第二十一話 宣戦布告!?
龍斗達は呆然として海斗が転移の術で家に戻った後を眺めていた。
結局海斗は南野地区の魔獣は京介達が三分の一討伐したところで討滅し終えてしまった。
京介達はそうそうに戻ってきた海斗を怪しむ間もなく目の前で戦っていた魔獣を一瞬で一掃されて唖然としたが、その後も海斗は一瞬で東地区を討滅してしまった。
そしてそのまま北地区を討滅して西地区を討滅してやってきたサリエス達に一言帰る、と告げると転移呪文を唱えて帰っていった。
早紀は少しずつ覚醒していく中で昨日寝た時とは違い、温かくて安心できるものが自分を包んでいるのも感じた。
起きたくなくて、浅い意識の中微睡んでいるときゅっと体が引き寄せられた。
早紀はその心地よい感覚の中で少しずつ意識が覚醒していった。
うっすらと眼を開けると、目の前には愛しい人の寝顔があった。
いつもは彼の方が早く起きていて、早紀の頭を撫でてくれたりしていて早紀に至福の時間を与えてくれるのだがこのようにめずらしく無防備なかわいい寝顔を見るのもまたいいと思う。
かなり疲れているらしく、熟睡している海斗を見て温かい気持ちになって無防備な海斗の胸に頬をこすりつけた。
たった一夜離れていただけだというのにかなり久しぶりなような気がしてますます抱きついて海斗の感触を楽しんだ。
それだけで早紀の胸は幸福感でいっぱいになってしまう。もうしばらく海斗の感触を楽しんでいよーっ、とぎゅっと海斗を抱きしめてみゅう、と幸せそうなため息を吐いた。
海斗は昨日、大技を惜しみなく使いまくったので(その所為で森の地形が変わってしまったが気にしない事にする)魔力がほとんど底をつきかけていた。転移の術を使ってしまうと完全に底をついた。なんとか重い体を引きずって自室のベットに倒れ込んだ(倒れ込む一瞬前に早紀が寝ているのに気付いて体を少しひねって倒れ込んだ)。
幸い早紀は誰かが寝れる程のスペースを空けて(誰のためかは言わなくても分かるだろう)寝ていたのであまり倒れ込むのには苦労しなかった。
疲れきった体に隣の早紀の体温がじんわりとしみ込んでいった。それはとても心地よく、疲れた体を癒してくれるようだった。そうしていると早くも意識がもうろうとしてきた。
海斗はそのもうろうとした意識の中、早紀の体をしっかりと引き寄せた。
海斗はいつもよりも心地よい感覚に包まれながら覚醒した。
胸の方に柔らかい感覚を覚えて目をやると、早紀が頬擦りをして嬉しそうに微笑んでいた。海斗が起きたのに気付いたのか海斗の方を見上げてえへへ、と無邪気に笑った。
どくん、と海斗の心臓が高鳴った。さすがの海斗も早紀の無邪気な笑顔や仕草を見るとどきっとしてしまう。その魅力に海斗は惹き付けられてどんどん早紀に溺れていってしまっている。
しかし溺れていると言っても海斗はそれに自覚しながらも自ら早紀の方へと飛び込んでいるようなものだ。
額をくっつけておはよ、と二人は挨拶を仕返しあって軽くキスをすると幸せそうに微笑み合った。それは幸せそうで胸が温かくなるようだった。
その後二人は学院へと向かった。
二人が学院について教室に入ると、この前話しかけてきたアーベル・アクスがいて、龍夜と険悪な雰囲気で何か言い合っていた。
「・・・から・・・したっていうんだ」
「・・・ことは・・・・無意味だっていうんだ」
近づくにつれ、少しずつはっきりとしてきた。
「なあ、どうしたんだ?」
海斗が二人に呼びかけると志乃は、はっと海斗と早紀を見てほっとしたように微笑んだ。龍夜は海斗を見ると手を挙げて簡単な挨拶をすると手招きをして呼び寄せた。
「・・・なんだ?」
「ふふふ、僕の事を覚えているか?・・・あの後いろいろと君たちの事は調べさせてもらったよ。学年で一番の実力を持つというペアと、それに次ぐなかなか優秀な組らしいな。しかし、どちらもとどめを刺したのは女性である君たちだそうだ。と、いうことは君たちの実力はそんなに凄くないのだろう?」
その言葉を海斗は冷静に、龍夜は怒り気味に、早紀と志乃はおろおろとして聞いていた。
「さらに君たちが有名なカップルだという事も分かった。しかし、そんな事は僕には関係ない。僕と付き合えばすぐにその魅力が君たちにも分かるだろう」
と言って海斗と龍夜の陰に隠れている二人に向かって手を差し伸べた。
そこであることが気になった龍夜が訪ねてみた。
「魅力が分かるって・・・二人同時に付き合う気かよ?」
龍夜の怪しむような言葉にアーベルは驚いたような顔をして、何を馬鹿なことを言ってるんだい?と言うふうに首を振った。
「何を言ってるんだい?二人どころか今は五人の彼女が僕にはいるんだ。ま、僕の人間としての器が大きいから彼女達も付いて来てるんだろうけどね」
自信満々にそう言いきった彼に教室中から軽蔑の視線が突き刺さった。特に当事者である早紀と志乃は嫌悪を込めた目つきで睨んでいた。
しかしアーベルはそんなものは気にせずに(気付いてないだけかもしれないが)びしぃっ!と海斗の方を指差して続きを言い切った。
「そこで、二人を君たちから取り戻すために勝負を仕掛けようと思う。まずはその、あー、まずまずの顔をしている君だ!」
おそらく海斗の容姿をけなそうと思ったのだろうが残念ながら海斗は容姿端麗な両親から生まれて、しかもいい所ばかりを受け継いでいるので女装すると早紀よりもきれいになる(早紀談)という程だったので無難な言葉に言い換えたらしい。
海斗は面倒くさそうな溜息を一つ漏らした。早紀と志乃は取り返すって何よ!?と叫んで龍夜は早紀達に台詞をとられて頬をぽりぽりとかいていた。
「ちなみに、負けた方は今後一切彼女達に近づかないと誓え!もちろんパートナーも解除してもらうからな」
自分が勝つのを前提とした台詞に早紀達は怒りを通り越して可哀想な気持ちになってくる。なにしろ、相手はあの海斗なのだ。勝てる要素は万に一つもない。そこで同じ結論に達したのか篠宮兄弟が止めにきた。
「おい、やめたほうがいいぞ、お前」
「そうですね、海斗君に勝てるとはとても思えませんし」
アーベルは激昂して振り返ったが、二人が出す魔力の大きさで強さを悟ったのか、何も言い返さずに海斗に向き直った。
「とにかく、君には僕と勝負してもらおうか。もちろん、拒否権はなし。場所は放課後武道館だ。・・・そうそう、証人も居た方が良いだろうから僕が人を集めておくよ」
そう言い残して教室を去っていった。海斗達のアーベルの感想は最初から最後まできざったらしくて何よりもむかつく奴だったな、というものだった。ともあれ、みんなあいつが海斗に叩きのめされるのが見られるのなら、と放課後の予定は空けていた。