3。
絶望しかない……。
ダメだ、絶望だ。
歳をとると希望より絶望が増えるんだよ。
こんな枯れオバサンだと尚更希望の花が咲くなんてことが無くなっていく!
それが異世界でも続くなんて……。
いやだぁぁ…………。
オルネンさんについていって、王様と面会して、やっぱりここは異世界だと突きつけられた。
絶望だ。
私達は異世界から召喚された『勇者』で、世界を救うのだって。
何から?
『悪神』からだってよ!
魔王じゃないんよ、『悪の神』だよ!?
ちょっとまてよそれはラスボスの後に出てくる真シナリオとかのボスだろっ!?
『神』に挑むなよ人類、『神』は『神』同士で争えって!
絶望しすぎてまたボタボタ泣き出した私を京子ちゃんが慰めてくれた。
ああ、天使京子。君こそ愛の女神だっ!
私のあまりの汚さに引いたのか、王様がひきつった声で説明を続ける。
「…勿論最終目標は『悪神打倒』であるが、いかんせん人の寿命は短くまた技量も拙い。『神』に刃が届くには時間が必要だ」
かくゆう王様も御高齢だ。
髪も髭も真っ白、シワも多い。
「そなた達には『勇者』として研鑽を積んでもらうが、その技と経験を後世に伝えてもらうのも大事な役割だと覚えていて欲しい。そなた達の代では叶わなくとも、受け継がれた『力』が後の世で大きく花開き、鋭き刃となり悪を滅ぼすのだ。決して、そなた達の努力を無駄にはしない」
……おおっ。
おお? なんか、なんかいいな、今の。
受け継がれていく力って、なんかいいよね。
自分の何もかもが無駄にはならないって良いかも。
何がなんでも倒してこいっていう、権力者に有りがちな横柄さもないし、王様、かなり良い人?
……いや、いやいや、本人確認も無しに召喚なんて誘拐してんだから、ろくでもないか。
為政者としてはそういう悪い部分も必要だろうけど……。
「いきなり戦えとは言わん。じっくり考えてくれて構わん。下世話な話だが、そなた達異世界人は我々よりも優秀な種を持つ。子孫繁栄に励んでくれても一向に構わん」
……うーわぁー……。
子作り勇者って……なにそれ有りなの?
確かにそういう戦いもあるっちゃあるだろうけどさ。
「えっ!? それってハーレムフラグじゃねぇー?」
そうだよ、つまりはそういう事だよね。
でもこの場合、ハーレムというより種馬なんじゃ……。
あ、因みにハーレム発言したのは少しアホっぽい男子ね。
名前は鈴野太助っていうんだって。
アホっぽいけどノリとかいいし、顔もいいからかなりモテるだろう。
ただ、中学生という性に好奇心ムキムキな時期にありがちな下品さが目につき、かなり減点だけど。
黙ってたらいいのに惜しい奴。
なんて偉そうに言う資格ないな、この鼻水ババアに……。
「……あの、私達、帰れないんですか?」
京子ちゃんとは違う女子、沢村綾ちゃんが怒ったような顔で王様に質問する。
彼女は京子ちゃんとは違い、勝ち気で運動ができそうな健康的美少女だ。
「……それは出来ない。誠に申し訳ないが、その方法は確立されてないのだ。無理矢理そなた達を招いた保障は出来うる限りしよう。許せとは言わない、ただ、諦めて欲しい」
「……そっ……そんなっ」
王様の苦しそうな発言に京子ちゃんがポロポロ泣き出してしまった。
ああ、ババアと違い涙まで美しいっ!
ささ、天使よ。この良い香りのハンカチでどうぞ涙を拭って……まぁ、天使のハンカチだけどね。
「……それはひどいっ……」
「いやだ……帰してよっ! 私、嫌よっ、こんな……」
「……最悪ー……」
京子ちゃん以外の子達もそれぞれ悲観してざわめきだした。
仕方ないよね、そうなるよ。
あんまりにもいきなりだもん。
しかも前途ある若者、まだ中学生だよ?
おばちゃんなら諦めもつくけどまだまだやりたいことあったろうし……。
……ん? そうだ、私ったらおばちゃんなんだよ!
「あ、あの! 王様、質問いいですかっ!?」
シュピッと挙手して王様に伺いを立てた。
敬語とかメタメタだけどそこは許してくださいっ。
「……構わん。なんだろうか?」
「私、明らかに彼等より年上ですっ! 『勇者』とか時間をかけて成長とか、どう考えても年齢的に不適切な人材です! 間違いだと思うのですが、どうでしょう!?」
「……む…。…うむ、暫し待て」
あ、ホントだ年寄りだコイツ……ってな目で王様が私を確認し、側に控えていたオルネンさんを呼んでこそこそ内緒話をしている。
ああ、近頃耳も聞こえ難くなってるから何にも聞こえないなぁ。
『…なんだ…あの年増…なぜ…』
『…それでも何かの利用…再利用……』
『いや……あれでは子供も産め……』
っとか何にも聞こえないわっ!
「……勝手に連れてきて勝手なことを……失礼な奴等だ。気にしないほうがいいですよっ」
違う種類の涙が出そうになってるのを励ましてくれたのは梶原雄一君。
いかにもスポーツしてますって感じの体に正義感が強そうな瞳、日に焼けた肌が印象的な好青年だ。
因みに我々の中でも一番背が高い。中学生でこれかよ、発育いいなぁホント。
「……あんまり否定的な事は言わないほうがいい。僕達はここの事を何も知らない、圧倒的不利なんだから」
怖い顔をして王様を睨む雄一君を諌めたのは最初からリーダー力を発揮していた一乗寺祐君。
ダントツイケメン、冷静な判断力、そこはかとなく放つ"デキル"男臭。
ねぇ、ホントに中学生? と聞きたくなるほど完成されてる男子だ。
天使の雛木京子ちゃん。
勝ち気な沢村綾ちゃん。
チャラい鈴野太助君。
渋い梶原雄一君。
完璧っぽい一乗寺祐君。
以上5名が『勇者』として呼ばれたんだよね。
私?
私は絶対に巻き添え一般人です、間違いない。
このキラキラした若者達に混じれる気が微塵もないよ。無理無理、"掃き溜めに鶴"じゃなく"鶴溜めにゴミ"だよ。
だから出来るなら私を帰して欲しいんですけど……多分無理なんだろうな。方法ないって言ってたし。
それならそれで私の居場所を作らなければならない。
京子ちゃん達と冒険に行くなんて無理。
オバサンは体力ないし筋力ないし、足手纏いになるのが目に見えてる。
もっと若いなら……嫌だけど誰かと結婚して子供産んで国に貢献すれば良いんだろうけど、この歳じゃ無理だよね。
最悪、出産マシーンなんておぞましい物にされてしまうかもしれないから、そっちにならないように何とかしなければならない。
本当にあと10歳若ければ……いや、それでもオバサンかな……。
「……よし、それではそなた達の能力を開源しよう。それにより勇者かそうでないかが解る。勇者でないとしても我々の事情に巻き込んだのだ、生活の保障はさせてもらう」
おおー……良かったよ、一先ず良かったよ。
生活保障ってのがどこまで保障してくれるか知れないが、言質はとった。
王権独裁なら簡単に覆る口約束だけど、そこまで悪党じゃなさそうだしとりあえず安心しよう。
オルネンさんが水晶の塊みたいな物をもって来る。
虹色の水晶だ、キレイー。
「これは個人のステータスを発現させる道具です。どうぞお一人ずつ、手を触れてみてください」
「ステータスっ? マジでゲームじゃん!」
そうだねー、ゲームだねー。
そんでノリノリで一番最初に触ろうとしてる太助君よ、君って奴はもう少し悲壮感とか緊張感とかないのかい?
泣き叫べとはいわないけど、ちゃんと現実をみてる?
ヴァーチャルリアリティーとかじゃないのよこれ。
オバサンを見なよ。
誰よりも現実見たくないのに見てるから、涙と鼻水で化粧は落ちてるし汚いし。ああ、バッチいな。
あぁー嫌だな。
顔シミがばれるっ。こんなピチピチノーメイクな子達と一緒にいるとよけいに老けが目立つっ!
「よぉーし! いっちばーん!」
メイク直しをすべきかどうか悩んでるうちに太助君が元気よく水晶に手を触れた。
すると……。
沢村綾(14)。
日本人離れした手足の長さを持つちょっと勝ち気な美少女。成績は中の上。英語の他に仏語・独語・露語を使いこなす才女だが、他の教科はほぼ平均。部活は水泳部。
性格がきつく目付きがちょっと悪いので同年代の友達が出来にくいのが悩み。
語学力を活かした仕事に就きたいと、今度はアジア圏の言葉を勉強中。
サヨリさんをオバサンと言った最初の子。悪気はない、真実を言っただけ。