表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/30

第二十四話 逃げ

「参った」

1号の他に5号も警備にいるとはお手上げだ。

Pストーンは5号の手にしっかりと握り締められている。

諦めて逃げるしかないが、先に部屋へと走った並木はどこへ行ったのだろうか。並木を置いて逃げる訳にはいかない。この部屋に入れなかったとしたら、手前の部屋だろうか。L字の一本道で、すれ違わなかったということは、どこか鍵の開いていた部屋を見つけて入ったはずだ。

考えている時間もなく、後ろからやってきた1号が扉を開けた。

「1号が二人?」

5号が戸惑いの声を上げた。

思わず自分の身体を見る。そうか、今は俺も1号と同じ格好なのか。

「なぜ5号がいる。Pストーンの警備は俺で十分だと言っただろ」

1号がきつい口調で尋ねながら部屋に入る。5号がこの部屋にいることにご立腹のようだ。あからさまに不愉快そうである。

「そうだよね。帰るね。お疲れー」

5号が早口でそう言うと、Pストーンを持ったまま部屋を足早に出ようとする。

「いや、待て」

1号が自分の横を通り過ぎた5号を制した。ここにいるなと言っておいて、去ろうとしたら待てという理不尽さもあるが、1号の気持ちも分かる。5号に違和感がある。挙動不審気味で、森下先輩と声も違う。Pストーンを持ち出す理由も分からない。

聞き慣れた声なので俺には分かる。どういう訳だが、並木が5号のヒーロースーツを着ているようだ。

1号に制された5号の足が止まる。

俺と1号に背を向けたまま数秒止まった後、5号が「何か?」と並木の声で尋ねた。

「お前誰だ」

1号が一歩、5号の方へ進む。

1号の一歩を合図に、5号のスーツを着た恐らく並木である人物が、振り向きざまにミドルキックを1号に繰り出した。1号は両手でガードをする。

チャンスとみた俺は、ガードによってがら空きとなった1号の身体に思い切り体当たりをして、1号を吹き飛ばした。1号は保管室の棚に激突し、棚が1号に覆いかぶさるように倒れた。

「行くぞ!」

俺がそう言う前に、5号のヒーロースーツを着た並木は部屋を出て走り出していた。

今日二度目の独り言に少し寂しさを感じた。

並木を追いかけ、俺も部屋を出る。

Pストーンを握ったまま走る並木は、ヒーロースーツの能力を活かして、高速で廊下を駆け抜けていく。初めてヒーロースーツを着て、あれだけ使いこなすことは、通常考えられない。ヒーロースーツをかつて着ていた俺が追いつけそうにない。

侵入してきた時とは違って脱出の時は、上から降りてきたであろう職員と何人もすれ違う。驚いているようだが、何もしてこない。見た目はヒーローであるし、万が一不審に気づいたとしても何もできないのだろう。俺らはヒーロースーツを着ていて、力ずくで止めることはできないし、速すぎて捕まえることもできない。

走っている途中、すれ違う何人かの職員の中に、一人よく知った人物を見つけた。

森下先輩だ。彼女は変身することなく、他の職員同様ただ俺らが走り去るのを見ているだけだった。

その姿に、何となく先輩が、並木にヒーロースーツの予備を渡したんだと思った。

一瞬迷ったが、俺は並木を追いかけるのをやめ、通り過ぎた先輩の元へと戻った。


「逃げないの? チャンスよ」

1号の格好をしているのにもかかわらず、森下先輩は俺と分かったみたいだ。

「先輩は俺らが逃げてもいいんですか」

「言ったじゃない。私はあなたの味方なのよ。特に命令がないなら、私は私の思うように動くだけ」

「やっぱり先輩が並木にヒーロースーツを渡したんですね」

「どうかな。そう言えば魔王君はどうしたの? 姿が見えないけど」

「それは、あの」

俺が言い淀んでいると、森下先輩が廊下の奥の方に目をやった。

「ほら、今の1号が来たわよ。早く逃げないから」

廊下の奥から猛スピードで1号が来る。森下先輩は目を細めてそちらを見ている。

1号は今にも床が爆発しそうな急ブレーキで、俺と森下先輩の所で止まった。

「なぜ5号がここにいる」

1号が先ほどと同じ質問をする。

「私、ヒーローだから、ここにいるのは普通でしょ」

「意味の分からないことを言うな。あいつにヒーロースーツを渡したのはお前か」

「どうかしら」

自分がいないヒーロー部隊は、あまり関係が良くないのだろうか。不穏な空気が流れている。俺がいた時は、ヒーロー同士でこのような空気になったことはない。

「終わったら、説明してもらう」

1号を見ている森下先輩が一瞬だけ俺を見た。そして直ぐにまた1号を見る。

「あなただって、ヒーロースーツを渡してるじゃない。私は奪われただけよ」

「屁理屈を言うな」

「言うなというのは命令? 上司でもないあなたに命令される覚えはないわ。どういう権限であなたは私に命令したのかしら」

いつになく攻撃的な森下先輩。正解なのか分からないが、森下先輩の視線を「行け」というサインとして受け取り、言い合いを続ける二人を他所に、俺は入り口まで全速力で走った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ