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闇の中に手を伸ばす(仮)  作者: カルマ
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1.イケメンでもこの起こされ方は嬉しくない

 密かに書きためていた小説ですが、ちょっと自信がなくなったので投稿するという暴挙に出ました。

 完走を目指して頑張りたいと思います、よろしくお願いします。

 下書きを終えてる分を投稿したら超不定期更新になります。

 はい。私は確かにイケメンと恋がしたいとも、二次元にしか興味が無いとも言った。明言したし実際そう思ってます。

 どうせ恋をするなら自分の理想が良いとも思ってるよ。むしろ自分がもう一人居てイケメンだったら恋に落ちて……ごめんそれは無し。さすがにそのイケメンが自分でも三次元はちょっと無理、というか三次元でイケメンと思う人が限られすぎてる。


 現実逃避で頭が変な方向にこんがらがってしまった。状況を整理しよう。


 目の前に居るのはこちらに黒い禍々しい大剣を向けている青年。

 黒に近い鴉の濡れ羽色の髪は所々跳ねており、少々長いため後ろで結んでいる。

 髪と同じ綺麗な色をした、けれど髪より透明感のある明るい紫の瞳は警戒が滲んでおり鋭い眼光を宿していて、眉間に皺が寄っていても端正な顔は綺麗なまま。というか、かっこいい。問題を挙げるとするならこの私好みの至高の青年は、私が考えて創作した人物そのものであること。



 ともかく、私が言いたいのはただ一つ。なんで私は“うちの子”の世界に入ってるの?






  *






「んー、やっぱり理想が良いよなぁ」



 机に向かって、というよりはだらんと机に寝そべって、私、桜木(さくらぎ) (あずさ)は呟いた。

 視線を机の上、自分の腕の下にある物に送る。そこにある自分のノートには、各ページにイラストとその隣にびっしり書かれたそれぞれの人物の設定集があった。

 起きあがってその中の一つ、特にお気に入りのページを開くと頬がふにゃりと弛む。



「うん、この子だよねぇ」



 ノートを見ながらニヤニヤと頬を弛ませて独り呟くその姿は、端から見たら変人以外の何者でもない行動をしてるが、梓は自分の描く人物やその人物達が広げる世界を眺めるのが好きなのだ。いわゆる創作勢、というやつだ。


 あまり大きな声では言えない恥ずかしいことをしている自覚はある、あるからこそ一人の時にしかやらない。「見られたら悶死ものだよね!」と声に出して自問自答しているのが更に恥ずかしい。



「ああしかし、最っ高。彼氏にしたい。恋に落ちたい。出来ないけど」



 創作をするよりも恥ずかしい半ば自虐的な思考から自画自賛めいた賞賛をする。自分が創った人物……より簡単に言うなら“うちの子”に向けて。


 そのページには愁いを帯びた青年が気怠げに斜め横を向いて腕を組んでいるイラストと、他のページよりも更にびっしり書き込まれた文章の数々があった。


 名をオスカー・シュヴェルツェ。何を隠そう、私の一番とも言えるようなお気に入りである。無論、だからといって他のうちの子達も気に入ってないかといえばそうじゃない、全員可愛いうちの子だ。



(でもね。妄想しやすいのこの子なんだよ。妄想しやすいんだよ。尊いんだよ)



 常時憂いを帯びている瞳が揺れ動くのを想像しただけで御馳走様である。

 そんなことを考えながら、パラパラと満足げにページを捲っていく。

 妖狐、魔人、天使や妖精……10人以上居るうちの子はどれも何かしら関わりを持っており、多分やろうと思えば小説くらいは書けるだろう。そんな才能は無いが。


 ふと、あるページで手が止まる。



「そうだ、一応私の設定もあるんだし書いておかないとね」



 愛用のシャーペンを手に取り、白いページまで捲ってからイラストを書いて決まってはいたものの書いてはいなかった設定を書き込んでいく。



(……で、私の分身のアイリスに瓜二つ、と)



 私は彼らの物語の中に登場する予定はない。

 自分の分身にアイリスという存在を創っている以上、私の設定も書いておきたいだけだ。その子の本体である私は存在のみだけで割り込む気はない。


 二次元は二次元、現実は現実だしね!


 とまぁ傍観者よろしくな自分だが、設定がある以上はなんとなく作り込まなきゃ気が済まなくなってくる。

 大まかな構想を一つ一つ纏めて、それぞれを文にして書き込んでいく。


 凝り性なのだろうか、めんどくさい性格してるなぁ自分、と思いつつもペンは進んだ。



(というか自分の分身と瓜二つってどうなんだろう?普通は分身が本体に似ると思うんだけど……いや、でも私の容姿をファンタジーな世界に持ち込むのは嫌だなぁ)



 お世辞にも自分の容姿は可愛いとは言えないし言いたくない。だからこそ三次元なんてと思ってる部分が強い。


 実際はちゃんとしてればそれなりに可愛い、というのは遠い昔に聞いた母親の言葉なのだが何しろ努力が面倒くさい。世の中の頑張っている女性の方々ごめんなさい。


 そんなことを考えている内に設定をある程度書き終えて、ペンを置くとんーっと気の抜けた声を心の中で出しながら伸びをする。

 何故ここで声を出さずにしているのかは自分でもわからない。体を伸ばすときは声を出すとよく伸びると聞くが、真相はどうだったか。



「あ、もうこんな時間……」



 ふと時計を見れば0時にさしかかろうとしている。睡眠時間が長めの梓は本来1時間は早くに寝ていなければ朝に起きるのは難しいのだが、今まで時間にまったく気がつかなかった。

 存外遅くまで起きてしまったらしい。



「はー、うちの子達を眺めることが唯一の娯楽だわぁ……」



 もそもそと、呟きながらノートとシャーペンを片付けて電気を消しに少し歩く。電気が消えた瞬間は少しだけ心細くなり、一気に頼りにならなくなった視覚に不安を覚える。


 真っ暗な室内はいつも慣れず、やや手探りでベッドに入ると先程の自分の呟きに「寂しい呟きだなぁ……」と苦笑する。泣いてないよ?



(さて、今日は良い夢を見れると良いな)



 毎日毎回殆ど夢を見ているが悪夢は見たくない。誰しもそう思うだろう、私だってそう思う。

 特に───“あんな夢”は。


 すぐにやってくる眠気にゆっくりと目を閉じ、ぼんやりとした頭で思考は止めずに眠気に身を任せる。


 そういえば昨日は幸せな夢を見た気がするな、また見たいな……と薄れゆく思考の中で梓は思った。それが寝る前の、最後の記憶である。





───


──


─……





「……おい、起きろ」



 やや遠くから聞こえた低く艶やかな男性の声にぼんやりと思考が向かう。けれど、私はまだ眠りたい気持ちが大半を占めていた。あまり寝れてない気もする。


 かけられた静かで落ち着く声は苛立ちや怒りや警戒、困惑といった様々な感情が声色に滲んでいる。起こされたくなくて、梓はいやいやをするように抱き締めた枕に頬ずりする。

 ん?とやっと男性の声に疑問を持つが、眠気には勝てない。



「っ!?いっ……!」



 しかし眠ることは叶わなかった。

 突如体に降りかかる浮遊する感覚と強い衝撃がそれを許さず、更に背に走る痛みが微睡みの中にあった私の思考を現実へと引き戻し、同時に覚醒させた。



(何!? 何、強盗!? 犯罪者!?)



 瞬時に頭の回転は普段より早くなり、背中の痛みに顔をしかめながらもうっすら目を開く。

 しかしそこに居たのは強盗や犯罪者ではなく、激情に表情を歪ませた“うちの子”、オスカー・シュヴェルツェだった。






  *






 そして冒頭へ至る。

 はい、私です梓です、こんにちはこんばんは、いや今目が覚めたからおはようございますだろうか。


 何が起きたのか、理解しているような理解していないような頭でオスカーを見つめたまま硬直する私と、多分恐らく私を警戒して鈍色に輝く両刃の大剣を向けたまま、次にどうするか悩んでいるオスカーとのしばしの見つめ合いが続く。


 何かまずい。色々まずい。


 自分の直感がとりあえずそう告げてくるが動くことが出来ない。背中、痛い。というか状況を大体は理解も把握も出来たけど飲み込めない。

 そんなこんなで梓は硬直したまま瞳を揺らしており、更に数分した後に先に動いたのはオスカーだった。



「貴様は何故俺の前に現れた!!」



 開口一番、怒号。肩がびくりと跳ね、梓の身体は一気に恐怖で震えて縮こまった。視界には涙まで滲み、オスカーの顔がぼやけて見えなくなりそうになる。

 だが泣いてる場合でもない、この状況をなんとかしなければならない。


 まず大剣を向けられる理由。そして怒鳴られる理由。駄目だ、見知らぬ人物が家の中に居るという時点で充分理由になる。

 私だってそんな状況だったら武器になる物を向ける。リモコンとか。

 光景を思い浮かべてみる……リモコンを構える私。ギャグかな?


 いやそんなことを考えている場合じゃない。

 ヤバい確実に詰んでるとしか言えない状況だ、これはもうなんとか言い訳か嘘かで押し通るしかないかもしれない。


 だが私が口を開こうとするより早く、またもやオスカーの声が発せられる。そしてその内容は驚愕と更なる疑問を梓に与えるものだった。



「貴様が消滅してなかったのは僥倖というものだな、貴様にとっては俺の復讐なぞどうでもいいだろうが……!」




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