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闇の中に手を伸ばす(仮)  作者: カルマ
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6.謎と疑問は沢山ある

 やっぱり複雑な表情のまま研究室から出てきたオスカーは、こちらをちらりと見てからキッチンに向かっていった。

 それまでずっと植物図鑑やら伝承やらの本を読みあさっていた私はその行動からやっと窓の外を見て、既に木々の間が薄暗くなっていってることに初めて気が付いた。本を読むと時間の流れを忘れるよね。


 ……なんだろう、元世界でやってることとあまり変わらない気がする。


 用意してもらった食事は相変わらず美味しく、時折不思議な味のものがある。やっぱり「いただきます」と「ご馳走様でした」を言うと心底不思議そうな顔をされる。この世界では食前の感謝とか祈りとか挨拶とかはないのだろうか?

 食事中は食べ物に対しての感想を話したりしていた。基本的に相槌をうたれるだけだけど、これは想定範囲内。クールで格好いいし見てるだけでも癒されるからね!

 殆ど無表情か顰めっ面とかだけれど、それもまたいい。


 そんな感じで、今は満腹の状態で私はベッドに座っている。食器はオスカーが洗っているし、私はあまりやることがない。何をしようか考えていると、早くも食器を洗い終えたオスカーがこちらを振り返る。



「先に風呂に入るといい」


「え、いいの?」


「ああ。入る順番が前後したとてさして変わることもない」



 確かにそうだけれど、先に入るのもやっぱり申し訳ない気がしてくる。

 素直にわかった、とは言えず、考え込んでいるとオスカーはタンスのある場所へ歩いていってしまった。



「やっぱり……ぶっ!?」



 悩み始めて数分後、やっぱり後に入るよ、と口に出そうとしたところで布らしき物が顔面目掛けて飛来してきた。

 びっくりして落としかけた布を腕に持ち飛んできたそれを広げてみる。


 それは、オスカーのシャツやローブ、それからバスタオルだった。



「それを着ろ。俺のは着たくはないだろうが、洗濯済みだ。お前の衣服は明日、町へ連れて行く。その時に買う」


「あ、りがとう……」



 ふん、と満足げな声を出すオスカーに何故だか頬が弛む。花の香りが仄かに香るそれは私が着るには大きくて、多分ローブは裾が床についちゃうんだろうな、とか考えて胸が暖かくなっていく。


 でもねオスカー。



「どうした、まだ何か---」


「下着は、どうすれば……?」














 あ、目を見開いてる。ああ耳が赤くなっていく。


 無表情で目を見開いたまま、オスカーは耳だけを赤くながら停止している。私も気恥ずかしさで顔が熱くなっていき思わず目を逸らした。


 生まれてこのかた男性に下着問題について相談したことはない。父親にもない。

 それを今、父親でも家族でもなく恋人でもない男性、しかも自分の創り出した理想の人物に話す心境を四文字で言おう。死にそう。



「あの……」


「……! そ、それも明日、だな。その、今はそれで我慢してくれ……気分が悪いだろうが、すまない」



 声をかけてやっと動き始めたオスカーは、耳を赤くしたまま視線を逸らすと早口でまくし立てて背を向ける。何あの人、可愛い。


 結局私は、言い出せずに先にお風呂に入ることになったのである。






  *






 感想を言おう。大満足である。


 現代日本の文明の利器そのまま、とは言えないものの自動で湯を出す魔具のおかげで髪も体も洗うことができた。ちなみにシャンプーっぽいものに石鹸もあった。

 髪は元世界と同じ長さなので、洗うのに手間取ることもない。



「にしても……」



 湯船によりかかって自らの腹部を見下ろせば、揺れる湯面の中にある私のお腹には黒い線で象られている蝶の刻印があった。

 これはアイリスの腹部にあるはずのもので、転生封印という、転生することで自らの内に“あれ”を封印し続ける術式の証だったはずだけれど……



(私は封印するものなんて無いしなぁ)



 つ、と指先でなぞってみるがこれが何かはよくわからない。魔法や魔術の知識もないし、あったとしてもただの蝶の刻印から何かを読み取るには、封印しているものに触れる何かをしなければならないだろう。



(想像、だけどね)



 こういう時、ファンタジー脳は便利だと思う。色々順応出来てるのはきっと、元世界に未練が無いからだろうか。未練がない理由は、やっぱり友達がいないとかだろうか──……



(いけない、暗い思考は良くない)



 ネガティブに傾きかけた思考を払うように湯から立ち上がる。

 そういえば、湯はどうやって流すんだろう?排水口は見当たらないけれど……後で聞こう。

 そんなことを思いつつ、自分の衣服を洗濯機らしきものにいれるか迷う。これも聞いてみることにしようと判断しつつ、オスカーのシャツやローブに袖を通す。

 ズボンが無いのは多分サイズが合わないからだろう。ローブやシャツはなんとかなるから。



(わ、シャツがミニワンピみたいになってる)



 だぼだぼの袖から手をちょんと出し、裾を引き摺らないようにローブを軽くたくし上げながら元の服を手に持って脱衣場から出れば、オスカーは椅子に座って本に集中していた。

 すぐに私に気付いたオスカーは紫の瞳をこちらに向けて、何とも言えない表情になる。そりゃ見たくもない素足を見たらそうなると思う。耳が赤くなってるのは多分先ほどの名残か。



「あがったか」


「うん、ありがとう……その、服はどうすればいい?」


「ああ、脱衣場の洗濯具に入れておけば明日に干せるだろう……洗濯具はわかるな?」


「大丈夫、おいてあるやつだよね?入れておくね」



 一旦戻って洗濯具に衣服をいれて、リビングに帰りベッドサイドに座って一息つく。

 そういえば聞きたいことはもう一つあったんだった。

 オスカーに湯のことを伝えれば、何度見たかもわからない不思議な表情をされた。



「……ああ、湯は浄水を行ってから様々な用途にあてる。洗濯用水や、薬品の調合に使うこともある。魔力に変換して魔具の充填を行うこともあるため、基本的に流すことはない」



 なんだか気になる単語が出てきたぞ?

 洗濯用水に、薬品の調合。前者はきっと水を洗濯機みたいなものに移すのだろう。その後の水の行方は気になるが、多分再度浄水をするか、魔力に変換して、とかなのだろう。薬品の調合は、オスカーは薬草や薬品を調合することもあると人物詳細に記入していたから理解出来る。

 問題は、魔力に変換。これも文字通りなのだろうけれど、水ってそんな簡単に消せちゃうものなのだろうか?それとも、魔法や魔術から発生したものは違うのだろうか。もしかすると……いや、とにかく聞いてみよう。



「魔力に変換って、水って魔力に変えられるの?」


「いや、普通は出来ない。通常の水は魔力に変換することは不可能であり、魔法や魔術で発生したものはすぐに霧散するものと残るものがある。この場合残る方は変換が可能だ。風呂の湯は井戸から汲んだものを浄水し熱してから一定量転送しているため……、なんでもない、忘れろ」


「う、うん。あの、ありがとう」



 途中まで言って、はっとしたようにオスカーは話すのをやめてしまった。それでも大部分は知れたから、お礼を言う。



「……礼には及ばん」



 ふいっとそっぽを向いて、オスカーは本を閉じると風呂に入る準備を始め、脱衣場へと姿を消した。

 私は考えることが多かったからか、外に出ていないはずなのにいつもより疲労感が強くて眠くなってきた。知らない場所って妙に疲れるよね、うん。



(ひとまず、今日得た情報を纏めないと)



 ベッドの中へもそもそと入り、ぼんやりした頭を動かす。


 まず、この世界には魔法や魔術がある。属性は8つあり、火 水 風 土 木 金 光 闇、となっている。この辺りは元世界で考えていたものと同じだ。


 通常の魔法はこの8つの属性のどれか、または複数属性を持つ精霊から魔力を対価に力を借りることで行使するもの。

 詠唱を使用することで発動でき、熟練者は無詠唱での発動が可能となっている。また、精霊魔法は精霊と契約を交わすことで行使することが可能となる魔法で、魔法は通常の魔法より効果は高く威力も向上するという。精霊召喚も行えるとか。


 魔術は精霊に頼らずに自分の魔力のみを行使するもの。個人の力量が求められるが、8属性の他に魔法剣を創り出したり魔具を作成したりなど幅広い用途がある。

 詠唱や魔法陣の両方、もしくは片方を使用することで発動でき、熟練者は両方無くとも発動が可能である。要するに……



(詠唱は言霊があるからイメージを固めやすいけど、無詠唱でやるにはイメージのみで魔力を動かすから大変、ってことかな?)



 そして、魔法や魔術で発生した物体や水は残るか霧散するかの両方があるらしい。これは推測に過ぎないが、実際の物を使用するもしくは魔力で半永久的に発生させるか、魔力で一時的に発生させるか、ということなのだろう。

 魔力に変換できるのは魔力から発生させたもののみで、元から存在するものは不可能。つまり魔力から出たなら半永久的に発生させたものもその場限りのものも、等しく魔力に戻せるということ。無論、魔力に戻すのにも技術とかは要るのだろうけど。

 しかしそうなると疑問が残る。



(オスカーは“井戸から汲んだ水を熱し一定量転送している”って言ってた)



 これが示す意味は、オスカーは元から存在している水を魔力化させられるということだ。

 だが、オスカーは“通常の水は魔力に変換することは不可能”とも言っていた。それはこの世界に存在する魔術や魔法その他では不可能、なのだろう。



(という、ことは。まさかもう……だめだ、眠い)



 そこまで思考して、眠気がMAXまで達したアズサは夢の中へと落ちていった。

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