第三話 腕試し
今日も二話連続で投稿できそうです。今回はついに戦闘シーンが入ります。では、二話目です。
隣に立っている龍夜が特大のあくびをしたのにつられて俺もあくびをする。
そう。学生ならば分かるはず。校長の無駄に長い無駄話である。
最初の頃こそ学院のカリキュラムなどまだ興味はあったのだが、話が脱線に脱線を続けて魔術の話からなぜかなぜゴキブリの生命力は強いのか、という謎な話になっていた。
「(暇だな・・・)」
「(ああ)」
「(トイレって言って抜け出しちまおうぜ)」
「(あ、それ名案)」
龍夜からの甘い誘いに一も二もなく乗った俺はすぐさま実行に移そうとアイコンタクトをかわしたが、
「(だめだよ二人とも。ちゃんと真面目に聞いてなくちゃ)」
どうやら聞き耳を立ててたのか志乃が俺たちを止めてきた。
龍夜も志乃には反抗しようとは考えないようで頷いて渋々前を向いた。
ちょうど校長の話が終わり、新任理事長からの挨拶というものになるらしい。
「では、よろしく御願いします」
声を大きくする魔術をかけているのか、やけに良く通る声で司会が進行を進めていく。
司会に促され、壇上に上った女性を見て、周りがざわついた。
海斗はそんなことにはおかまいなく、まどろんでいたが隣の龍夜と志乃からつつかれて、顔を上げた。
すると、壇上には見慣れた金髪碧眼の絶世の美女がいた。
そう。海斗の母であり、至上の魔法使いといわれたサリエス・クラージである。
彼女は信じられない、という感じの海斗に向けて素早くウインクを投げると淡々と自己紹介を始めた。
普段の彼女との激しいギャップを覚えて興味深く母を眺めていた海斗だったが隣の志乃につつかれて、意識を戻す。
「うん?」
「ねえ、普段のクラージさんってどんな人なの?」
「あ、それ俺も思った。前一回だけ見たことあるけどその時もこんな風に淡々としていて普段どうなのか気になる」
その言葉に海斗は頷いた。彼女は父よりも長く海斗と一緒にいた。ほとんどの時間を共有していたといっても良いほど一緒にいたのだ。他の人と会っている時間がそんなにあったとは思えない。
「う〜ん。一言でいえば、甘えん坊で寂しがりや、かな」
その意外ともとれる言葉に二人は眼を丸くして驚いていた。
「ヘェ・・・普段はそんなふうなんだ」
「なんていうか、ちょっと意外だな」
海斗も壇上で淡々と語る母親を見てそう思った。
「たしかに。普段とのギャップが大きいかもな」
すこし母親の認識を改めた。
話はすぐに終わり、彼女はすぐに壇上から降りた。
その後すぐに入学式も終わり、皆ぞろぞろと自分たちの教室に戻った。
「さ〜て、これからパートナー決めるぞ〜。パートナー」
それまで長い話で疲労して皆机に這いつくばってへばっていたが担任の爆弾発言により、ぎゅばっと顔を前に向けた。
その反応の良さに満足しながら蘭は次の言葉を紡ぐ。
「ま、パートナーはこれからの学院生活では一番重要だ。何しろ三年間ずっと同じだからなぁ」
とたんにクラスメイトがそわそわし始める。隣にいるものをちらちら見てどんなやつか確かめたりする奴もいた。
「よし、まぁそう気張ることはない。楽にやれ、楽に」
とたんに教室がざわめく。海斗も龍夜か志乃となれれば良い、と思ったが二人の邪魔をするのも気が引けたので誰か探してくる。と一言言い残して席を立った。(ちなみに海斗の右隣と右斜めに二人はいる)
海斗にはまだ知り合いもいない。皆仲良さげに喋っているがまだ仲良く喋れるのは龍夜と志乃の二人しかいないのでどうしたもんかな、と考えながら教室の隅にいると蘭が近寄ってきてにやりと笑った。
「どうしたどうした?やっぱお前ぐらいの実力になると合う奴がいないってか?」
「いや、俺にはそんなもんないですって」
少し苦笑い気味で返したが相手をますます喜ばせるだけだったようだ。
「うん。よし。気に入った。おまえ、今日の放課後居残りな」
は!?と眼を丸くして思わず聞き返したが、既に蘭は踵を返しており無視されてしまった。
海斗が少し肩を落としているのを尻目に少し嬉しそうにまだざわめいているクラスメートに向かって手を打って注目を集めると言った。
「よし、じゃあ決まらない奴は今度の・・・明々後日だな。までに決めとけよ〜。じゃあ今日はこれで終わりだ。ご苦労さん」
それぞれ仲がいいものと声を掛け合って帰ろうとしていた。海斗もどさくさにまぎれて龍夜に声をかけて帰ろうとしていたが蘭に肩をつかまれて、がちっと硬直する。
「まさか逃げないよな♪」
少し殺気まじりのドスの聞いた声で脅されては頷くしかない。
蘭は海斗の様子を見に来た龍夜達を見て意地の悪い笑顔を見せるとちょいちょいと手招きをした。
頭の上に?マークを浮かべながら近寄ってきた二人に蘭は嬉しそうに言った。
「お前ら、海斗の実力見てみたくないか?」
は!?といった感じで驚いている龍夜達を見て海斗は失笑を浮かべるしか無かった。
「・・・分かりました。やりましょう。しかし、剣技だけで御願いします」
蘭は少し驚いたようにほう、と息を飲むと豪快に笑い
「いいぜ。その切り替えの早さ。やっぱお前みたいな奴は嫌いじゃない」
嬉しそうに言いながら海斗達を先導して前を歩き始めた蘭について学院を歩いていく。
「・・・・・・・ここは?」
「闘技場。主に戦闘専用のフィールドだ」
そこは四方100Mはある大きな体育館のようなところで二階には観客席がたくさん並んでいる。
「さて、早速やるか。海斗は何使うんだ?剣か?太刀か?長剣、槍、棍となんでもあるぞ」
ちなみに俺はこれだ。と闘技場に付いている武器庫のようなところから取り出したのは金属製のトンファーだった。
「・・・・では、剣で」
自分の愛剣を使いたかったが、あれは人に向けるものではなかったな、と思いなおし剣にしておいた。
ほれ、と投げ渡された剣を二、三振って感触を確かめる。剣の刃はつぶされていて、殺傷能力は押さえられているようだ。
それだけで何か分かるのか眼を見開いた蘭は強気に笑った。
「・・・じゃあやるか・・・おおーい始めるぞー?」
二階に上がった二人に手を振って頷いたのを確認するとすっとトンファーを構えた。
「・・・分かりました。五回。五回俺の攻撃に耐えられたらあなたを本気で戦う相手として見ましょう」
「ふん。なめられちゃあ困るな。これでも、ジュライドの隊長をしていた時期もあるんだ。そこまでなめられてたまるかって」
そう言いながら猛スピードで走り込んできて、トンファーで攻撃してきた。
蘭の攻撃は流れるように、それでいて力強く、連続で海斗に攻撃してきた。
常人では眼でとらえるのが精一杯の攻撃だが海斗にしてはまだまだ遅い。
次々と弧を描くように攻撃してくるトンファーをすべて受け流した。
蘭が拉致があかない、と後ろに下がったのを見て一言。
「いきます」
先ほどの蘭を軽く上回るスピードで蘭の懐に潜り込んだ。
眼を丸くしているのを眼の片隅において剣を振り上げた。
まずは上段に鋭い一撃を叩き込む。
それを蘭は両方のトンファーをクロスして受け止めた。
「一」
剣を一回押し込んで反動をつけ、すぐさま肩口に剣を振り下ろす。
トンファーを使って流れるように受け流すのを確認してカウントを進める。
「二」
今度は流された剣をそのまま薙ぎ祓うように左中段に叩き込む。
先ほどよりも力を込めた一撃をまたしても受け流された時には少し驚いた。
しかし相手に反撃の隙は与えない。
「三」
そんな暇を与えないように次のカウントをしてすぐさま攻撃に移る。
剣は後ろに流されていたので流れるように足をさばき立ち位置を入れ替える。
振り向く暇を与えずに袈裟懸けに切り上げる。
トンファーで真っ正面から受け止められ、数瞬拮抗する。
「四」
それもすぐさま崩れ、最後の一撃を叩き込む。
数回のフェイントを入れ、胸に向かって突きを入れる。
この一撃には三割ほどの力が入っていた。先ほどまでは二割程度。今度こそ付いて来れないことを確信して突きを入れた。
しかし、予想以上の速度で相手の体が沈んだ。
予想の上をいかれ、剣は宙を裂く。
「五」
と今度は下の方から声が聞こえた。
そこにはしてやったり。といった笑みを浮かべている蘭の姿が見えた。
どうでしたか?楽しめてもらえば幸いです。なにぶん素人なので、お気付きになられた点があれば、ご指摘ください。