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第二十一話 作戦開始

千葉支部へは電車に乗り、最寄りの駅から歩いて向かった。

夜になっても、天気は保ってくれて、花火を上げるための懸案事項はなくなった。目的は花火を上げることで、鑑賞ではない。雨さえ降らなければ問題ない。

並木に声をかけ、千葉支部の少し手前にあるバス停のベンチに二人で腰を下ろす。もう終バスが行った時間をとっくに過ぎている。

腹ごしらえとして、花火を入れたカバンからあんパンを三つ取り出し、並木に一つ渡して、一つを自分で食べ始める。

「あんパンをなぜ渡されたのかしら?」

並木が困った表情を見せた。

「雰囲気的にあんパンだろ。食パンじゃ締まらない」

「パンの種類じゃなくて」

「種類じゃなくて、何だよ」

「いや、何でもないわ」

並木が笑いながら、「だから変わっていると言われるのよ」とパンを頬張った。何を言っているのか、よく分からない。

三つの内、余ったパンをカバンに戻そうとする。その時、頭に浮かんだ思いを言うか言わないか迷ったが、言うことにした。

「なぁ、並木」

並木と目が合う。

「どうしたの改まって。私が恋しくなった?」

「そうじゃない。本橋のことなんだけど、違うと思うんだ」

「違う?」

「うまく言えないんだけど、やっぱり本橋がいないと、締まらないと言うか、落ち着かないと言うか」

俺はごちゃごちゃ言葉を並べた後、頭をかいて、照れ隠ししながら、「要はまた解散ってなったら困るというか」と最後に言った。

「寂しがり屋なのね」

優しい笑顔を並木が見せる。俺の傷んだ心の部分を包み込むような表情で、心臓が跳ね上がった。

「そうなのかもな」

思わず本音が出てしまう。

「分かってるわよ。水晶の次はあのアホを探し出すわよ」

「そうか」

恥ずかしいくらい、素直に安堵の表情を見せてしまったかもしれない。でも、いるのが当たり前だった奴がいないという不安は、常に付きまとう嫌なものだった。

「でも、私思うのよ。急に消えたあのアホは、今度は急に現れるんじゃないかって」

「そうだよな」

並木の言葉で、つかえていた物が取り除かれたような気持ちになって、余ったパンも食べることにした。


腹ごしらえも済み、ヒーロー組織の方に目をやる。ヒーロー組織千葉支部は、大型トラックが二十台は停められる広い駐車場が敷地の右側にあり、敷地の左側から奥に向かってL字型のビルが建っている。敷地は、車の通りがない割に広めの国道に面している。

まだ距離はあるが、二人の警備員が敷地の入り口に立っているのが見える。

想定通りだ。

夜になり暗くなった辺りをビルの灯りが照らしている。闇の中で存在感を放っている姿は、RPGのラストダンジョンのようだ。

蛇に伝えた東京本部での陽動作戦の時間は、そろそろのはずだ。

戦力の乏しい俺らにとっては、支部内部の人数は少なければ少ないほどいい。

そのため動きがあるのを待つ。動きがないようなら、中止してもいい。

エンジン音が微かに聞こえた。それから一台、二台、三台と駐車場から、ヒーロー組織のトラックが飛び出していった。

怪人の陽動による、東京本部への援軍だろう。しばらく様子を見たが、それ以上のトラックは出てこなかった。

もう少し行ってくれると助かるんだが、贅沢は言ってられない。

行けると踏んだ俺は、「行くぞ」と並木に声を掛けようとしたが、すでに並木は駆け出していた。

独り言になってしまい恥ずかしい。

並木は何を血迷ったか、入り口へ真っ直ぐ向かっている。「覚悟おおおおお」などと、声もあげ、見つけてくださいと言っているようなものだ。

「あの馬鹿」

慌てて追いかける。

走り込んできた並木を見て慌てた警備員二人は迎え討とうと構えたが、並木は走っている勢いそのまま飛び蹴りで一人倒し、回し蹴りでもう一人もKOする。流れるようなその動きは、まるで舞を見ているようだった。

並木を追いかけるのをやめ、唖然としていた俺は、目の前の光景を受けいるのに時間がかかった。

「いつまで見惚れてのよ」

並木が動けない俺の元へ戻ってきた。並木の声に我を取り戻す。

並木は一人で警備員を倒してしまった。俺、いらなかったな。あと花火いらなかった。

「あのー、花火は?」

「いらなかったわね」

 今の一連の動きで思い出したことがある。Pストーンを奪われた時に、森下先輩が並木のことを普通じゃないと言っていた。並木はヒーロー相手に立ち向かったと言っていたが、普通じゃないというのは、並木の戦いぶりのことだったのではないだろうか。

「お前、何者だ」

「今頃何言ってるの? 相変わらずよく分からない人ね」

「俺にもお前がよく分からない。普通、女子大学生が警備員二人を倒すなんてことないだろ。何か格闘技でもやってたのか?」

「やってないわよ。自己流で鍛えたわ。冒険にはある程度の力が必要だから」

「そ、そうか」

運動神経がいい奴だと勝手に思い込んでいたが、かなりの実力者がここにいた。本橋もそうだったが、みんな普通に鍛えてるんだな。鍛えたら、こんなに強くなれるんだな。俺の一般常識は間違っていたようだ。

支部の方に目をやる。もう始まってしまったからには、やるしかない。当初の予定と大きくズレたがしょうがない。俺らは奪われた物を取り戻しにきただけ。悪いのはヒーロー組織。

必死で並木による警備員のKOを正当化しながら、警備員不在となった入り口から、「さあ、始まりよ」と言う並木について、千葉支部の建物へ入っていく。



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