13:まるで女子と過ごしているみたい
街の造りはシンプルだ。
天界図書館のあるこの場所からのびる一本道は、今晩の実習が行われる、丘のふもとの広場までつがなっていた。
だから一本道を進めば、自然と街の散策も可能になる。なぜならその一本道の両サイドには、一軒家が立ち並んでいて、一階はお店、二階は住居という造りが多かったからだ。
街には様々なお店がある。
美容院、理容室、洋服屋などの生活に関わるお店。
レストラン、フルーツパーラー、バーなどの飲食店。
野菜専門店、フルーツ専門店、調味料を扱うお店などの食料品のお店。
天使の食事は野菜や果物で、肉や魚を食べることはない。食事で栄養補給をしているわけではないので、野菜や果物だけを食べていても、問題ないという設定だ。
「……! アクラシエル、このお店、入ってもいい?」
「うん、いいよ」
そこは香油の専門店。
天使の服は基本キトンで、それにマントやまれに宝飾品をつけるぐらいだったが、香油は皆が好んでつけるものだった。
私も、というかアリエルの部屋にはジャスミンの香りの香油があり、シャワーの後にいつもつけている。
もちろん、大天使も香油をつける。そして香油をつけるタイミングは入浴後。つまり入浴の手伝いの『役割』に、香油は切っても切れない必須アイテムだった。
大天使が好む香りをブレンドし、その香油を使い、もみほぐしをできれば……。
入浴の手伝いの『役割』が近づく。
……イケメン耐性をつけるという課題はある。でもそれはアクラシエルが協力してくれるというし、卒業まで時間もあるから、なんとかなるはずだ。
「ねえ、アリエル、これ、すごくいい香り」
アクラシエルと二人、ガラス瓶に入った香油の香りをかぎながら、店内を歩いた。
すると一人の女性の天使がやってきて、香りの特徴などを説明してくれる。
私はそれを熱心に聞いた。
気分に合わせてブレンドしたり、香りの特徴にあわせてブレンドしたりするといいと、学ぶことができた。
「せっかくいらしたのですから、お二人でそれぞれブレンドして、プレゼントしあってみたらいかがですか?」
そんな素敵な提案を受け、私はアクラシエルを、アクラシエルは私をイメージした香油のブレンドを行うことにした。
アクラシエルと話していると、まるで同性と話しているように感じる。肌艶の良さも女子みたいだし、醸し出す雰囲気も女子っぽい。
だから私がイメージしたアクラシエルの香りは……。
ティーローズをベースにシトラス、ゼラニウム、そして天界ではポピュラーなバルサムをブレンドしてみた。
ムエット(試香紙)に香りをつけ、確認してみる。
うん。甘いけどゼラニムとバルサムで引き締まっている感じ。女子っぽいと言ってもアクラシエルは男子だから、これぐらいが丁度いいかもしれない。
「完成しました!」
「え、アリエル、早い」
店員の『役割』を担う天使が、綺麗な形のガラス瓶を持ってきてくれる。
私がその瓶に完成した香油を注いでいる間に、アクラシエルもブレンドを終えたようだ。
「私も完成」
微笑むアクラシエルに店員さんも笑顔で応じ、ガラスの瓶をアクラシエルに渡す。
こうして。
お互いをイメージした香油が完成した。
丁度お店が閉まる時間が近かったので、店じまいを手伝い、香油を手に入れると、レストランへ向かう。
私達が入ったレストランでは、カリフラワーを使ったハンバーグが人気メニューだ。迷うことなく、二人ともそれを注文する。注文が終わると、お互いをイメージして作った香油の交換をした。
アクラシエルは瓶の蓋を開け、香りを手であおいでかぐと、笑顔になる。
「アリエル、これ、気に入った。今度、この香油を使って、この前みたいにもみほぐしをして」
「アロママッサージね。すごくリラックスできると思う。いいよ。いつでもやってあげる」
そう返事をした後、アクラシエルがブレンドしてくれた香りを確認してみる。
これは……。
甘みのある香りに、透き通るような香りが混じっている。
「なんだかベッドで転がっているような、力が抜ける香り。……これ、白檀がブレンドされている?」
「! よく分かったね。白檀、入っているよ。他に何が入っているか、分かる?」
私は再度、香りを確認する。
「なんだろう。オレンジ? ピーチ?」
「オレンジはブレンドした。あとはスモモ」
「スモモかぁ。あとは……すっきりしたか残り香は……もしかしてジャスミン?」
「正解! アリエルすごいな」
そんなことを話していると、ハンバーグが到着した。
「食べよう、アリエル」
「うん、そうだね」
濃厚なソースに絡めて食べると、カリフラワーで作ったハンバーグとは思えない。
「美味しいね、アリエル」
「ホント。このジューシー感、何で出しているのかな!?」
そんなことを言いながら食事をしていると、女子と過ごしているみたいだ。
アクラシエルが攻略キャラとして登場しているなんて、ホント、不思議。
「アリエル、そろそろ丘を散策してみる?」
アクラシエルが店内の時計に目をやる。
時間は19時過ぎ。
実習は20時開始だけど、10分前集合が基本だ。
丁度いい時間だった。
「うん、そろそろ丘へ行ってみよう」
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次回更新タイトルは「おれを待っていてくれたのかな?」です。
明日もまた読みに来ていただけると大変嬉しく思います。
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