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第二十三話 過去2

俺が1号、つまりはヒーロー部隊のリーダーだった時の話。

ヒーローに憧れ、ようやくヒーローになれた時、ヒーロー組織は過渡期にあった。すでに怪人組織の総帥は先代のヒーローに倒れされた後だったが、残党の怪人は暗躍している。怪人と戦い、自分の力が発揮されることに俺は喜びを覚えていた。

俺がリーダーになった頃から、次第に予防が活発になった。予防が活発になるに比例して、自分は何なのか疑問を持ち始める。

ヒーローと聞いたらどう思うか。正義の象徴なんだと俺は思っていた。

だから、正義に反することなんかしたくなかった。例えそれがヒーロー組織の在り方と異なっていても。もはや正義のために戦ってなんかいなくて、組織のために戦っている自分はまさに、組織で働いていたんだと思う。憧れたヒーローはいなくなってしまった。

怪人の表立った活動は減少していたが、裏では資金集めのために活動し続けてる。ヒーロー組織はそれを良しとしない。だから予防として、怪人組織の活動を先に潰す。

それを俺は正義と割り切ることができなかった。

次第に俺から積極性は失われ、後方支援に回るようになった。皮肉にも、後方支援に回った結果、ヒーロー部隊はうまく回り、より戦果を挙げていった。

しかし、俺のリーダーとしての振る舞いに不満が上がり始めた。強いヒーローのリーダーが本来あるべき姿。そう主張するのは、予備隊員だけでなく、組織の職員や、委員会からも意見が上がっているようだった。周囲からの批判というのは、誰から聞く訳でもなく、伝わるもので、俺のヒーローとしてのあり方は周囲に受け入れられていないことは自分でも分かっていた。

しかし、現状上手くいっているため、上から改めるような命令はなく、淡々と俺は俺としてあり続けた。

上手くいっているとは言え、ヒーローだって、無敵じゃない。負ける時もある。大事なのは被害を抑えること。死人は出してはいけない。俺がリーダーとして自分に課した絶対だった。


現ヒーロー部隊リーダーである1号。姓は加藤で、名前は知らない。

当時加藤は予備隊員の筆頭、次期ヒーロー最有力候補だった。

ある失敗に終わった予防。ヒーロー側の被害は大きく何人もの重傷者が出た。幸い死者はいなかった。

俺は失敗の報告のために重い足取りで本部へ戻った。本部の司令室へ続く廊下の途中、その時も今日みたいに加藤は一人廊下の真ん中で立っていた。

加藤が戻ってきた俺に向かって言った。

「あなたのせいですよ」

加藤の語気は鋭い。加藤が俺に不満を持っているのは知っていたので、俺が出撃する時はなるべくメンバーから外していた。わざわざ文句を言うために待ち構えているとは思わなかった。

「分かってる」

負けたらリーダーの責任。そんなこと、これまで何回も指摘され、何回も実感してきた。

「分かってない。あなたは全く分かってない。リーダーのあるべき姿は、そんな逃げ腰の奴じゃない。一番前に立って戦う、そうあるべきだ。だから負けたんですよ」

「お前だって、分かってない」

「何がですか」

「俺のことだよ」

「あなたのことを知る必要はないでしょう。私はヒーローのあるべき姿を説いているんですよ。1号はヒーロー組織の象徴。それを自覚する義務がリーダーである、あなたにはあるんだ」

「ヒーロー組織の在り方が俺には理解が追いつかない。今の予防に何の意味がある。怪人がやってることと変わりがないじゃないか。今日だってそうだ。怪人組織に関わりがある企業を取り締まりに行ったら、怪人が大量に待機していて、返り討ちあった。何だよこれ。取り締まりという名の襲撃だろ。それで返り討ちにあったなんて、これじゃあどっちが正義か分からない」

「それも正義だ。ヒーローは正義だから」

ヒーローは正義。同じ前提を俺と加藤は持っているのに、結論が違う。そんな人間同士分かり合えるはずはない。

「予防を正義と思えるお前は、ヒーロー組織に向いてるのかもな」

「一度頭を冷やしてから報告に行った方がいいんじゃないですか。あなたの表情を見ていると、司令官にだって襲い掛かりそうだ」

「鏡がないから分からない」

「あなたの理不尽な怒りが、今にも暴発しそうですよ」

「俺が感じたのは悲しみだ。ずっとしがみついていたヒーロー組織がおかしくなって、俺はもう掴まっていられない。ヒーロー組織がヒーロー組織でなくなったら俺はどうしたらいい」

「ヒーロー組織はどこまでもヒーロー組織ですよ。あなたの理想は捨てるべきだ。そしてもう一度よく考えてほしい。ヒーローはどうあるべきか」

「もう十分すぎるくらいに考えたつもりだ」

「まだ足りないんじゃないですか」

「もう行っていいか」

「私も言うことはいいました」

俺はヒーロー組織が望むヒーローのあるべき姿と自分がありたいと望むヒーローの姿との狭間で揺れ、耐えきれずに辞めた。


そして今。こうして1号となった加藤と再び向かい合うことになるとは、思いもしなかった。

「どうだ、ヒーローのリーダーは」

「忙しいですね。怪人がいなくならない限り」

「そうか。忙しいなら俺帰るわ」

「戦ってください」

「何でお前と戦う必要があるんだ? なぜ俺がお前の重しになる?」

「あなたの時代の方が良かったと言い出す奴がいる。ヒーローのリーダーは後方支援としてあるべきだと言い出す奴もいる。あなたを倒して証明が必要なんです。リーダーがどうあるべきか」

「お前も大変だな。ただ俺を倒したって証明にはならないぞ」

「なりますよ」

思い込みが激しい1号の性格だと、説得は難しそうだ。冗談も通じない。

そうなれば俺の選択肢は一つだけ。すぐに振り返り走り出す。

「逃げるな!」

 1号の言葉に、一瞬止まりかけたが、足を進める。

「逃げるよ、痛いの嫌だから」

 俺は自分への言い訳として、小声でつぶやいた。

1号が後ろから追い掛けてくるが追いつかれることはない。足には自信がある。

先程、並木にPストーンを確保するよう耳打ちをした。廊下の先、一番奥の部屋で並木がPストーンを見つけているはず。

並木と合流し、1号を俺が引きつけ、二人で脱出。

上手くいくか分からないが、これしか今は手が浮かばない。

奥の部屋に到着し、ドアの認証装置に手を掛ける。施設内の鍵がかかっている部屋は、ヒーロースーツを自動で判別して解錠される。

解錠する音で、鍵付きの部屋かと今さら思った。

あいつ入れてないな。

1号よりも先に一番奥の部屋に入り、すぐに扉を閉める。

部屋は俺がヒーローだった時と変わらず保管室となっていて、予想通りPストーンはあったが、やはり並木の姿はなかった。

部屋には、代わりに5号が待ち構えていた。


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