第6話:『鬼』
ホール中央のダイス水晶に向かいながら、文太の人形を調べるサトウ。よく見てみれば、足の裏に数字が書かれていた。
「ほう、足の裏に数字が」
言いながら全員にそれを見せる。数字は④と書いてあった。
「あぁ、そういやここのやつにも書かれてたな」
ヤマジが思い出したように、ホールの人形の足の裏を見る。そこに描かれているのは①だ。
「ホールが①でAの部屋が④か」
「少なくともあと二体いるわけだ」
「いや、ホールも数に入ってるんなら、残り三体と考えるのが自然だろう」
「人形遊びもいいが、コイツも気にならないかい?」
一ノ瀬とイツカが、ダイス水晶を指し示す。彼女たちの見立てによれば、台座は金属製で、正面に数センチ角の穴が開いているとのこと。その上にある水晶には、赤い矢印のようなものがある。示されているのは「三」だ。
とりあえずBの部屋に行こうかと話がまとまったところで、水晶の中のダイスが、動き出した。
そして動きが止まると、また、奥の方の角から黒い煙が上がってきた。そこから、針のように鋭い舌、獰猛な目を持つ顔、前足と、青黒い体躯を現していく。
トリックアートではない。実態がある。ハリボテではない。腐臭にも似た冒涜的な臭いが漂っている。なにより全身に纏う気配が、この世のものでないと直感するだけの違和感を放っている。
正真正銘、本物の怪物が現れた。
その容貌の禍々しさをまともに受けてしまったサトウは、正気を失った。
「……逃げるんだよぉ!!」
恐怖に耐えかねパニックを起こし、その場を逃げ出そうとするサトウ。とっさにイツカが腕を掴むも、
「話せ!! 私は逃げるんだ!! 逃げるんだよー!!」
と、腕を振りほどいて反対側の角へと走り去っていく。
「ち、ちょっとオジさん!?」
「逃げよう!!」
そんな彼を真似するように、アイナもサトウの後を追っていく。すると怪物は、アイナの後を追って駆け出した。
すぐに距離を詰めて、前腕を振りかぶる。しかしそうして突き出された腕は、空を裂いた。怪物は二人を追い抜くと、部屋の角で黒い煙と共に姿を消した。
しばらくして、全員が狂気から目を覚ましたところでヤマジが提案する。
「さて、あの怪物、多分あれが『鬼』なんだろうけど、対策のためにくくり罠を仕掛けようと思う。どうだろうか」
「意味があるかどうかは分からないけれど、足止めできるとすれば大きいわね」
満場一致で可決されたため、ヤマジは水晶がある壁の右側、Cの部屋近くの角にくくり罠を仕掛けた。
そうして準備を整えたところで、一行はBの部屋へと向かった。ふと気になって、ヤマジは水晶の方に目を向ける。
サイコロは「五」を示していた。