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第三十三話 海斗の隠し事

 あの広場での出来事から早一ヶ月。特に行事もなく二人は相変わらずのラブラブっぷりで過ごしていた。


「・・・じゃあ、という訳で明日からは夏期休暇だ。楽しんで来い」


 一学期最後の日はいつもの簡単なHRで終わった。


「よっしゃあ!やっと終わったな、夏は何する?海斗」


 龍夜はもう既に夏休みモードに入っているらしい。予定を立てようとしてきた。


「いや、それは早紀にも聞いてみなきゃ、・・・って早紀?」


 早紀にどうするか聞こうとすると早紀は海斗の腕にしがみついたまま夏休みのことでもう心ここにあらずという感じだった。


「えへへ・・・一日中海斗と二人っきり・・・」


 早紀の頭を撫でながら思わず龍夜と苦笑を交わした。




「しっかし早紀って海斗の前だと急に子供っぽくなるよな」


「あ、それ私も思いました。ま、そっちのほうがかわいいとは思いますけどね」


 今は下校時間。明日からのことを話していたはずが早紀のことで話は盛り上がっていた。


「そんなこと、私にも分からないわよ。海斗の前だと勝手になるんだもの」


 早紀は少し拗ねた感じで唇を尖らせて言った。でも確かに早紀は龍夜や志乃の前だと少し落ち着いた雰囲気で普段海斗と一緒にいるときとは全然違う。


「あ、確かに最初は今の龍夜達と同じ感じだったな・・・こうなったのっていつからだっけ早紀」


 当事者であるはずの海斗もさりげなく会話に混じる。


 志乃は顎に人差し指を当ててんー、と思い返していたようだがわかんない、と答えた。


「ふぅん・・・俺たちと初めてあった時にはもうこんな感じだったよな、志乃」


「そうね、でもあのときは早紀ちゃんが海斗君にべた惚れっていうふうに見えたけど、今は海斗君も早紀ちゃんにべた惚れだもんねー」


 龍夜に話を振られた志乃がくすくす笑いながら海斗達をからかう。


 そうは言うが、志乃も最初とはかなり変わったぞ。人をからかうようになった辺りが、とは思っても言わない海斗であった。






 早紀は海斗が額にキスするする感覚で目が覚めた。


 昨日は早紀の淫魔の血が騒ぎ、吸血をした後情事に至った。『暴走』中の早紀はとても美しくさすがの海斗の理性もそう長くは持たないので(というよりは海斗も別に嫌な訳ではないし)最近は一週間に一回のペースでしている。


 早紀が寝ぼけた頭のまま無意識に頬擦りをすると海斗も優しい手つきで早紀の頭を撫でてくれる。


 毎朝行われている恒例の動作。志乃に至福の時間を与えてくれ、海斗の心に安らぎを与える。二人にとってこの朝の時間は欠かせないものとなっていた。


 早紀はもっと海斗を感じたくてぎゅっとしがみついた。海斗も抱きしめ返してくれてそのまましばらく二人は抱き合ったまままどろんでいた。




 朝、二人はもう海斗と変わらない程に上達した早紀の料理を食べいつものようにいちゃついていた所に海斗が龍夜の気配を感じ取った。


「・・・龍夜だ、志乃もいる」


 そういうと海斗の膝の上で力を抜いて海斗に体重を預けてうとうととしていた早紀がぱちっと目を開いた。


「えー、もう来たの?・・・後五分〜」


 使う所が普通とは違うと思うがあまり気にせず早紀の脇の下に手を入れて早紀を持ち上げる。


「あ・・・」


 ぽすっとソファの隣に座らされた早紀は不満そうに海斗を見上げた。海斗が早紀の頭を撫でていると玄関のドアががんがん、と叩かれた。


「入るぞ」


「おじゃまします」


 二人は軽く断りを入れて入ってきた。


「あと三分遅れてきなさいよ」


 とそこで早紀が龍夜達に文句を言った。どうやら根に持っているらしい。


「後三分?・・・あ、なるほど」


「要するに海斗と後三分いちゃつきたかったって訳か」


 かなり的確に図星を衝かれ、早紀はん・・・と黙った。


「はいはい。いつまでもお熱いこって、・・・それで海斗、なにする?」


 龍夜は早紀を軽く流して海斗に今日の予定を聞いた。


「・・・そうだなぁ、買い物にでも行くか?それか魔術を練習するとか」


「お、いいね。魔術の練習しようぜ。な、それでいいだろ?」


 そう、授業は超不真面目な龍夜はなぜか海斗が教えることになると魔術の練習は積極的にやりたがる。


 本人曰く「海斗はそこら辺の教師の何倍も教え方が上手いし、何より自由だから楽しい」だそうだ。


「うん、私はいいよ」


「わたしも、海斗君に教えてもらえるなら」


 海斗はそっか、と頷いて準備に取りかかった。 




「詠唱破棄はできるようになったんだっけ?」


 海斗は軽く前までのおさらいをすることにした。


「ああ、ばっちりだぜ」


「まぁ、なんとか」


「じゃ、次は意味を頭の中でイメージしたものを魔力に伝える方法だな」


 そう、魔術に込める意味は頭の中でもいい。が、それは格段に難しいし、海斗でも全部を省略することは無理だ(そもそも海斗が何気なく使っている魔術は学生ならば十分は唱え続けなければいけない程のものばかりである)。


「あ、それあたし結構できたよ?waterならもう詠唱しなくてもできるようになったし」


 そう、もう既に詠唱破棄ができていた早紀は既に次の段階に移っていた。初期の初期レベルの魔術ではあるが、もうできるようになったらしい。


「は?まじかよずっとうんうん唸ってたのってこれの練習してたのかよ」


「ずるいですよ、早紀ちゃん」


 そう憤る二人を海斗はまあまあ、と宥めつつ術のコツを教えた。


「基本的には詠唱破棄と同じ。詠唱破棄は魔術を起こすためものだけど、無詠唱は魔力に意味を持たせるためにやるんだ。・・・要するに、頭の中で手に魔術が出来上がるのをイメージして、そのイメージを魔力に伝えたら・・・」


 海斗は説明しながら手にまずは魔力を集め、そこにイメージを流し込むことによって分かりやすく説明した。


「へぇ、それを海斗はいつも一瞬でやってるのか?」


 龍夜の驚いたような問いかけにまあね、と返しながら次の説明に移った。


「初級魔術は単語、中級魔術は文、上級魔術は詩、古代魔術は歌で発動する。それをどう縮めれるか、どれだけ早く魔力を込められるかで勝敗は決まる。だから詠唱破棄はもちろん、無詠唱もかなり重要だ」


 龍夜と志乃は海斗の説明に聞き入っている。早紀も二度目だが真剣に聞いているようだ。


「でも、中級魔術は単語に、上級魔術は文、古代魔術は詩にまでしか縮めることはできない。それは人間の想像力がそれだけしかないからで、それ以上しようと思っても術は発動しなくなってしまう、っていうこと位だな。さ、初めてくれ」


 龍夜はよしっ!、と気合いを入れて早速取りかかっていた。早紀と志乃はその様子を見て笑いながらも取り組もうとしていた。


 が、海斗は少し早紀を呼び止めた。


「早紀」


「ん?」


「俺、ちょっと行かなきゃなんない所があるんだ。ちょっと見といてくれるかな・・・二、三時間で戻ってくるから」


「え?・・・うん、分かった」


 早紀に断りを入れると、転移の術で最近少し通うことになった店に向かった。




「くっそ・・・難しいな・・・こうか?」


 中々上手くは行かない。炎をイメージしても陽炎みたいになるだけで中々形にはならない。少し休憩しようと顔を上げると早紀が浮かない顔で何か悩んでいるようだった。


「・・・どうした?早紀。浮かない顔して・・・ほんっと、海斗がいないだけで元気なくなるなぁ、お前」


 事実その通りだろうと思って言ったのだが意外なことに早紀は首を振った。


「違うの、最近海斗が二、三時間家を空けることが多くなって・・・何してるのかな、って」


 そう言って沈んでいる早紀に龍夜はからかい混じりで元気づけようとした。


「何言ってんだ。男がそんなことするってことは一つしかねえだろ。・・・海斗ならとっかえひっかえだろうしな」


 いつもなら海斗なら心配ないもん、で終わるはずだったが早紀は泣きそうな顔になった。


 さすがにこれには焦った。早紀ならこんなことを言っても軽く流すだろうと思っていたのだが真に受けてしまったらしい。


「って、おいおい冗談だって、冗談」


「なにしてるんですか?・・・って早紀ちゃん?・・・龍夜〜?」


 騒ぎを聞きつけてよってきた志乃が恐ろしい顔で睨んできた。その顔にははっきりと何したんですか?と書いてある。


「いや、俺はその、元気づけようとしてだなぁ」


「早紀ちゃんを泣かせたらいくら龍夜でも海斗君に殺されますよ?」


 恐ろしい笑みのまま言われてだーーー、と背中に冷たい汗が通った。海斗ならやりそうだ。


「あはは、なんでも無いって、・・・そうね、海斗がそんなことするわけないもんね。さ、練習しよ」


 どうやらいつもの早紀に戻ったらしい。練習を開始していた。


 海斗が帰ってきたら何してたのか問いただしてやろ、いざとなったら能力使ってでも。と龍夜は海斗の帰りを待ちわびていた。




「ただいまー」


 ようやく炎の形ができるようになった頃、海斗が帰ってきた。


 早紀がぱあっ、と顔を輝かせて海斗に駆け寄ろうとしていたが手でそれを留めた。恐ろしい形相で睨まれたが、それに耐えて海斗を引っ張って家の中に引きづり込んだ。


「で、何してたんだよ。早紀が心配していたぜ?」


「いや、ちょっと、その・・・」


 どうやら言う気がないらしい。最近スイッチのON/OFFができるようになった『心の眼』を久しぶりに使った。


「・・・・なるほど、へぇ〜。サリエスさんに言われてね・・・こりゃ早紀喜ぶわ」


「は?っておい、お前まさか・・・いいか?絶対に早紀には言うなよ?言ったらいくらお前でも・・・」


 龍夜が『心の眼』を使ったことに気付いた海斗は鬼の形相で釘を刺してきた。龍夜はもちろん言うつもりもないので分かった分かった、と海斗を押し返した。


「そっか、早紀の誕生日明後日なのか・・・知らなかったな、あ、志乃には言ってもいいだろ?プレゼントも買いたいし」


「ん?ああ、志乃になら言ってもかまわない。というよりは是非伝えておいてくれ・・・ってもうこんな時間か、じゃ、また明日ここに・・・早紀をちゃんと捕まえといてほしいんだけど」


「分かった、了解。志乃と一緒に今日と同じ時間に来る」


 そう言って海斗を解放した。




「へぇ〜、早紀ちゃんの誕生日明後日なんだ?」


「らしいな、んでもって海斗がその日に向けて・・・・」


「え?本当?早紀ちゃんきっと喜ぶだろうな〜」


 志乃が羨ましそうに後ろの海斗の家を振り返っているのを見て志乃のプレゼントは俺も手作りアクセサリーにするかな、と自然に思ってしまった龍夜である。


「にしても海斗が作るとなると・・・」


「生半可な出来じゃなさそうだよね・・・」


 どんなアクセサリーが出来上がるのか楽しみにしながら帰り道を二人で歩いた。






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