話に「へえ」とか「そうなんだ」と、ただただ相槌を打つ。
頭の中は、立ち始めたフラグへの恐怖、フラグを折るためにどうすればいいのか、そんなことでいっぱいだった。
とりあえず、明日からソフィアを探す。
ガブリエルと恋心が深まらないようにする。
まずはこの二点を頑張るしかない。
そうこうしていると、家が見えてくる。
アクラシエルは家が近いことを告げ、ガブリエルは家の手前で止まると、私達に声をかけた。
「もう大丈夫そうだね。ボクはここで見送るから、二人はそのまま降下して家に帰るといい」
またしてもあの笑顔を向けられ、私はあやうく墜落しそうになり、そして恋心は確実に深まっていた。
「ガブリエル様、ありがとうございます」
アクラシエルが負けじと清らかな笑顔を見せる。
一方の私は……。
「本当にありがとうございました」
愛らしい声で、照れを隠すようにペコリと頭を下げていた。
胸は相変わらずキュンキュンしている。
「行こう、アリエル」
アクラシエルに促され、私は家へ向かって降下を始めた。
途中、アクラシエルが振り返ったので、私も振り返ると、ガブリエルは律儀に本当にあの場から動かず、私達のことを見送っている。
ガブリエルは……真面目なのだ、と思った。
真面目過ぎて、不真面目に見えるマティアスのことが許せなかったのかもしれない。正しいと信じている大天使仲間が、地上へ落とされた。それが許せなかったのかもしれない。
例えそうだとしても。やり過ぎだったと思う。
早々にマティアスとソフィアをハッピーエンドにしてしまえば、このゲームの世界のガブリエルは、二人の恋路の邪魔をしないで済むかもしれない。いや、済むようにしないといけない。
そう強く心に誓い、家のドアを開いた。
◇
実習の翌日の学校では、上級天使の教師が、昨晩の出来事を、誇らし気に生徒たちに話している。
本来神官でも三人がかりで清める魔力を、たった二人で清めた。あの場に居合わせた大天使ウリエルも絶賛だった。異変を察知して駆けつけたラファエルも、驚嘆していた。さらに二人の活躍はミカエル様にも報告されたので、表彰状の一枚でももらえるかもしれない、とのことだった。加えてこの出来事で、アクラシエルと私は癒しの力にお墨付きをもらったことになり、授業では教師の補佐を務めるように言われた。
教師の話を聞いて、私は新たに知ったことがある。
それは……。
ウリエルは神殿の清めの儀式を終え、本来自身の宮殿に戻るはずだった。
でも私があの広場で実習を受けていることに気づき、宮殿には帰らず、ひそかに実習の様子を見守っていたようなのだ。だからいち早くあの場に駆け付け、エルサが持って離さなかった剣を、鞭で取り上げていたのだ。
もしあのままエルサが剣を持ったままでいたら、魔力の呪いに操られ、剣で誰かのことを傷つけていたかもしれない。それに剣を持った状態のエルサを抱きしめて、癒しの力を使うなんて無理だ。
その点を考えても、あの場で咄嗟に動いてくれたウリエルがいなければ、エルサにとりついた魔力を清めることはできなかった。それどころか下手をしたら、私もアクラシエルも、魔力の呪いにとりつかれていたかもしれない。
そういう意味では、ウリエルに対し、本当は御礼の一言でも告げるべきだった。
失礼なことをしちゃったな。
しばし反省する。
ちなみにエルサはそのまま天界救急本部に泊り、今朝家に戻ったらしい。健康状態に問題はなく、明日からはいつも通り学校に来るという。
そして客観的に教師の話を聞いているうちに、気づいたことがある。
昨晩の出来事は、ゲームにおけるアリエルとガブリエルが恋に落ちるイベントだ。
が、同時に、ラファエルとアクラシエルが出会うイベントでもあったのではないかと。
アリエルはバッチリ恋に落ちていた。だが、アクラシエルがラファエルに好意を持ったような様子は、微塵もない。その逆もしかりだ。
でも、もしこの二人が早々に恋に落ちてくれれば、ソフィアとマティアスが結ばれる可能性が高まる。ソフィアとマティアスが早くハッピーエンドになってくれれば、私のフラグも回避される。
もしソフィアが既に天界にいるなら……。
アクラシエルとラファエルの接点をなんとか作り、二人が結ばれるように仕向けなければ……そんな風に考えていた。
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