第二十九話 Pストーン
本橋の方を見ると、まだ戦闘は継続中だが、終わりが近そうだった。
本橋は得意技顔面ボコボコになるで、再び顔を赤く腫らしている。
2号はヒーロースーツを着ているため、被害が分かりづらいが、お互い肩を上下させ牽制し合っている。先ほどの俺と1号のような状況のようだ。
今回は勝負になっている。
見つめ合っていた二人だったが、やがて2号が倒れた。
「勝った、勝ったぞ! 勝ったんだ!」
そう言って本橋は両手を挙げて、喜びを爆発させて、数秒後には力尽き倒れた。
千葉支部のエントランスには、1号、2号、香水、蛇、本橋が倒れている。
階段や廊下の奥の方で、様子を見ている職員が近づいてくる様子はない。
並木が手にしていたPストーンを数秒間見つめる。すると徐ろに外へ歩き始めた。
「どうした?」
「今回の冒険はもうエンディングにするわ。ついてきて」
そう言う並木についていくと、森下先輩がやったのであろう、倒れた怪人構成員の山が外にできていて、オマケにイナズマも倒されていた。まだ残っている怪人構成員と森下先輩を中心としたヒーロー部隊が交戦中ではあるが、森下先輩がいる時点で、すでに勝負は決している。
並木が空を見上げる。つられて俺も上を見ると、いつの間にか分厚かった雲が消え、月が見えた。
「鳥さん、いるんでしょ」
並木の呼びかけに応じて、どこから来たのか、鳥がやってきた。
鳥は外にいる奴らを挑発するように、低空飛行してから上空へと上がった。そして上空でゆっくりと旋回を始める。
予備隊員や構成員も一時休戦し、同様に空を見上げる。
「フェニックス」
誰かが呟いた。
闇夜にぼんやりと浮かぶその姿は、不気味で、この世の終わりを告げにきた、悪魔のように、俺には見えた。
「お疲れ」
森下先輩が俺の隣にきた。変身は解いている。もう戦いは終わりということだろう。
「疲れましたよ」
「でしょうね」
森下先輩は、エントランスで倒れている奴らを見て苦笑いした。
「私も一人怪人倒したんだから」
森下先輩が胸を張る。
「お疲れ様です」
「疲れたわ。変な騒動に巻き込まれて」
森下先輩はため息をついて、並木の持つPストーンを見た。
「あげないわよ」
並木が身体をひねって、Pストーンを隠した。
「いらないわよ。北見くんがヒーローに戻ってきたし」
森下先輩がオレの背中に手を置いた。身体中痛いが見栄を張って我慢する。
「そっちもあげない」
「じゃあ力づくで取り戻すわ」
「もう勘弁してください」
むず痒くなって、話を止める。
「本気なんだけどな」
本気ではなさそうに森下先輩が笑った。
「この後の処理を考えると頭痛いわね」
「加藤にやらせてください」
「そうする。で、Pストーンはどうするの? もうこれに振り回されるのは嫌よ」
森下先輩が並木の持つPストーンを見た。
「もう守り切って満足したわ」
並木は上空の鳥を見る。
「壊して」
並木がそう叫ぶと、ヒーロースーツの性能を存分に発揮し、空高くPストーンを放った。
「高いぞ」
鳥はそう言うと、器用にPストーンを嘴でキャッチした。
予想外の行動に驚く。並木はこれだけ奪い合ったPストーンを壊すと簡単に決めてしまった。
「本当にいいのか」
並木に確認する。
「もうこの冒険は終わったから」
「そうか」
鳥は旋回を辞め、更に上空へと上がった。
そして、千葉支部から離れた場所まで移動すると、そこでPストーンを嘴から離した。
Pストーンが自由落下していく。
月明かりで薄く煌めくPストーンは神秘的な物に見えた。
Pストーンを壊す。並木がそれでいいなら、それでいい。我らが会長の判断だ。
そして落下したPストーンは壊れ、数十メートル上空まで火柱を上げた。




