閑話休題④:私はアイドル
二人の女性がそれぞれアイテムを見つけたのだが、大きさ、見栄え的にガイコツマイクに注目が集まった。
ヤマジが呟く。
「マイクねぇ。歌でも歌えってか?」
「……要る? アイドルさん」
そう言ってイツカは一ノ瀬へとマイクを差し出す。それを神妙な面持ちで見つめながら、一ノ瀬が頷く。
「……歌ってみますか」
マイクを受け取り、深呼吸。軽く体を揺らし、短く息を吐く。アイドルモードへ切り替え、華やかな笑みを浮かべて宣言する。
「それでは私のNEWシングルを歌わせていただきます」
鼻歌でリズムを取り、振り付け通りに動き出す。歌いだしのタイミングで、迷いなくスイッチを入れる。
しかし彼女は気付いていなかった。マイクには二つのスイッチがあることに。そして彼女が入れたスイッチは、普通のマイク機能のそれではなかった。
「だいs――あ、あぁあ、あれ?」
歌いだそうとした瞬間、マイクから流れるビート。頭にあるメロディとはまったく関係のない音楽に意識を取られ、またしてもアイドルは歌えなかった。
そんな彼女に、生暖かい視線と言葉が贈られる。
「アイドルはアカペラでは歌えないみたいだねぇ……」
「すごいんだねぇ……音響さんって」
「調子が悪いみたいね」
「げほっ、ごほっげふっ……む、むせただけさ! 何も問題はない!」
涙目になりながら、一ノ瀬は必死に弁解していた。
私はアイドル(のはずなのに……)




