第七話 宝
しかし現実は思うようにいかないもので、俺たちの冒険は三分で終わりを告げた。
つまり、すぐに洞窟の奥にたどり着いてしまったのだ。罠もなく、並木の言う邪魔者も現れなかった。
洞窟の奥は、小さな部屋になっていた。
部屋の中央に何かが無造作に落ちている。
本橋が懐中電灯で照らす。
「なんだこれ?」
「水晶玉みたいだな」
占い師が手をかざしてごにょごにょ言いそうなものである。大きさは野球ボールくらいで、片手で持てそうだ。
「モンスターも罠もなかったけど、これで許してあげるわ」
並木が手にしていた懐中電灯を置いて、水晶玉を両手で大事そうに持ち上げる。本橋に懐中電灯で照らさせると、「綺麗」と呟いた。
仰々しい洞窟だったが、中にあったのはこの水晶玉一つ。これがものすごい値打ちのあるものなのだろうか。
肩透かしをくらった気もしなくはないが、万が一の確率でこの水晶玉が高価であることを期待しておくことにする。
いつもの森下先輩なら、近づいてコメントをくれそうな状況だが、何も動きがないことが気になって、後ろにいる森下先輩の方を見た。
暗くて分かりづらいが、いつも笑顔の森下先輩の目が鋭くなっている。
俺の視線に気づいたのか、森下先輩はすぐに笑顔へと戻り、「やったね」と取り繕うように言った。
「やったな、みんな! お宝だ! これで遊んで暮らせるぞ! 永遠の大学生万歳!」
本橋が隣で騒いでいる。
「見たか! 私は間違ってなかったんだ!」
つられて並木もはしゃぎだした。
「どうしたんですか?」
先ほどの反応が気になって、森下先輩に尋ねた。
「何が? と、とぼけるのはちょっと難しいかな」
「あの水晶玉ですか」
自分の声を、有頂天の並木と本橋には聞こえない音量に下げた。森下先輩が頷く。
「Pストーンって知ってる?」
「聞いたことないですね」
「そうだよね。最近になって注目され始めたんだけど、ヒーロー組織と怪人組織が、お互いに探している資源の名前。あれとそっくりなのよね」
あれとは並木が手にしている水晶玉だろう。
「Pストーンってのは、具体的には、どういうものなんですか?」
「Pストーンから抽出されるものが、怪人のエネルギー源になるみたい。だから、ヒーロー組織は怪人組織勢力衰退のために、怪人組織は自らの勢力拡大のために、Pストーンを奪い合ってるのよ」
怪人組織の独立運動阻止のため設立されたヒーロー組織は、怪人組織との戦いが終結したことで、存在意義を問われることになった。怪人組織残党が独立運動とは違う形で活動を続けたため、ヒーロー組織は規模を縮小しつつも残ることができた。ヒーロー組織は結果として自分達が残るためには、怪人組織の活発化を祈る必要があるという、矛盾を孕んだ組織となってしまった。そこで、ヒーロー組織は存在意義を自ら作り上げるために、予防と呼ばれる怪人組織の妨害活動も行なっている。Pストーンを確保することも、予防の内なのだろう。
「奪い合うって、そんなに貴重なんですか?」
「最近まで私も存在を知らないくらいだったから、あれにどれくらいの価値があるのか私には分からないけど、結構必死に上は集めているみたいだから、どうでもいいものではないのは確かね」
「何でそんなものがここに。ここは何だ」
「ここはかつて宝物殿として使われていたところだから、何か珍しいものがあってもおかしくあるまいよ」
俺の肩に鳥が止まり、急に話し始めた。
「なぜそんなことを知ってる?」
「小生は何でも知っとるぞ。金があるからな。金で買えない情報なんぞないぞ。ほれ、お前の個人情報を小生に売れと言ったら、お前は喜んで売るじゃろ」
「確かに」
「北見君、何納得してるのよ。何で鳥がそんな情報を買ったのよ」
鳥は「どうしてかのぉ」と誤魔化して、カァカァ鳴きながら、元来た道を戻っていった。
俺の個人情報を買い取る前に鳥が去ってしまった。
「何なの、あの鳥」
「普通じゃないですね。喋るし、金持ってるし」
「怪人の何かかしら」
「今回あの鳥にうまく誘導されたような気がしますけど、怪人の何かなら、自分達でPストーン回収するんじゃないですか?」
部室で地図の場所を特定したのは、あの鳥だ。存在自体が謎ではあるが、いきなり地図の場所を特定できるというのは、不自然に思える。しかも、ここの昔の情報も持っているとなると、今回のPストーン発見は、あの鳥が何か絡んでいるのは間違いないだろう。
「ふむ」と、森下先輩が一度時間を取る。
「どんな思惑があって、どんな偶然があって、Pストーンがここにあるのか分からないけど、あるという事実は変わらないから」
森下先輩は自分のライトの角度を動かした。薄暗くて森下先輩の表情が分からなくなる。
「だから、北見君がみんなを守ってあげて」
「俺がですか」
思わず笑ってしまった。
「そうよ。今回のことは誰にも言うつもりはないから、すぐにどうこうというのは、ないと思うけど、Pストーンは早いところ処分した方がいいと思う。持っているのは危険よ」
「処分って言っても」
並木と本橋は、これからの金の使い方について話し合っている。まるで、宝くじが当たったら何に使うかを話しているようだ。あの中に入り込んで、Pストーンを奪い取ることは難しい。
それに楽しそうに話す二人を見ていると、あのPストーンを簡単に他の人へ渡してはいけないような気がした。
「意外と簡単に壊れるみたいよ。思い切り落とすだけでも、割れるらしいし。壊れると強大なエネルギーが発生するみたいだから、気をつけて」
「そんな危険なもの処分しろと言われても」
「じゃあ早く売ってしまいなさい」
「売れますかね」
「ヒーローか怪人なら買ってくれるわ」
「怪人側でもいいんですか?」
「いいわよ、私は。上の宝探しなんかには興味ないから」
「そうですか」
「覚えておいて、私はあなたの味方だから。例えあなたと戦うことになったとしても」
そう言う森下先輩の表情はやはり見えなくて、本気か冗談か分からなかった。




