20:絶句しながら胸をときめかせる
「えっ、なんで……」
絶句しながら胸をときめかせるという、へんてこりんな状態になっていた。
絶句しているのは、前世の知識を持つ私の反応。
胸をときめかせているのは、アリエルというゲーム設定による反応。
なぜこの二重の反応をしているのかというと、トイレから戻ったら、すでに立ち去っていると思ったガブリエルがいて、ラファエルの姿がなかったからだ。
「アクラシエル、ラファエルは?」
「ラファエル様は今日、『天界救急本部に泊ることになる』って言っていただろう。でもガブリエル様はこれから宮殿へ戻るそうだ。帰り道にアリエルと私の家があるから、送ってくれるって」
「……!」
そうだった。
ラファエルはここに泊ると言っていた。
でもだからってなんでまた……。
「初めまして、アリエル。ボクはガブリエルだ。君たちの活躍は、さっきラファエルから聞いたよ。まだ学生なのに頑張ったね。君たちのような優秀な天使が増えて、嬉しいよ」
なんて美しい声なんですか。
もう心臓が制御不能なんですけど。まだ顔を直視してもいないのに……。
それにしても困ったことになった。挨拶をされてしまったのだ。無視はできない。
確か、目を見ていると思わせるには、鼻のあたりを見ればいいのだっけ!?
そう思いながら、ガブリエルの方を見た。
鼻のあたりだけ見るなんて、無理だ。
思いっきり、目が合い、その美しい顔を見てしまった。
エメラルドグリーンの瞳が、私をじっと見ている。
輝くようなシルバーブロンド、雪のように透き通った素肌。
優美な顔と、すらっとした長身で、純白のキトンがよく似合っている。
「ガ、ガブリエル様、初めまして。私はアリエルです。そのまだ未熟者ですが、よろしくお願いします」
頬をピンク色に染め、視線は伏し目がちになりながら。緊張で体を震わせ、信じられないぐらい愛らしい声で、私はガブリエルに挨拶している。
ザ・恥じらう乙女という感じだった。
「そんなに緊張しないでいいよ、アリエル」
ガブリエルは優しく告げると、美しい笑顔を浮かべる。
小説では、マティアスもソフィアも、ついつられて笑顔になりそうになると、表現されていた。
その、最強の笑顔が、自分に向けられている。
自然に頬が緩み、心からの笑顔になっていた。
この笑顔を見て、頬が緩むのを止めるなんて、絶対に無理だ。
マティアスは、この笑顔に耐えている。でもそれは、千年に渡る禁欲の誓いを守れた精神力があったから、耐えられたのよ……!と、思わずにはいられない。
アリエルに並々ならぬ精神力の強さという設定はないため、もうイチコロだ。
胸がキュンキュンしている。
嬉しくて笑顔が止まらない。
体中が喜びで満たされている。
体と心の反応が、抗いようのない事実を突きつけていた。
完全に、アリエルはこれでガブリエルに恋をしていると。
ゲームの設定通りの反応を示す一方で。
私の頭の中では、危険を示す赤信号が、点灯している。
フラグが、今まさに立ってしまったのではと、警告を出している。
「では行こうか」
ガブリエルに促され、歩き出していた。
ヤバい、このままではヤバイ。
いや、でも今はどうにもできない。とにかく家に帰って、ガブリエルのことは忘れよう。
普通に日常生活を送っていれば、天使と大天使に接点はないはず。出会って一目惚れしたことは、不幸な事故と思い、もう諦めよう。後はもうこれ以上接点を作らず、恋が深まる状態を回避するしかない。
「……アリエル、なんか今度は青ざめたり、顔がにやけたり、くるくる表情が変わっているけど……、大丈夫?」
アクラシエルが困惑した顔で私を見る。
「大丈夫……ではないけど、大丈夫」
自分でも変だと思う返事をしていた。
もうこれはバグじゃない?
「ラファエル様に、もう一度見てもらう?」
「いい。帰る……」
こうして私達は天界救急本部を出て、家に帰ることになった
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次回更新タイトルは「立ち始めたフラグへの恐怖」です。
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