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 「きみっ……」

 

 「皆、もう少し周りを見ようか?今日という晴れ舞台が、台無しになったら大変だろう?」

 

 さが兄が集団に辿り着くよりも早く枯野先輩は周囲に声をかけると、呆然とする女子生徒達の間を抜けて苺恋へと手を伸ばした。

 

 「大丈夫?」

 

 苺恋は枯野先輩の格好良さに見惚れているのか、差し出された手をとることも無く座り込んでいる。

 私の頭に浮かんでいるゲームのスチルそのままが、今目の前で起こっていた。

 

 「あ、あの……」

 

 「ごめんね」

 

 苺恋が何か言う前に、痺れを切らしたのか枯野先輩は苺恋の腕を掴んで立ち上がらせる。自分でしっかりと立った彼女の姿を上から下まで確認すると、枯野先輩はそれまで無表情に近かった顔を笑顔へと変える。それだけで周囲にいた女生徒達の悲鳴が響き渡ったけれど、中心にいる2人には聞こえていないみたいだ。

 

 さが兄は呆れたように私の隣に戻ってきて、私と一緒にこの光景を見守る事にしたらしい。

 

 「ありがとうございます!」

 

 「怪我もしてないみたいで良かった。こちらこそごめん、こんな所で騒ぎを起こして」

 

 「いえ、先輩のせいではないですし、どんくさい私が悪いので気にしないでください」

 

 2人は短い言葉を交わすと、にこにこと笑いあっている。

 周囲の女生徒達は入り込もうにも2人だけの世界を作られてしまっているために入り込めず、私とさが兄は講堂に入りたいけど入れないままだ。

 

 さぁどうしようと思った時、講堂の中から大きめの声が響いてきた。

 

 「苺恋!!」

 

 離れていてもはっきりと聞き取れる声と、集団の先から見えてきた赤髪に私の視線は吸い寄せられていた。

 

 「(たまき)!」

 

 「お前こんな所にいたのか!なかなか来ないから気になって迎えに行こうと思ったら……。また何かに巻き込まれたのか?」

 

 周囲や周囲からの視線へは目もくれず、苺恋だけを心配そうな顔で見つめる様子からは明らかに彼が彼女を特別視している事が伝わってくる。

 苺恋も彼には心を許しているのか、枯野先輩へ向けていた笑顔よりも警戒心の無い顔を向けていた。

 

 「また人が増えた……。いい加減止めないと入学式に支障が出そうだね。注意してくるから、翠恋は隙を見て中に入って」

 

 「分かった。ここまで案内してくれてありがとう。さが兄も頑張ってね」

 

 「うん」

 

 苦笑とともに私の頭を軽く撫でると、さが兄は集団へと早足に向かっていく。私は人が通れる隙間ができるのを待ちつつ、中心の3人について考える。

 

 

 まず1人目、仁藤 苺恋。

 やっぱり私と顔は瓜二つで、違いは私の方が少し身長が低いのと、髪の光が当たっている部分の色ぐらいだろう。

 

 この世界はゲームというのもあって、日本では染めていないとまず見ない色や有り得ない色を生まれた時から持っている人がいる。メインの登場人物達はだいたいそうだし、私は一見黒髪だが光に当たった部分は濃い緑になる髪をしている。

 苺恋も黒髪だが、光の当たっている部分は濃いピンク、まさしく「苺」といえる色になっていた。


 自分とほぼ同じ顔をした人間というのは当事者からすると少し不気味に思えてしまい、私は次の人物に目を移す。

 

 2人目は赤堂(せきどう) (たまき)

 真っ赤、という言葉がよく似合う赤髪をした、キリッとした顔の1年生。

 苺恋とは従兄弟の関係で、幼い頃からの付き合いがある。幼い頃から苦労をしてきた苺恋を心配し、少し過保護な性格。

 

 ここまではゲームの設定だけれど、先程の苺恋との気安い関係を見ると、恐らく従兄弟同士かそれに近い関係なのだろう。

 

 そして3人目、枯野(かれの) 悠黄(ゆうき)

 少しくすんだ黄色い髪をゆるくパーマにし、オシャレにセットしているのが似合っている3年生。

 この学校では珍しく一般の家から試験に合格して入学しており、見た目では軽く見られがちだが勉強に対しては真面目という一面を持つ。

 

 彼に関してはまだ詳しい事は分からないけれど、特に知り合いになる予定も無いのでこれからもよく分からないままだと思う。

 

 

 まだ始まったばかりと言える入学式前に、さが兄を含めゲームの登場人物を4人も見る事になるとは思わなかった。そして何より、ゲームそのままの姿をした彼らを見てここは本当にゲームの世界なのだと実感する。

 ゲームの話し通りならここにさが兄は出てこないはずだけど。

 

 「えっ、詠先生!?」

 

 そこで聞こえた苺恋の声に、私は隙間はできないかと見ていた女生徒達から視線を戻した。

 

 「どうして私の名前を知っているのかな?……ホームページに名前出てたかな?」

 

 「あ……」

 

 私もさが兄とまったく同じ気持ちになった。

 どうして入学したばかりの生徒が先生、しかも保健医という立場のさが兄を知っているのだろうか。

 

 私は一瞬もしかして、と嫌な想像をしてしまったが、そろそろ本格的に時間が危なくなっため、丁度よく開いた隙間に体を滑らせて講堂へと入った。

 入る瞬間誰かの視線を感じた気がしたけれど、恐らくさが兄だと思う事にし、座れる席を探して講堂を進んだ。

 

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