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ただの自己満足のはなし

作者: ハヤト

 自己満足だろう。

 沙織だってきっと今更そんなことは望んでないだろうし、裕太だってそうだったはずだ。

 だから、それはただの俺の自己満足でしかない。

 

 小学一年の頃、俺たち三人は出会い、そしてこれまで共に多くの時間を過ごしてきた。

 どうなんだろうか。

 きっと沙織は中一の頃には、裕太のことを意識していたんだと思う。

 鈍感なお前は気づいてなかっただろうけどな。


「裕太って、わたしのこと、どう思ってるんだろう」

 

 そんなことを中一の俺は相談されてたんだぜ。

 正直、俺は隣のクラスの由美ちゃんのことを考えていたから、正直それどころじゃなかったけどな。

 そうだよ、あの笑顔が素敵な由美ちゃんだよ。

 いつの間にか、あっさりサッカー部のエースに持っていかれちゃった由美ちゃんだよ。

 あん時は悔しくてなぁ、お前にも散々愚痴ったよな。

 でもお前はいつも大人びたフリして言ってたよな。

「どんなに辛いことも、一ヶ月も経てば、だいたい忘れられるから気にするな」とか何とかさ。

 確かにあれはお前の本心だったと思うぜ。

 でもそんなことは本当じゃないってことも、わかってたはずだろ。


 

「裕太と付き合うことになった‼」

 

 先月、興奮しながらそんなことを言ってきたんだぜ。

 あんな嬉しそうな沙織は初めて見たぞ。

 初デートは群馬に星を見に行くって言っててさ。

 まだ高校生になったばかりだと言うのに、なかなかのロマンティックさに、俺は軽く嫉妬したぜ。

 でもな、お前は知らないだろうが、そんなお前らを見て俺は心底嬉しかったんだ。

 だから、そんな大事な初デートをすっぽかすお前に、俺はとても腹が立ったんだぜ。

 

 北高校一年二組。朝のホームルーム。

 担任の長谷部がなんともいえない表情で、説明してたな。

 なんだか周りはしくしくしてるし、まるで現実感がなかったなあれは。

 だからそんなにときに俺はどんな顔をすればよかったんだろうな。

 沙織なんてショックで学校休んでいたから、俺はまったくなかなかどうして――

 もちろん俺だって長谷部から聞く前に、まさにその当日に事は知っていたさ。

 でもいきなり交通事故で幼馴染が死んだなんて、納得できるわけがない。

 長谷部が現実感のない話をしているそんな教室で、ただ俺はぼんやりと微笑んでいたもんさ。

 心に膜を張るように、そんな風になんとなく、ただぼやかすしかなかった。


「どんなに辛いことも、一ヶ月も経てば、だいたい忘れられるから気にするな」

 今日でちょうど一ヶ月だけど、やっぱりそれは本当じゃないのかもしれない。

 沙織は相変わらず暗いまんまだ。

 でもな、だけどもやっぱり、俺なりにその言葉は大切にしたいと思ってる。

 きっとそれは本当は前向きの言葉なんだと俺は思うぜ。

 俺が思うだけだから違うかもしれない。

 

 そうだ、ただの自己満足だ。

 俺は沙織を群馬に連れて行き、星を見せてやるつもりだ。

 お前が見せてあげられなかった星空だ。

 わかっているさ、沙織だって、裕太だって、今更そんなことは望んでないのかもしれない。

 そんなことはわかっている。

 でも沙織は幼馴染だ、親友だ。

 やっぱり元気でいてほしい。



「うわぁ~‼ すんごいキレイっ‼ わたしこんな星空初めて見た‼」

「やべーな‼ 東京では見られん星だなこりゃあ」

 

 ひとつひとつの星がとても綺麗に光輝いて、俺たちを迎えてくれている気がした。

 それなら仕方がない。

 お前が寂しくないように。

 俺たちはそれはそれは元気に、楽しく生きてやるさ。

 空一面に広がる星空に、沙織の笑顔に、俺は誓った。

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