5。
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名前:フジカワ・さより
性別:女
年齢:43
職業:倉庫番・LV2
体力:32
魔力:2
攻撃:20
防御:10
指技:LV1
雑草根性/経験還元
称号:異世界人
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うっ……。
うわぁああぁぁーっ!?
待って待て待て!
なんじゃこら? なにこれ!
弱っ!!
私、弱っちぃー!
期待してなかったけど、皆との落差が激しいっー!!
「……………………はい。では終了ですな!」
オルネンさんがステータス一瞥したあとに何事もなかったかのように終わらせようとしたっ!
それは憐れみからの配慮ですかっ?
それとも見たくもなかったゴミステータスなせいですかぁっ!?
「……ぅわっ、なに今の? マジでショボくね? なに、あの人って一般人以下なわけ? うけるー!」
見ちゃいけないものを見てしまった……という顔をする京子ちゃん達の中で、空気読まない太助君が私を指差し笑い声をあげる。
それにつられてなのか、『勇者』が笑ったからのか、周りを囲む兵士さん達からも忍び笑いが漏れだした。
「レベル2ってなにー? 二歳みたいなもんかな? じゃ、オバサンそう見えて二歳なんだー、若いじゃーん!」
「……ちょっと、やめなさいよっ」
「『勇者』でもないじゃん、何しにきたのー? オバサーン? こっちで人生やり直すとか? そうだよねー、マジでちゃちいステータスだもんね、やり直したいよねー」
知りませんよ。勝手に呼ばれたんですから。
そんでやり直せるならやり直したいね、やはり。
どうせなら異世界転生とかにしてくれりゃいいのに……本当になんでこんなオバサンを呼ぶんだよ……。
「ねーねー、やっぱりオバサンは間違い? あのオバサン、間違って呼ばれたの?」
「……は、そのようです。私の責任で……」
今度はオルネンさんに絡み、その答えにますます吹き出す太助君。
兵士達も『弱い』『役立たず』『無駄な召喚』とかいいだしてる。
間違っちゃいないけど、自分でも役立たずだと思うけど……そろそろ怒っていいかな?
「いやぁー、でもあれだよね。やっぱり『勇者』としてはさ、そんなオバサンでも見捨てちゃいけないよねー。あーあ、ホント『勇者』ってたいへ……」
あ、なんだ、面倒みてくれるんだ太助君。口は悪いけど良い奴じゃん?
と思ったら、雄一君がカツカツと太助に近寄り、いきなり彼をひっぱたいた。
─バチーンっ!
『雷の勇者』の一撃だが、そこは『風の勇者』。倒れたりせずに踏ん張り、雄一君を睨み付けた。
「っ…!…な、何すんだ!!」
「鈴野、藤川さんに謝れ」
「はっ? 意味わかんねぇしっ!」
「わからない? どうしてわからない? 言葉を喋っているのに、自分が何を言ったかもわからないのか? わからないで喋っているのか?」
「は、はぁ? お前こそ意味不明でバカ…」
「俺達は勝手にここに呼ばれたんだ。確認も準備も心構えもなく、いきなり、無理矢理だ。それなのにどうして同じ立場の彼女を、貶せるんだ?」
「……っ、や……それはステータスが……」
「ああ、確かに藤川さんは間違って呼ばれたのかもしれない。ひょっとしたら『勇者』である俺達の巻き添えをくったのかもしれない。だから俺達は『勇者』として良い評価があるのに、彼女にはないのかもな。だとしたら俺達も彼女に深く詫びるべきなのに、どうして笑えるんだ?」
「それは違うだろ! 俺だって被害者だっ!」
「そうだ、被害者だ。ことこれに関しては『異世界人』とついている俺達は皆揃って被害者。なのにより立場の弱い人間を見つけたら
、早速お前は天狗になったな? そんなに誰かを見下すのは楽しいのか、『勇者』様?」
「……っ…」
雄一君……凄い喋ってるなぁ…ほぼ無表情で…。
太助君が早くも涙目だ。仕方ないな、無表情での正論捲し立てって怖いよね。
「…それに、この国の品性もどうだかな。自分たちのルールに当て嵌めてだけ評価して、それに見合わなければ陰口と嘲笑。近しい兵士がそんな下劣だと不安ではないですか、王様?」
今度は祐君が王様に意見をしだした。
腕組み仁王立ちで、眉間にシワをよせて怒ってますね、彼。
「無理矢理召喚した、悪かった、保障はする。その保障がこの差別でしょうか? 随分と選り好みする保障ですね」
あからさまな罵倒に兵士達から殺気が飛ぶ。
あぁぁぁー……。 待て待て、青少年達よ。
ちょっと待て!
「ちょっと、待ってくれるかな?」
「……藤川さん?」
正義感が強いんだろうな、雄一君。
反骨精神がそこそこあるんだろうな、祐君。
だけどね、ここは日本じゃないの。
言葉は通じるけど、異世界なの。
何が良くて何が悪いのか、私達は知らないんだよ。
皆を集めて円陣を組むようにして、内緒話を始める。
「あのね、偉そうな事を言うつもりはないけど、ちょっと無謀だよ君達。特に一乗寺君」
「……? 何が、ですか?」
「理不尽を理不尽と言える強さは大事だよ。でもね、状況をみようよ。王様っていう権力者に喧嘩うってどうするの? いくら強い勇者っていわれても、この世界のこと何も知らないんだよ? 簡単に殺されるかもしれないじゃない」
「……」
今現在、私達は六人しかいなくて、六人だけの弱者なんだ。
『勇者』は必要だろうけど、年月をかけていくっていう計画なら"代わり"はいくらでも呼べるんだよ。
だからあまり……刺激するようなことはしないほうがいい。
「……そういうことも考えられるけど……でも……そうよね……」
「最悪のケースは常に考えておくべきって事かしら…」
「ないって、殺されたりしないって。俺達『勇者』だぜ?……だろ?…」
「だからその地位の保障とか、確実じゃないって話だろう。あと、とにかくお前は藤川さんに謝れっ」
「わ、わかってるって……その、すんませんでした……」
いやぁ、ホントに酷いよねー? とは言えないが、笑って許しとく。
まぁ心は流血してますが?
波風立てたくない日本人の気質オバサンは曖昧に笑うのが得意さ。
どっち付かずの国会議員みたいにうまい具合に流されるのは、意思が強い子とかには嫌われるだろう。
現に一乗寺君はちょっと納得いってないって顔をしてる。
それは私が曖昧に許したことか、私なんかが一乗寺君を非難したことか……。
……えっーと、フォローしとくか。
「やっぱり皆、異常事態で少し慌ててるんだよ。もっと冷静なら私に何かいわれるまでもなく気づいてたと思う。だって直ぐに私の話に納得してくれたしね」
「……はい…」
「でも皆は柔軟な思考を持ってるってことだよ。常に変化する今にちゃんとついていけてる。うん、『勇者』はそうでなくちゃね!」
「藤川さんもかなり適応してますよね?」
「私? 私はただ流されてるタイプだよ。『勇者』でもなかったし、死なないようにまた流されてみるだけかな?」
『勇者』じゃない私は皆とは一緒にいられないだろう。
エリートコースを往く皆とは違う道を歩かせられるだろうけど、それでも死ぬ気はない。
「……さて、そろそろよいか? 『勇者』達よ」
王様から声がかかる。
大丈夫、皆頭がいいから、立ち回りさえ間違わなければ大丈夫。
何か事を起こすにしても、準備と情報が大事だって知ってるはず。
よし、ここからは私は私の事を考えるぞっ!
一番立場がゴミなんだから、マジで死亡フラグが乱立してる状況なんだ。
皆とはスタート地点が違い過ぎるのを嘆いていたって解決にはならない。
なんとかして、それでもやっていかなければ……。
自分のゴミステータスを思いだし、私は深く深く……溜息をつきそうになり、飲み込んだ。
溜息はくと幸せが逃げるんだよ!
梶原雄一(14)。
身長が180を越し、実用的な筋肉を持つ出来上がった体の男子中学生。成績は上の上。
両親は大学病院医師で兄は警察官僚、本人は文武両道で正義感溢れるとハイスペックだが、融通がきかないので友人は多くない。
教科書に載ってる事は何でも出来るが家庭環境のせいかコミュニケーション能力が難あり。
合気道と何故か華道を嗜む。
年の離れた兄を含め大人を無条件に敬う精神が根付いているので、サヨリステータスがゴミでもバカにはしない。苦労してるな……と憐れむだけ。