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第十五話 誓い

 その後両親の登場で冷静に戻った海斗は後悔の表情を見せていた。


 早紀は落ち込んでいる海斗を少しでも助けようと思い、抱きしめる腕に力を込めた。


 海斗ははっとしたかのようになり、だんだんと体の力を抜いていった。もう大丈夫、というふうに優しく早紀の頭を撫でるとお返しというばかりに優しく、強く抱きしめた。


 その様子を龍夜と志乃はにこにこと、篠宮兄弟は呆然と、サリエスと龍斗は苦笑いをしながら、しかし何処か安心したかのように見つめていた。


 


「でも、いくら早紀ちゃんがやられそうになったからって・・・あれはないでしょうが、あれは」


 海斗が京介達に使ったのは古代魔法《To end all》といって城一つは軽く粉々にすることができる代物だった。


「あれを本気で放つと、どうなるかぐらいお前にも分かろう」


 その父の諭すような言葉に海斗は意外そうな顔をした。


「・・・え?分からなかったのか?父さん。あんなの全然本気じゃなかったよ?込めた魔力は半分程だし、当てる寸前で爆発させただけだよ。じゃなけりゃ《最強の盾》でもあの魔法を防ぎきることなんて無理だったと思うけど」


 龍斗とサリエスは唖然とした。先ほど二人が張った全力を込めたシールドはそんな攻撃であっけなく吹き飛ばされてしまったからだ。


 しかし、それ以上に驚いたのは海斗が手加減をしていることに二人が気付なかったことだ。二人はあのとき完全に海斗は度を失って京介達を殺す気でいる。と思ったから止めに入ったのだがそれは間違いだったようだ。


「ま、それでも爆発の衝撃で全身骨折、打撲で五ヶ月は動くことも無理だっただろうけど、な」


 その言葉に京介達は渋い顔をした。途中で気付いたとはいえ、自分達はなんていう化け物を見下していたんだろう。と


 そこに龍夜ががしっと海斗と肩を組んできた(早紀が瞬時に羨ましそうな視線を投げたが気付くものはいない)。


「しっかし、本当お前って凄いな」


「そうです。あんなに凄いの、一生に一度見れるか見れないか、っていう程の呪文でしたよ」


 海斗は二人に笑いかけてさらり、と恐ろしいことを言った。


「そっか。じゃあもっと凄いの見せてやろうか?隕石が降ってくるのとか」


 篠宮兄弟と龍斗とサリエスはぎょっとなった。それは古代魔法の最上位に位置する呪文で、古代に存在したというドルイドですら二十人がかりでようやく唱えることができる呪文である。


 当然そんなに凄いとは知らずに早紀達は眼を輝かせて海斗の話に聞き入っていた。


 龍斗がいち早く我に戻ると少し大きな声で一喝した。


「だめだだめだ。そんなものはむやみに使う呪文ではない。君たちも諦めろ」


 龍夜ははあい、と早紀達が頷いたのを確認すると海斗に視線を移した。


「・・・ここまでとは、正直言って全く予想していなかった。お前は完全に私たちを超えた。卒業して晴れてこれからは自由の身だ」


 海斗は父の眼をしっかりと見返して力強く頷いた。


 場の雰囲気が一気に緩んだ。皆の間にほっとした空気が流れると同時にそれまではうずうずしながらも大人しくしていた早紀だったが、我慢できない、とばかりに海斗に飛びついた。


「ん〜〜〜〜〜〜〜〜っ海斗〜〜〜♪」


 この上無く幸せそうにすり寄ってくる早紀に向かって微笑むと、早紀の脇に手を入れてすっと抱き上げた。


 とたんにぽっと早紀の頬が赤くなる。相変わらず海斗に早紀の恥ずかしがるポイントは分からないままだったがそのまま膝の上に乗せてやる。


 とたんに顔を輝かせて頬をこすりつけてくる。端から見ても、どんな鈍感が見ても分かる程に早紀は体中で海斗大好き!!!!と叫んでいるようだった。


 海斗はそんな早紀の背中を抱きしめて頭を優しく撫でてやる。


「へにゃ・・・」


 蕩けきった表情を見せる早紀に向かって海斗は早紀の額にキスをする。


 そんな恋人の姿を見てその場一同はため息を吐いた。


 


 ところで、一回も会話に混じってこなかった教師陣はというと戦いの凄さに頭がついてこなくて数十分は固まっていたという・・・・・・




「まずは準備段階、一番簡単な始動キーは『属性 in my hand」という言葉です。これは中等部でも習ったかもしれませんが・・・・・・」


 と、海斗や篠宮兄弟はともかくもともとトップな成績で入学した早紀達にも意味の無い授業であった。


 特に早紀達の心境は、おさらいなんかどうでもいいから早く海斗みたいな呪文を使いたい。ということだったが途中でそれに気付いた海斗が苦笑いをしながらも今まで自分がしてきた修行の内容などを説明して(顔色が少し青くなっていたが)理解してもらって、皆授業に集中するようになった。


「でも、海斗は何でそんなに力が欲しかったの?」


 相も変わらず海斗の右腕を抱くようにしながら早紀が聞いてきた。


「・・・幼い頃は、人々に迷惑をかけるモンスターを倒して感謝されている二人が、本当にヒーローみたいに見えたんだ。だから俺もあんな風になりたい、って思ってね・・・現実は少し厳しかったけど」


 ぽろりと口からでた愚痴のようなものに海斗は自分で、らしくないなと思って苦笑した。


 ふと視線を下にさげると、じーーーーっとこちらを見上げてくる瞳とぶつかった。それは何処か非難めいていて、でも優しくて、海斗は動揺した。


「・・・な、なに?」


「・・・海斗は・・・海斗はもう、気にしなくてもいいと思う」


 その慰めるように言われた内容がよく分からずにえ?と海斗が聞き返そうとすると、それを止めるようにきゅっと海斗の腕を抱く力に力がこもった。


「海斗は間違ってなかったよ。サリエスさんや龍斗さんは気付かなかったかもしれない。でも、なら、わたしがはっきりと言ってあげる。海斗が二人の真似をしたことによって助けられた人にとって海斗はまぎれも無くヒーローだったと思うよ」


 早紀の言葉は海斗の胸にじんわりと染み渡っていった。海斗の眼を覗き込んでくる早紀の眼は優しくて、力強くて、こんな一面を見せられるともっと、もっと早紀のことが好きになる。


「・・・ありがと」


 腰に手を伸ばして引き寄せながら言うと、早紀は嬉しそうに笑った。


 ますますじゃれついてくる早紀の頭を撫でながら考えた。どうしてこの娘はこんなにも自分の心を惹き付けるんだろう、と。


 早紀の笑顔を見ると心が温かくなるしもっと見たい、その幸せそうな表情をもっと見たい、と自然に思ってしまう。


 ふぅ〜っと早紀が幸せそうなため息を吐いて少し切なそうに見上げてきた。


 海斗がなんだ?と思うと早紀が口を開いた。


「海斗は・・・海斗は、どこにも行かないよね?何処かにあたしを置いて行っちゃったりしないよね?」


 正直言ってこの潤んだ眼で上目使いをされて、こんなかわいいお願いをされて断れる男はいないと思う。


 海斗はそんなことなど言われるまでもなくぎゅっと抱きしめて、安心させるように力強く、優しく言った。


「あたりまえだろ?前言ったこともう忘れたのか?・・・早紀がもう一緒にいたくないって言ったってもう離してやらないからな」


「あ・・・・・・」


 早紀は海斗が言ったことを噛み締めて、ゆっくりと飲み込むようにしている。だんだんと眼が潤んできた。


 海斗は授業中なので不可視の呪文をかけていたが、防音も追加しておいた。


「・・・ううん、忘れてなんかない。わたしだって、なにがあったって、海斗と、離れたくなんかない。ずっと一緒にいて?海斗」


 嗚咽を繰り返しながら必死に言葉を紡ぐ早紀に海斗は苦笑した。ああ、この娘はどこまで自分を惚れさせたら気が済むのだろう、と。







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