第三十話 遺跡探検!?
海斗達が二階に下りた。しかし二階には魔獣の姿は見えなかった。
「ふぅ、なんにもいないようだな・・・ちょっと休憩しようぜ」
海斗はともかく、他の皆は疲れたのだろう。時間もあることだし、と海斗も特には反対せずに同意した。
「にしても俺、初めて魔獣を倒したぜ。もっと血とかがぐろいかと思ってたんだけど・・・」
「うん、凄かったよ龍夜、海斗君も凄かったけど・・・」
と龍夜と志乃は二人でさっきの戦いのことで話していた。海斗はゴーレムのいる所までの道のりを頭に浮かべていた。が、ちょんちょんと袖を引かれて視線を下にさげた。
「ねぇ、海斗・・・その、二人にあたしが魔族だっていうこと言ったほうがいいかな?」
「・・・なんで?」
「だって・・・なんか隠し事してるみたいで・・・二人は友達だし・・・」
海斗は早紀の言おうとしていることがようやく分かった。不安そうに見上げてくる早紀に気にしなくていいよ、と言った。
「え?・・・だって・・・」
「言ってなかったけど・・・龍夜と志乃も魔族だよ?」
海斗の言葉を聞いてえ?と眼を点にして驚いている早紀を見てくすりと笑うと続けた。
「『心の眼』と『鏡の眼』は魔族の印だよ?・・・まぁ、本人も気付いてないみたいだから言おうとは思わないけど」
「え・・・そんな・・・でも、魔族って」
何がなんだか分からなくなって困惑している早紀の頭を撫でて少し落ち着かせてやった。
「魔族は相当な数がいる。学院にもたぶん百人はいるんじゃないかな・・・そうだ。あのアーベル・アクス、あいつも魔族だったしね」
次から次へと明らかになる事実に早紀は混乱していく。
「で、でも・・・魔族は滅ぼされて、だから数は少ないんじゃあ」
「滅ぼされたのは、・・・なんていうか、力を持った魔族だけで、そもそも龍夜達のように直接的な力を持っていない魔族を魔族って知っている人はほんの一握りしかいないんだ。だいたい本人も自分が魔族だって認識していないことのほうが多いんだ」
「そ、そうなんだ」
早紀はいまいちすべてを理解できていないようだったが海斗は気にせず簡単に完結させた。
「ま、とりあえず魔族はたくさんいて早紀はその一人っていうこと。・・・ま、特に気にしないでいいってことだ」
早紀の頭をくしゃくしゃっとと撫でて誤摩化した。
早紀はうっとりと目を閉じて海斗に抱きついた。もうすでに早紀は魔族のことなんてどうでもよくなっている。なんとも効率の良い誤摩化し方である。
「・・・・・・さて、そろそろ行こうか」
しばらく早紀といちゃついた後、龍夜達の会話も一段落したようなので声をかけた。
「そうだな」
「は、はい・・・」
龍夜はよっこいしょ、といつも通りだったが志乃はやはりまだ少し固くなっていた。
「・・・心配すんな、俺がいるし大丈夫だから、な?」
と龍夜が珍しく優しく語りかけて志乃の頭を撫でた。志乃は顔を真っ赤にしながらも嬉しそうにうん、と頷いていた。
「わー、珍しい。ね、海斗、龍夜が慰めているよ?」
「ほんとだな、龍夜と志乃がいちゃいちゃするの久しぶりに見たような気がする」
早紀のからかいの言葉と海斗の本音まじりの冗談で龍夜の顔も少し赤くなった。
「うっせぇ、ほら、いくぞ。五階なんだろ?」
「ああ」
龍夜は志乃の手を引っ張ってずんずんと先に進んでいった。
「Water」
ばしゅっと水で甲冑の騎士を怯ませた隙に
「Dance water,and dance,and I become the sword,and cut an enemy」
水でできた剣を数本作ってそれで切り刻んだ。
ばらばらにするとさぁぁぁ、と灰になって消えた。
ふぅ、と一息をついた。そこに
「早紀っあぶねぇっ!」
「早紀ちゃん後ろ!」
龍夜と志乃の声に慌てて振り返るとそこにはもう振りかぶった甲冑の姿が、痛みを覚悟して固く目を閉じると後ろからぎゅっと抱きしめられた。
「篠原流剣術、《疾風》」(はやて)
しゃきん、と金属が切れる音がしたのでおそるおそる眼を開けるとそこにはばらばらになった(音は確かに一回だったのに)甲冑の姿が。
「海斗っ!」
ふぅ、と息をついた早紀を抱きしめている人物を見上げればそこには少し怒った様子の海斗がいた。
「こら、まだ戦っている途中で気を抜いたらだめだろ?」
そう言いながらも後ろ手でどんどんと魔獣を切り倒している。それは正直後ろに眼があるのか、と言いたい位的確に切り倒している。
「はぁい」
海斗は怒っているが、その怒りが早紀を心配しているものだというのはよく分かる。それに怒られたけど、海斗の愛情もたっぷり詰まっていたので全く恐くはなかった。
海斗はにこにこと見上げてくる早紀を見てまったく、と呟いて早紀の頭を軽く小突いた。
しかしそれは小突いた、というよりは撫でるに近いものだったので早紀もにっこりと笑った。
海斗が自分の手を見下ろしてしまった、と額に手を当てた(そうしているうちにまた襲いかかってきたカマキリのような魔獣を三体切り裂いていた)。
「おい、海斗、早紀、まじめにやれ〜っ!」
「た、助けて〜」
いちゃついていた二人はふと龍夜のほうに顔を向けた。龍夜達は海斗を諦めた魔獣が寄っていって凄いことになっていた。
「海斗・・・あれはちょっとまずいんじゃあ・・・」
「分かってる・・・篠原流剣術《烈破》」
海斗は剣を無造作に持ち上げて、『気』を一瞬溜めてぶん、といかにも適当に剣を振り下ろした。
その適当そうな動作とは裏腹に技はしっかりと発動し、ごぉっと地面をえぐりながら龍夜達のほうへと迫った。
その猛スピードで突っ込んでくる《烈破》に龍夜達は顔を引きつらせた。
「って、おいっ!?」
「きゃっ」
どう考えても避けられないそれにばっと龍夜が志乃に覆いかぶさって志乃をかばい、志乃は龍夜に抱きついた。
その次の瞬間、どぱっ、と龍夜達以外の地面がえぐれ、龍夜の周りにいた魔獣は一瞬で灰に帰った。
「「・・・・え?」」
「さっすが海斗、すご〜い」
龍夜達は何が起きたのか分からずきょろきょろとしているが、早紀は始めから心配してなかったようで海斗を褒めたたえた。
ようやく海斗が龍夜を避けて技を使ったことに気付いた龍夜は(龍斗や京介が見たら舌を巻いただろう)むっとした表情で海斗を睨んできた。
「悪い悪い、それが一番手っ取り早かったんでな」
龍夜は海斗を睨んでいたが悪気もなく謝る海斗を見て気が抜けたのか、はぁ、と溜息を一つ漏らすと先行くぞ、と歩き始めた。
海斗と早紀はやりすぎたかな?と顔を見合わせながらも慌ててついていった。
海斗達一行はあの後も紆余曲折あったが(早紀がでかいムカデにビックリして腰を抜かしてしまい、海斗が暴走しかけたとか)五階にたどり着いた。
「・・・さて、ここにいるんだよな?海斗」
「ああ、ゴーレムはCクラスだから気を付けろよ」
「分かってるって・・・ま、海斗がいりゃあ楽勝だろ?」
能天気に最初から他力本願な龍夜にまあ、それはそうなのだが・・・と頷いておいた。
「な、なんだか今までと雰囲気が違いますね・・・」
「なんだか静かで不気味悪い・・・」
女性陣二人は少し気後れしているようだったが、ゴーレムを見ればそんなものはさしたる問題ではなくなるので放っておいた。
「で、どこにいるんだ?ゴーレムって」
龍夜が辺りをきょろきょろ見渡しながらゴーレムの姿を探した。海斗はあそこだよ、と壁際にある岩の塊を指差した。
「あれって、どうみたって岩の塊、じゃ、ねぇ、か・・・?」
がたごとと岩がブロックみたいに積み上がっていくのを見てさすがの龍夜もビックリしたようだ。声が尻すぼみに消えていく。
龍夜達が呆然と見守る中、がたたん、と岩で出来た首無しの人形ができたかと思うと奥にあった祭壇の上に乗っかっていた首が飛んできてがしっとくっついた。
「・・・なんていうか、子供の頃ああいうの何かで見たことがあるような・・・」
と呆然と早紀が呟くと、しゅぴーん、とゴーレムの眼が光った。ゴーレムはひぃっ!?と驚き海斗の背中に隠れる龍夜達を追いつめるかのようにゆっくりとこちらを振り向いた。