14:おれを待っていてくれたのかな?
神殿へ続く丘は……幻想的で綺麗な場所だった。
小説を読んで、脳内に漠然とイメージするしかなかった丘の景色が、目の前に現実として広がっている。
本当に、精霊は蛍の光みたいだ。
丘に点在して置かれているランタンも、すごく美しい。
「ねえ、アリエル、せっかくだから神殿まで行ってみない? 帰りは飛んで戻ればすぐだし。時間はまだある」
アクラシエルの提案を快諾し、神殿目指して歩き出す。
不思議だった。
この道を小説では、マティアスとソフィアが何度も歩いていた。これから婚儀を挙げるのだと、胸を高鳴らせながら。
あ、あれは……。
イチイの巨木ってこれのことか。
思わず立ち止まり、しげしげと眺めてしまう。
この巨木の下でソフィアは、悪魔狩りに出たマティアスの帰りを待っていた。
こんな感じで立っていたのかな。
私は木の前に立ち、手にランプを持つ自分をイメージし、ふもとの方を見下ろす。
「うわあ。すごい……」
私の声に、アクラシエルも後ろを振り返る。
丘の中腹からは街が見えたし、神官たちのいる広場の様子も見えた。
そしてここには沢山のランタンが灯されている。
あちこちに蛍の光のように精霊が舞っている。
穏やかな光で作られた夜景が、広がっていた。
「……本当だ。綺麗だね、アリエル」
そう言ったアクラシエルが、私の手をとる。
「?」
「この夜景をアリエルと一緒に見ることができて、嬉しいな」
はにかむような笑顔で、アクラシエルが私を見た。
「あ、うん。そうだね」
というか、なぜ手を握る……?
「行こうか」
そのまま手をひかれ、神殿へ続く道を進むことになった。
小学校の低学年の頃は、女友達と手をつなぐことも多かったけど……。
でもまあ、高校生ぐらいの時もふざけて手をつなぐこともあったし、そんな感じ?
そんなことを考えているうちに神殿についた。
神殿は24時間利用できるから、あちこちにランタンが置かれ、明るく照らされている。
……!
石碑を発見した。神殿の利用について説明している石碑だった。
『ここは婚姻を決めた天使が婚儀をあげるための場所である。扉が開いていれば中に入れる。まずは沐浴を行い、身を清め、そのまま祭壇へ向かう。そこで生涯の愛を宣誓し、署名を行う。この宣誓と署名は絶対である。宣誓と署名を終えたら寝所へむかい、生涯の契りを交わすこと。この契りを持って二人の婚姻は成立となる。なお、扉は二十四時間後に開く』
すごい。
小説で読んだのと同じ文が書かれている。
その時だった。
神殿の扉が開いた。
まさか、私の知らぬ間にソフィアとマティアスが婚儀を挙げていた、なんてオチはないよね!?
そんなことを思いながら見ていると……。
……! ウリエル!?
ええええ、プレイボーイのウリエルが婚儀を挙げた!? ソフィアとじゃないよね!?
もしソフィアと婚儀を挙げてしまったら……。どうなるの!?
あ、でももう婚儀挙げてくれたなら、私が悪役令嬢ポジションで動く必然性もなくなる。
もしかしてフラグは、これで完全に折れた!?
いや、落ち着け、アリエル。
数時間前にウリエルと会ったじゃない、ワタシ。
神殿の扉は、一度閉まったら24時間は開かないハズ。
ということは……。
思わずガン見していたので、ウリエルが私達に気づいた。
「あれ、さっきのアリエルじゃないか」
夜になり、深みの増したサファイアブルーの瞳が私を見つめている。
それだけでもう、腰が砕けそうだった。
「……もしかして、君たち、婚儀をここで挙げるつもりなのか?」
「!? 違います!!」
腰砕けになっていたのに、即答できていた。
「でも仲良く手をつないでいるよな?」
ウリエルがゆっくり階段を降りてくる。
慌ててつないでいた手を離した。
「違います! アクラシエルは大切な親友です。変なことを言わないでください!!」
ウリエルはゆっくりこちらへ近づいて来る。
「では、おれを待っていてくれたのかな?」
目の前にウリエルが立っていた。
ランタンの柔らかな明かりに照らされるウリエルは……。
この世のものとは思えない程、カッコよかった。
婚儀を挙げるつもりなのか、と聞かれた時は、違うと即答できたのに。
イケメン耐性がない私は、ランタンの明かりでさらにハンサム度が増し増しになったウリエルから、「おれを待っていてくれたのかな?」なんて言われ、またもショート寸前だ。
「もしかして正解?」
すらっとした腕が伸びてきて、私の顎をくいっと持ち上げた。
!!
綺麗なサファイアブルーの瞳には、私の姿が映し出されている。
これが数多の女悪魔や人間の女性の心を溶かしたウリエル……。
輝くような瞳に、吸い込まれそうだ。
「ウリエル様、いかがなさいました?」
凛とした声に、呪縛が解ける。
気づけばウリエルの背後の階段には、沢山の天使の姿。
これは……。
そうか。神殿の清めの儀式をしていたのだ、きっと。
神殿は使用の有無に関わらず、定期的に清められると、小説に書いてあった。
「アリエル、もうすぐ時間だ。いかないと」
アクラシエルの声に、我に返る。
「飛ぶよ。アリエル」
待ったなしでアクラシエルは翼を広げ、飛び立っていく。
呪縛が解けている今しか動けない。
ウリエルの方を見ることなく、すぐに翼を広げ、アクラシエルの後を追った。
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次回更新タイトルは「急に顎クイなんてされたら……」です。
明日もまた読みに来ていただけると大変嬉しく思います。
それでは明日もよろしくお願いいたします!










































