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第十八話 志乃の秘密

 

 まずは、いつものように海斗が先に起きた。腕の中にすやすやと眠る早紀を確認してから微笑んだ。


 少し起きようとしたら早紀が寝ているにも関わらず海斗の腕をとって引き止めてきた。いつものことなのだが苦笑を禁じ得ない。


 起きるのは諦めて、早紀を抱きしめながらいつものように髪を撫でてやる。早紀の髪は柔くって、さらさらしていて絹のような手触りで、撫でていて飽きない。それに、髪や頭を撫でると早紀がとても嬉しそうな顔をするので、ついついやってしまうのだ。


「ふにゃ・・・みゅ・・・ん・・・海斗・・・」


 とてもかわいらしい寝言とともに自分の名前を呼ばれて、胸がざわついた。


 ふぅ、とため息を吐いて邪念を追い払う。自分の心をここまで揺さぶれるのは早紀だけなんだよなぁ、と思いこそばゆい気持ちになった。




 だんだんと意識が覚醒してくる。今日もいつもみたいに海斗が頭を撫でてくれて、抱きしめてくれている。今この瞬間が早紀にとっては一番幸福感が感じられる時間だ。


 だが、今日はいつもと少し違った。体全体が甘い疲労感に浸っており、腰がずっしりと重い。そこまで感じてから昨日あったことを思い出した。


 何度も夢見たこと。そういう行為を知ってからは好きな人とするのを何度も夢見てきた。昨日の海斗はいつも以上に優しくて、一緒になった時は嬉しすぎて思わず涙が出た。


 海斗の甘い囁きや、頭の芯が蕩けるキス、立てなくなる程の快感を与えてくれる手。すべてが早紀にとっては至上の幸福を与えてくれるものだった。


 早紀が起きていることに気付いたのか海斗の手が止まる。思わず目を開けてしまった早紀の目に飛び込んできたのは、いつもより五割り増しで優しそうな海斗の笑顔だった。


「おはよう、・・・大丈夫?」


 海斗が早紀の腰をさすりながら少し心配そうに聞いてくる。昨日のこともあってか、少し甘い刺激がきたが海斗の服を掴むことによってやり過ごす。


「おはよ、・・・大丈夫だよ」


 少し安心したようにそっか、と呟くとそっと顔を近づけてきた。早紀の胸が期待で跳ね上がる。腕を海斗の背中にまわしてキスを受け入れる。


 昨日のような頭の芯がしびれるようなキスではなく、ただ触れるだけのキス。ただそれだけで、早紀の胸は幸福感でいっぱいになってしまう。


「昨日の早紀、かわいかったよ」


 耳元で甘く囁かれて、またしても体に甘い刺激が走る。


「ふぇ?」


 とキスをされた後はぼ〜っとしてしまってまともに頭が働かなくて、舌足らずになってしまう。


 海斗はくすくす笑うと早紀の頬を撫でてきた。その心地よい感触に目を閉じて、自分から頬をこすりつける。


 足はいつのまにか海斗に絡まっていて、少しでも密着しようとしていた。


 こんな姿を見たら実久はなんていうかな・・・と思って答えが容易に想像できたので思わず笑みがこぼれた。


 海斗がぎゅっと抱きしめてきたのであわてて早紀も抱きついて海斗の感触を楽しんだ。こうしてぎゅっと抱きしめられたらもうそろそろ起きる、という海斗のメッセージだからだ。




 あの後朝食を食べ終わり、学院に向かって二人で歩いていた。


「ね、ね、海斗。今日って魔力視のテストだよね?」


 朝は初めてなだけあって辛そうな早紀だったが、それに気付いた海斗がすかさず魔術で回復させたので、元気になっていた。


「・・・そうだったな。二人ともできてたみたいだから問題ないか・・・そうだ。早紀、いまから魔力解放するから見えるかやってみて」


 海斗に言われて慌てて準備する。ふわっと海斗の髪が持ち上がる。早紀は眼に魔力を通す感じで集中した。すると海斗の顔の前あたりに「合格」と魔力で書いてあった。


「すごーい、海斗・・・こんなこともできるんだ」


 早紀の言葉でちゃんと見えていた、ということが分かった海斗は早紀の頭を撫でてやりながら心配ないな、と呟いた。


 いつもなら嬉しそうにはみかみながら見上げてくる早紀なのだが、今日は嬉しそうだが何処か物足りない顔をしていた。


「どうした?」


「え?・・・あ、ううん。なんでもない」


 少し心配になったので聞いてみたけど、何かを我慢するようにきゅっと手を握って少し笑いながら答えてきた。


 一つも何ともなくはなさそうなのだが本人がそう言うのなら追求しても仕方ない、と思ってそっとしておいて次の話題にふった。


「それにしても、一日で完璧にマスターするとはな、才能とかもあるだろうけど・・・がんばったな、早紀」


 頬を撫でてやりながら眼を見て微笑みながら褒めてあげると、今度はいつものように(顔が少し赤かったが)はにかみながら嬉しそうにしていた。


「えへへ・・・」


 なんだか納得のいかない海斗は首をひねっていたが、早紀はずっと上機嫌だった。


 




「よっしゃあ!今日のテストは海斗のおかげで怖いもん無しだぜ!!」


 教室に着いていつもの四人で話していたが、テストの話題になったとたんに龍夜がいきなり叫んだ。


 クラスメートもこうした龍夜の突発的な行動になれてきたのかあまり驚いていない。


「そうだね、今日のテストは安心して受けれるね」


 最近、志乃の口調も会った時のおどおどとしたものではなく、優しいものに変わってきていた。


 それに気付けるのは三人だけだが、確実に変わってきている。


 気になって早紀が聞いてみると、本人は自覚していなかったのか、眼を丸くして驚いていた。


「えっと、その、変ですか?」


 と、すこしおどおどとした様子で聞いてきた。


「ううん。全然、むしろそっちの方がいいんじゃないのかな?」


「そうそう。お前はそんな構えてないで気軽にいけばいいんだって」


 龍夜が頭をぽんぽん叩きながら笑いかけながら言うと、志乃は顔を赤くしていたが嬉しそうに微笑んだ。


「でも、最近眼のことで何も言われなくなって・・・それでかもしれないんだけど」


 そこで、そんなほのぼのとした雰囲気を壊す一言を発言しようか海斗は迷ったが、結局言うことにした。


「・・・ちょっと皆、志乃の眼を見てくれ」


 いきなりのことに不審に思いながら皆志乃の眼を覗き込んだ。


「じゃあ、そのままにしとけよ・・・Perception operation」


 海斗が志乃に向かって呪文を唱えると、志乃の眼がすっと紫から青に変わった。


 二人は驚愕で眼を見開いた。


 志乃は理解してないらしく、自分の眼を凝視している二人を見て眼をぱちくりしていた。


「どうなってるんだ?」


「・・・なにしたの?海斗」


 海斗は罰の悪そうに頬書きながら説明した。


「えっとだな、早紀の眼は少し特殊で・・・なんていうか、龍夜の《心の眼》・・・あ、龍夜の能力は巷ではこういわれてるんだ」


 龍夜は予期せぬ自分の能力を引き出されて驚いていたが、頷いた。


「志乃も、というよりは志乃の眼は《鏡の眼》と言われていて、持ち主が思っている色をすると言われている。そして、志乃には周囲が何らかの形で志乃に悪魔とかの知識を植え込んだ。幼い志乃が好奇心でいろいろ眼の色を変えていて、紫をイメージしてしまい、それが印象強くて忘れられなくなった。と、こんな感じだとは思うぜ」


 龍夜はすぐにピン、ときた。志乃の家は結構有名な退魔の家柄だ。本などを見て、こんな悪魔と自分が同類だ。と思い込んでしまえば、幼い志乃には衝撃的だっただろう。それで自分は悪魔と同類だ、と何処かで自己暗示のようになってしまい、眼が紫になったんだろう。


「え・・・?じゃあ、いままで皆はわたしの眼が何色だと思ってたんですか?今の説明だと、噛み合ないような気がしたんですけど・・・」


 それもそうだ。眼の色が変わるといっても、それは自分が思った時だけで、今海斗に教えられるまでそんなことは気付かなかったんだから。


「それはその・・・会った時に眼でいじめられた、とかって言ってたからその、勝手だとは思ったんだけど幻術をかけておいたんだ」


 幻術?と聞き慣れない言葉に皆が耳を疑った。


「そう、志乃の眼を見た奴は皆が水色だって思い込むようにしておいたんだ。これは極東の異国での魔術だから知らないのも無理はないけどね」


 へぇ〜と龍夜と早紀が感心していたが、志乃は俯いていた。


 海斗はやっぱり勝手にやったらだめだったのかなぁ、と思って困ったように頬をかいていた。


 普通に考えればそんなの大歓迎なはずなのだが海斗は何処かずれているのでそうは思わなかった。


「ごめん、一言断っといておいた方がよかったかな・・・」


 志乃を気遣うセリフに志乃がぴくん、と震えてはぁ、と息を吐いた。


「・・・ずるいです。海斗君は・・・なんでもできて、それを全くまわりに気付かれずにやっちゃうんですから・・・もし龍夜と会ってなかったら惚れちゃってましたよ」


 さりげなく龍夜のことを呼び捨てにしたのはさておき、何処かふっ切ったような顔をして冗談を言ってくる志乃に皆で笑いながら言葉をかけたりして時間を過ごした。







 どうだったでしょうか?

 最強の魔術師!も、もう後3,4話で終わろうと思います。続編や、番外編を希望される方が一人でもいらっしゃれば書きたいと思います。

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