1:プロローグ
いくつもの刺激が同時進行で、私の頭は真っ白になりそうだった。
「ちょっと待って」と声を出そうとするが、キスをされているので、それはただ「ううん、ううん」と甘い声が漏れるだけになってしまう。
堪らず全身で抱きつくことで、ようやく動きが止まった。
止まった、と思ったら……。
「そんなに甘えるな。おれの理性が吹っ飛ぶだろう」
甘い声で耳元で囁くと、そのまま私をお姫様抱っこした。
「ま、待って」
「待つ? 待てるわけないだろう」
すでに体はベッドの上に降ろされている。
「待って、ホント、初めてだから、私」
「おれだって初めてだから、大丈夫」
「二人とも初めてとかって、大丈夫なんかじゃ……」
それ以上を言えないようキスをされ、その後は……。
◇
とにかく目立たず、おとなしく、平穏無事に。
それが私、雛月カナのモットーだった。
これをモットーに今の会社で働き続けて十年が経った。
気づけばすでに三十路を過ぎている。
同期の多くが転職や寿退社する中、私はただただひたすら地味に生き残り、自分一人が生きていくには十分なお給料を得ていた。
住めば都の都会の手狭なワンルームを自分の城とし、仕事の後は……大好きな乙女ゲーム、通称乙女ゲーをプレイすることが人生で一番の楽しみになっている。
毎日ただひたすら職場と家の往復。
それをつまらない、と考える人も多いようだが……。
それでお金が手に入り、好きな乙女ゲーを満喫できるなら、どんな地味で他の人がやりたがらない仕事も喜んでやってきた。
そんな私と価値観が合う大学時代の友人と久々に会ったのは、先週のことだ。
彼女もまた、大の乙女ゲー好きでかつアニメ、漫画もたしなむ、いわゆるオタクだった。
そんな彼女が勧めてくれた小説があった。
それが『千年片想い~ピュアな魔王の純愛記~』、略称、『千年片想い』という小説だった。なんでもイケメンな魔王と大天使が活躍する甘々、溺愛、ハッピーエンドものだという。
「とにかく作者の男主人公への、鬼畜対応が見所なんだよね。ヒロインとはハグとキスでずっと寸止め。それ以前に千年も禁欲させているの。作者はよっぽどのドSなんだろうね」
なぜその小説を彼女は私に紹介したのかというと……。
「『千年片想い』の登場人物がイケメン揃いだから、乙女ゲーになったらしいのよ。で、来月発売。わたしはさ、メディアで仕事しているから、試供版でその乙女ゲーをプレイして記事にすることになったわけ。で、そこに乙女ゲーを普段からプレイしている読者の感想も盛り込もうと思って。カナ、これ貸すからプレイした感想を教えて」
そう言って彼女が渡したのが、『千年片想い』の小説とゲームの試供版だった。私はすぐ小説を読み、そしてそれを読破したので、いよいよ試供版のゲームをプレイしようとしていた。
明日から三連休で時間はたっぷりある。
先にお風呂に入り、私は早速ゲームを始めようとしていた。
その時、なんだか後頭部に鈍痛を感じる。
気にせず、試供版のゲームを手に取り、よしプレイするぞと思ったのだが……。
激痛が後頭部に走り、目の前が真っ暗になった。
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【お知らせ】悪役令嬢ものもう1本更新中
『悪役令嬢完璧回避プランのはずが色々設定が違ってきています』
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コミカル、時にホロリ、途中から甘々溺愛展開。
個性あふれる登場人物にイケメン率高!
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