第4話:メインホールと文太くん人形
「……さっきはみっともない姿を見せてしまってごめんなさいね」
そう言ってイツカが頭を下げると、アイナとサトウが声がかける。
「しょうがないよ」
「あぁ、化け物だから仕方ないさ」
(もっとも、どちらが本性かは分からんがね)
そんな心の声は出さないまま、サトウはホールの中を眺めていく。
鏡の壁や水晶ダイスを背にして正面は、何もないただの壁。左右の壁には二つずつ、扉がある。床は一面絨毯で、天井には照明以外何もない。
「さて、この人形は? こいつが鬼ってか? ……ん、なんか入ってるのか?」
文太の人形を手に取り、しばらく弄っていたヤマジが声を上げる。サトウは首を傾げる。
「その人形がどうかしたかい?」
「いやぁ、見た感じ普通にぬいぐるみっぽいんですがね。触った感覚的になんか、中に硬いものが入ってる感じなんですよ。なんか機械みたいなものが入ってるのかも。あとこの手の形、何か持たせる感じに見えますね」
「硬いもの、ね」
「ぬいぐるみに硬いものか、どうしてなんだろうか」
女性陣二人が首を傾げている中、サトウはふと思いつき、鏡張りの壁に歩み寄った。鏡に指をつける様子を見て、一ノ瀬が問いかける。
「何してるんだ?」
「知ってるかい? マジックミラーはガラスの表面に加工するから、指をつけると、指と指がくっつくんだ。けど、これは普通の鏡だね」
「あらオジさん、詳しいのね」
「職業柄ね」
イツカの台詞に、曖昧に微笑む。一ノ瀬が何かに気付いたように腕を組む。
「そうやって見分けるのか。あれ? この前の私の控室の鏡って確か指と指がくっついたような……」
「マネージャーに言って、取り換えてもらうことを勧めるよ」
言いながらその厚みを確かめる。一般的な鏡と同じ、五ミリ程度だろうか。
「んー、五ミリ程度かー。割ってみるかい? それとも先に部屋に行ってみるかい? この中じゃ私が一番年上だが、とりあえず仕切るつもりはないんでね。若いもんに任せるさ」
「私は先に部屋を探索したいが……正直どちらでも構わないさ」
「あとにしてみよう。扉の先に出口があるかもしれない」
「私もオジさんたちと同意見ね」
「いっしょに行ってもいい……?」
「当たり前じゃないの」
不安げに問うてくる少女に、イツカは飴を渡す。
「ありがとう……!」
「よしよし」
礼を言いながら、アイナは飴をポケットにしまう。イツカは彼女の頭を撫でる。その表情が、どことなくあの悪戯小僧と似た雰囲気を持っているのは気のせいだろうか。
何もない壁を見ている状態から、向かって右手前の扉をA、その奥をB、左側手前をC、その奥をDと名付け、まずはAの扉から見てみることにした。