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初日

この作品はフィクションであり、脚色があります。

一応、作者の経験を踏まえながらですが、その先に夢や希望は無いかも知れません……。

 街なかにあるきらびやかな建物。

 賑やかそうで人目を引くが、その実、入ろうとすると妙な抵抗を感じるその店舗。自動ドアが開く度に聞こえる騒音。中を透かし見れば、人が並んで座っている。

 狭い通路の足元には箱が積まれていたりして、行き来には不便そうだ。それでいて客であろう座っている人の数はそれなりに多い。


 パチンコ屋。


 その響きに一般の人は眉をひそめる場合も多いだろう。本来なら法律で禁じられているはずのギャンブル。それが景品を介する事で公然と行われている。

 白黒はっきりしないグレーゾーンの遊戯施設。それでいて多少の盛衰はありながらも滅びることはないようだ。


 そんなアンダーグラウンド臭のする遊戯施設に新たに脚を踏み入れる者がいた。



 出宮いずみや玉雄たまお、26歳。とある商社に勤めるサラリーマンだ。新入社員の域は脱して、生活は安定してきている。その代わり大学時代の友人達とは疎遠になりつつあって、趣味と呼べる物も無く、女性と出会う機会もない。

 休日は家でゴロゴロしてるか、ゲームをするかといった自堕落三昧。無為な時間を過ごしている自覚はあった。

 とはいえ新たなことを始めるというのも勇気がいるもので、今年こそはと思いながらもはや数カ月が過ぎていた。



 休日のある日、買い出しの為に家を出た玉雄は、行列を作る人々を見かけた。


「パチンコかぁ」


 行列の先頭まで来てみたら何のことはない、開店前のパチンコ屋に並んでいたようだ。開店の1時間前から並んでいるある種、情熱的とも言えるそれらの人々の事が少し気になった。


 パチンコ店と言うとどこか後ろめたい気持ちにさせる。ぱっと見は、華やかな雰囲気を醸し出しているが、中を覗くといかついおっさんがタバコ片手に貧乏ゆすりしながら台と向き合ってる。そんなイメージだ。

 並んでいる人達を見ても暗い色の服を着た人が多く、じっと黙って過ごしている感じ。

 それなのに妙に惹きつけられる自分を感じて戸惑ってしまう。


 家に帰った玉雄は、ネットでパチンコについて調べてみることにした。そこでパチンコの始め方などを調べ、上がっている動画を見るうちに、どっぷりとその世界に引き込まれていた。




「来ちゃったよ」


 調べるうちに少しくらいなら、やってみるかという気になってしまっていた。パチンコ番組を見ると、4円の台で負けつづけて4万ほど。1円パチンコなら、1万円ほどの計算。もちろん、負けが込む前にやめてしまえばいいだけの話だ。

 まだまだネットで調べ始めて間もない基礎的な知識だけで、パチンコ店に挑むことにした。


 パチンコは基本的に負ける遊戯だ。でないと街なかにこんなにパチンコ店が立ち並んでいない。台の費用、従業員の給与などを支払って黒字になるようでなければ成り立たない。

 パチンコの楽しみ方としては、いかに浪費を抑えて演出を楽しむか、たまの当たりを喜べるかにあると言える。

 パチスロと違って、そこまでの技術や知識を要求されないのも素人には敷居が低い。

 パチスロの場合は目押しの技術はもちろんとして、台の設定を見抜く知識が求められる。台ごとに大当たりの確率に変動があるらしく、高設定を選び抜くのが勝つための必須条件らしい。


 その点でパチンコで大事なのは回転数のみと言ってもいい。もちろん、詳しくみれば色々と得する情報、確変率やら潜伏率、小当りやら引き戻しやら台ごとの個性はある。しかし、台ごとに確率の設定があるわけではないので、基本リールをどれだけ回すかがポイントとなる。これは釘やら玉を打ち出すバネのヘタリ具合なんかで、狙った位置に打ち続けられるかが決まってくる。

 そこでパチンコライターなどが気にするのが、千円で何回リールが回ったかという回転数。美味しいと言われる台だと24回転、それなりに狙える台で20回転、18回転くらいまでが五分五分、それを下回り始めたら移動を考えるべきとか……動画知識だが。

 まあ、素人でも分かりやすいボーダーラインなので、それを目安にやってみようと思う。



 とりあえず店内を歩き回ってみる。


「思ったより小さいんだな」


 肩幅よりは少し広いくらいの大きさで、並んで座っていると隣が気になりそうな距離しかない。

 1列に10台ほどのパチンコ台が並び、その角の部分にはその島にどの機種があるかが記載されていた。上を見ると旗がさしてあって、4円、1円と貸し玉金額が書かれている。素人の俺は当然のように1円のコーナーへと向かう……が、途中に2円というコーナーもあって少し立ち寄ると、この前テレビで見た台が置かれていた。確か稼働してまだ2ヶ月も経っていないはず。


「安価な台は古いのばかりかと思ったら、そうでもないのかな……」


 人気ロボットアニメの続編にあたるアニメを題材にしたパチンコ台だ。


「目に止まったのもなにかの縁かな」


 1円のコーナーに行くつもりだったが、この機種を打ってみる事にした。



 パチンコ台のモデルは、Zガ○ダムというアニメだ。宇宙戦争を舞台に主人公が様々な障害を乗り越えていくようなストーリー。

 ガ○ダムの7年後の世界とあって、前作のキャラクターなども出てくる。登場人物の多くが死んでしまうため、鬱アニメの1つに上げられる事もあった。

 もう30年以上前のアニメになるのか。俺が生まれる前だな。


 パチンコの機種としては、確変機と呼ばれるもので、大当たり確率1/319.7でミドルスペック。1000円で20回転をキープしたとして、16000円でようやく320回転。2円パチンコだと半額とはいえ8000円は回さないと当たりが見れないということになる。

 ここで表示される確率というのは、リールが回るごとにジャッジされる確率なので、実際に320回転すれば当たるかというとそうではない。

 現実のくじ引きだと、引かれたくじが無くなっていき、最後には当たりが出てくる訳だが、パチンコの場合は引いたハズレがまた箱に戻されているからだ。

 なので320回転して、その間に当たる確率は66%くらいになってしまう。約2/3しかない。

 絶望的な数字に思えるが、別に320回も回さなくても、当たる時は1桁回転しかやってない時でも当たってしまう。それがパチンコらしい。

 そして、一度当たるとその後の確率が変わる可能性がある。それが確率変動と呼ばれるシステムで、Zガ○ダムの場合は当たる確率が3倍ほどになるらしい。それでも1/128くらいでまだまだ厳しいのだが……。その分、1回の出玉がそれなりに出るということだろう。


「まあ、やってみるしかないよな」




 台に座って千円を投入。250発の玉が排出される。残り250発は玉が減ってきた時に、自分で貸出ボタンを押すことで追加できるようだ。

 まずは左打ち。盤面の左側を落ちていけばさほど工夫を凝らす必要はないのだが、人間狙えるモノがあればそれを狙ってしまう。左上の釘の間に落ちるようにハンドルを調整する。

 そうする間にヘソと呼ばれる中央下のスタートチャッカーに玉が入り、スロットのリールが回り始めた。

 改めて中央にある液晶画面に目を向けると、スゴロクの目のような四枚の板の上に、作品の主人公が立っている。その手前をリールが回る演出だ。

 場所はキリマンジャロでターゲットとなっているのは、研究所で4番目だからフォウという安直な名前を付けられているメインヒロインだ。

 もちろん、リール1回で当たるはずもなく、バラバラの数値で止まる。その後、リールが回っている間にヘソに入っていた保留分で次の回転が始まっていく。こうやってリールを回し続ける事で、台に決められた確率を引けるかが勝負となるのだ。


 そしてそれはいきなり始まる。

 液晶下のZの文字を形どった役物ギミックが、せり上がり、派手な音と共に主人公の乗るZガ○ダムがこちらに向かってビームライフルを発射。プレッシャーアップの文字と共に、リーチの音声。スロットの3本のリールの左右が同じ数字で止まって、中央だけが高速で回転。やがて数字が消えて、画面がアニメのワンシーンを再生しはじめる。

 巨大なMSの姿に次々と破壊される一般機。そこへ前作の主人公が現れ、敵の注意を引くために接近を試みた。ここで画面が止まって、近付こうとするMSの上に数字が重なり……リーチと違う数字で止まった。いかにも当たるかもという演出から、すっと静かな状態に戻っていくのがパチンコの演出だ。しかし、背景が違うストーリーに切り替わる時、第三勢力であり次作の敵になっていく敵の女司令官のシルエットが浮かび上がる。


「これは何かあるのか?」


 と思わせる演出だが、この機種は潜伏で確率が変動することはないらしいので、単調さを消すための演出だろう。それでも次のステージに期待をもってしまう。この辺りの次に引きずる演出が、続けて打とうと思ってしまう人間の感情に揺さぶりをかけてくる部分だ。


 そうこうするうちに、最初の千円を消化してしまい、回ったリールの回数を確認。台の上部にデジタル式のカウンターがついていて、数日間の大当たり回数や何回リールが回ったかの回転数が書かれている。


「30回……だと」


 目安となるのは千円20回転、しかし今打ってるのは2円パチなので、二千円打った事になる。つまりは15回しか回っていない。

 ヘソに入ると賞玉と呼ばれる戻り玉が4発ほどあるので、回転数が落ちるとそれだけ損となる。もちろん、リールを回した回数がそのまま大当たりの抽選回数なので、回転数が少ないということは、2重に損してる感覚になる。

 とはいえこの店舗でこの機種は1台。移動する事もできない。仕方なくそのまま打ち続けることにした。

 すると次の千円が終わった所で68回転。千円辺り19回転まで上がってきていた。


「なら打ち続けてみるか……」


 こうした妥協が魔物なのだろう。一度打ち出したら、安易に乗り換えはしたくない。ほどほどにリーチがかかり、中には派手な演出も絡んでくる。

 徐々に回転数も上がって、20を越え始めると後は回すだけだという感覚に。


 気づけばあっという間に5千円を投資。途中、画面上部の役物が落ちてきて戦闘機型に変形、敵とのバトルで主人公が参戦という展開もあったが当たらず。

 結果としては190回転。目安となる20回転は越えていなかったが、最初に15回転だった事を考えるとその後は20回転回っていた計算だ。

 とはいえ2円パチ。想定よりも消費が2倍なので、ここは諦めて席を立つことにした。

 もっと色んな機種を試してみたい。

 気分を変えるのと、その店の1円パチに気になる機種がなかったので、店を変える事にした。


打ってる機種を伏せ字にしてますが、丸わかり。でも二次創作じゃないから大丈夫ですよね……?

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