表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/41

第二十七話 早紀の生まれ

 観客はぞろぞろと教室へと帰っていった。


「海斗〜〜〜〜〜〜っ!」


 がばっ、と早紀が喜色満面で海斗に飛びついてきた。


 海斗は早紀を柔らかく抱きしめて琢磨達を振り返った。


「紹介するぜ、琢磨。この娘は早紀、長良 早紀・・・俺の、恋人だ」


 ひゅ〜、と花梨が口笛を吹いた。琢磨は驚きで眼を見張っていた。


「本当にお前彼女ができたんだな、・・・しかし熱々だな、見てるほうが恥ずかしいぐらいにな」


 琢磨は半ば呆然と呟いた。そこにやってきた龍夜が琢磨に聞いた。


「・・・そんなに昔の海斗って女に興味がなかったのか?」


 頷いて琢磨が龍夜に口を開きかけた所で止まった。その理由を察した海斗が龍夜達を紹介した。


「そうだった、まだ紹介してなかったな・・・この赤い髪をしたのが朝宮 龍夜、この水色の髪と眼をしているのが雨宮 志乃俺と似たこの人がサリエス・クラージっていって俺の母さんだ」


 琢磨は一つ頷くと続きを話した。


「そうだな、こいつどんなかわいい娘にも見向きもしないんだ。・・・恋愛には興味はないかと思ったんだが・・・」


 皆はえっ!?と驚いていた。


「そうだな・・・確かに恋愛には興味はなかったな・・・でも」


 と今思い出したように呟いて腕の中でこちらを見上げてくる早紀を微笑みながら見下ろした。


 意味を理解した早紀の頬がぽっ、と朱で染まった。


「・・・海斗・・・」

 

 そっかそっか、と琢磨は頷いた。


「ここに来てこの娘にあった、と・・・」


「よかったね、海斗。そういう人ができて」


 と二人がからかい混じりの祝福をしてきた。海斗は苦笑まじりの笑顔でありがとう、と返した。


 早紀は嬉しさと照れくささで海斗の胸に顔を埋めた。


「こ〜ら早紀ちゃん、いちゃつくのもいいけどそれは二人っきりの時にしなさいよ♪」


 サリエスはそう言って海斗と早紀を少し引き離した。早紀は慌てて海斗の腕にしがみついた。せっかくくっつけたのに離されてはかなわない、とばかりに。


 それが媚びた態度などであったら不快感を招いただろうが、早紀の態度は純粋で何処か微笑ましいものがあった。


 海斗は早紀の頭を優しく撫で、皆を促した。


「さて、皆教室に行こう。・・・そうだった、琢磨、花梨、お前らどうするんだ?」


 海斗が思い出したように琢磨達に聞いた。


 琢磨は苦笑いしながら残念そうに口を開いた。


「いや・・・俺らは旅の途中でよっただけなんだ・・・すぐに出るさ」


「・・・そうか」


 二人は残念そうに握手して笑い合った。花梨とも眼を合わせて握手をした。


「じゃあな・・・」


「ああ、次までにはもっと強くなっておくさ」


「元気でね、次会う時には海斗よりも強くなっておくから覚悟しておきなよね」


 そして三人は軽口を言い合って別れた。龍夜達は微笑ましげにそれを見送った。




「にしても、さっきの試合は凄かったな、なぁ志乃」


 龍夜はいまだ興奮冷めきらず、といった様子で志乃とさっきの試合のことを話していた。


 教室中が同じような空気に包まれており、海斗に畏怖の視線が多数というよりはすべてが集まっていた。


「・・・むーーーー」


「どうした?早紀」


 そんな中早紀が海斗に集まる視線でむくれていた。別に先ほどの試合の後なら不思議ではない。が、その中に女子生徒からの熱い目線も混じっているのが気に入らないのだ(視線の熱さでいえば早紀には到底かなわないが)。


 要するに拗ねているのだ。見せつける意味合いと安心感をえるために海斗の腕に抱きついた。しかし、海斗の腕にすがりついて顔を埋めたとたんにそんな考えは吹き飛んだ。


 早紀の中でスイッチが入った。家ではいつも全開にしているスイッチが少し入ってしまった。海斗に甘えたくて甘えたくてしょうがなくなってしまう。


 自分でも異常だとは思う。だけど体が、心が、海斗を求めて疼く。体に火が灯ってうずうずする。この状態のまま数分感放置しておくとイライラして不快感が高まってしまう。これを解消するには海斗に触れて、感じ、甘えればそれは解消される、というよりはいつもよりももっと安心できて海斗を感じられるから早紀はこの感覚が大好きだ。


 それに早紀のスイッチを押すことができるのは海斗ただ一人。海斗しかこのスイッチは触れないし、海斗にしか反応しない。


 学院にいるときは努めてロックを掛けるようにしているのだがつい油断してスイッチが入ってしまったようだ。


「早紀?」


 海斗も早紀の様子が変わったのに気がついたようだ。眼が潤んでくる。体が熱い。心臓が高鳴るのが分かる。体が自然に海斗を求めて動く。まずい、今日は少し異常だ。


「早紀、落ち着け・・・どうしたんだ?」


「・・・海斗ぉ・・・」


 理性が持たない。海斗を押し倒しそうになるのを必死に堪えた。


「すいません、早紀をちょっと保健室に連れて行きます」


「ああ」


 海斗は先生に了解を取ると、私のほうに手を差し出してきた。それを握ると海斗はすぐさま転移の術で移動した。




「・・・一体どうしたんだ?早紀」


 海斗が心配そうに覗き込んでくる。そうやって優しくされればされる程体が海斗を求めていく。胸が海斗のことでいっぱいになる。次から次へと好きだという気持ちが溢れ出てくる。


 見回して先生がいないのを確かめて海斗に抱きついた。


「っ!・・・早紀?」


 急なことでさすがの海斗も堪えきれなかったのか、後ろのベットに倒れ込んだ。


「海斗・・・かいと・・・かいとぉ」


 無意識に海斗の名前を口にしながら海斗に絡み付く。海斗も相手が早紀だと無理に払えないらしい。それどころか優しく微笑むと早紀の体に手を回してきた。


 こんなふうになってもまだ普通に受け入れてくれる海斗が愛しくて愛しくて、力一杯抱きついた。もっと海斗を感じたい。もっと海斗を側で感じたい。もっと・・・


 それに答えるように海斗が早紀の体を痛い位に抱きしめる。それは早紀のうずきを押さえてくれた。そのおかげで少し落ち着くことができた。


「・・・早紀、その、これは一体・・・」


 早紀が落ち着くのを見計らって海斗が心配そうに訪ねてきた。


「えっと、その・・・」


 自分でも訳が分からない。まるで海斗と初めてしたときのように体が甘い感覚に陥っていた。


 するとドアのほうから声がかかった。


「ヘぇ・・・淫魔サキュバスの疼きが肌の触れ合いだけで止まるとは・・・妬けるわね」


 なっ、と二人が思い切りドアのほうへと向いた。そこには一人の女性が立っていた。見られたから別にどうこうなるものでもないが、先ほどのものはさすがに激しすぎた。


 少し顔が赤くなるのが分かり、海斗の胸に顔を埋める。海斗はいつものように優しく頭を撫でていてくれる。それだけで体から力が抜けて顔がだらしなく緩む。


「・・・魔族か、なんのようだ?」


 海斗の口から何ともなさそうな、友人に語りかけるような調子で紡がれた言葉に早紀は暫し唖然となった。


「・・・魔族?」


 魔族って、数百年前に滅びたって学院でも習ったのに・・・


 海斗は早紀の動揺を感じ取ったのか説明してくれた。


「そう、教科書じゃもう滅びたことになってるけどね、実際はまだかなりの数が生存しているよ」


「そ、そこの坊やの言う通り。っていうかあなた私のことを魔族だと分かっても攻撃してこないのね?」


 魔族と思われる女性は海斗の言葉にあっさりと頷くと同時に海斗を珍しいものを見るような目つきで眺めた。


「別に攻撃する理由がない。俺は魔族が人間と同じだというのも知っているし、いいやつがいるというのも知っている。俺たちに危害を加えないのなら俺も無干渉だ」


 その言葉に思わずえっ、と叫んでしまった。魔族は昔人間を憎んで攻撃してきたと書いてあった。魔族は人間とかけ離れた容姿をしていて冷酷、残酷で人よりも優れた魔力を持って次々に人間を殺していったという。だが、海斗の話は早紀が知っているものと違う。


「早紀、それは人間が後から作り上げた都合のいい話だよ。それに、魔族の進化元は人間だよ?」


 海斗が早紀をたしなめるように言うとその女性はほ〜、と感嘆のため息を吐いていた。


「真実を知って、尚それを信じるだけの頭も持っている。サキはいい人を見つけたんだねぇ」


 女性の安心したような声に早紀はびくっと体を縮こまらせて海斗にすがりついた。


「・・・そういえば早紀が淫魔というのは本当か?」


 と海斗がその人に問いかけた。そういえば、さっきこの人は私のことを淫魔だって言っていたような気が・・・


「本当だよ、更に言うとこのあたし、クリスの実の娘だよ」


 その衝撃的すぎる言葉に早紀の体は思わず硬直した。


 海斗はそれをほぐすようにゆっくりと、ゆっくりと頭を撫でてくれていた。


「・・・そこまでは想定していなかったけど・・・早紀、淫魔だったんだ」


 その海斗の言葉を聞いた途端早紀は奈落の底に落とされたような感覚に陥った。魔族っていうことで嫌われたらどうしよう。と不安で不安で心が押しつぶされそうだった。


 先ほどまでの会話をしっかり聞いていれば海斗がそんなことで早紀のことを嫌うなんて事はないとすぐに分かるが、植えついた先入観は拭えない。


 きゅっと海斗の服を指先が白くなるまで握りしめる。不安で心が壊れそうだった。今の早紀の世界はすべてが海斗を中心にまわっている。その海斗が早紀から離れていってしまえばきっと早紀の心は壊れてしまうだろう。不安で先ほどから海斗が早紀を心配そうに覗き込んでいることや背中をさすってくれることにすら気付かない。


「早紀?どうしたの?」


 海斗に優しく声を掛けられて、不安と怯えで固まってしまった体をなんとか動かして海斗の眼を覗き込んだ。


 そこにはいつものように優しく、早紀への愛情が籠った海斗の眼があった。


 安心と緊張から解き放れたことで早紀の意識はブラックアウトしていった。


 最後に見えたのは一度もみたことのないような海斗の焦った顔だった。


 新しい海斗の一面を見れたことに満足して、海斗への愛情がよりいっそうつもるのを意識しながら意識を完全に手放した。







 どうだったでしょうか?楽しんでいただけたら幸いです。

 感想、評価などどんどん送ってください。待っています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ