第十三話 転校生
少し時間軸をずらしてみました
小鳥のさえずりが聞こえてくる・・・・
ある家では、二人の男女が額を寄せ合って仲良く眠っていた。
二人とも幸せそうな表情をしていて、見るものの心を温める光景であった。
ごそごそと男の方が起きだした。傍らに眠る女の子を見るとその整った容姿で優しく甘く微笑んだ。
今は朝食の時間。早紀は海斗のために朝食を作っていて、そのあいだ海斗は部屋の片付けをしている。
早紀は手早く朝食を作ると海斗を呼んで机に料理を並べ始めた。
海斗がやってくると早紀は幸せそうに微笑んだ。彼女はつい一週間程前に人身売買の事件に巻き込まれた時にその場に居合わせた海斗に助けてもらい、今はこうして同じ家で住んでいる。
本来ならばすぐに出て行く予定だったのだが、早紀がまず、海斗の純粋な優しさに惚れてしまった。そうこうしているうちに海斗も早紀に惚れてしまい、そのまま早紀は海斗の家に住むことになった。
二人は美男美女で、周りが見てもかなりお似合いだった。それに加えて周りの眼を引くのは二人の仲の良さである。
誰が見ても二人はラブラブで、邪魔をすることは考えられない、むしろ応援してあげよう、と周りが思うぐらいに二人は仲が良かった。
特に武術大会で一気に有名になった二人は『H組の最強馬鹿カップル』と学院中で噂になっていた。
海斗がおいしそうに早紀が作った料理を食べるのを見ながら早紀は思った。
海斗があのときいなかったら自分はどういう人生を送っていたんだろう、と。早紀はかなりの美少女なのでおそらく何処かの貴族にかなりの高額で売り付けられていたに違いない。
そんな人生でも大きな岐路に、海斗が立ちふさがってこんなにも幸福な道を作ってくれた。
彼には感謝してもしきれない。
とそこで家の玄関から女性の透き通る声が聞こえてきた。
「おっはよ〜〜〜、海斗、早紀ちゃん♪」
いきなりリビングに乱入してきたのは、金髪碧眼で恐ろしく容姿が整っていて、何処か海斗に似ている女性。
そう、サリエス・クラージだ。
この間からたびたびこうして家にやってくる。海斗はこの奇抜な行動になれているのかあんまり驚かないが、早紀としては突然で驚かずにはいられない。
「おはよう、母さん」
「お、はようございます」
「うんうん。おはよ。ところで早紀ちゃん、もう少し砕けた言葉遣いしてもお姉さん怒らないわよ♪」
少しそれは無茶な注文である。海斗の母親というだけでもそうなのに彼女は至高の魔法使いと言われている魔法使いなのである。普通は話すことも無く一生を終える身分の早紀としては話しづらいことこの上ない。
その様子を見て少し困ったような笑みを見せた彼女は急に意地悪な笑みを浮かべて早紀に抱きついてきた。
「え、あ、わわわっ・・・・・ふう」
彼女は倒れそうになったのをなんとか堪えた早紀の耳元で一言。
「そんな聞き分けのない娘に、家の海斗は任せられないなぁ」
とこの上なく楽しそうに呟いた。
とたんに早紀の体と脳は条件反射のように動いてサリエスの肩をつかんで引きはがすとその眼を見て言い放った。
「わかりまし・・・わかったわ。サリエスさん」
その様子にうんうんと嬉しそうに頷いていた。彼女は初めてこの家に来た時も仲良く話していた二人を見たとたん意地の悪い笑みを浮かべて海斗をさんざんからかっていた。
彼女にはどうやらこういう癖があるらしい。だけど早紀は彼女のこういった癖が嫌いではなかった。むしろ茶目っ気たっぷりで、噂よりも遥かに親しみやすかったからだ。
その様子を見て海斗がはぁ、とため息を吐いて自らの母を見やった。
「母さん、また何か早紀に吹き込んだでしょ」
ニコニコと笑みを浮かべている母を見て諦めたのか視線を外すと、早紀の方に眼を合わせてきて大丈夫?と眼で聞いてきたので早紀は微笑んで頷いた。早紀は何かがあったらまず早紀の身を案じてくれるこの海斗の行動がたまらなく好きだった。
サリエスはそんな二人の様子を先ほどよりもさらに満面の笑みで見ていた。実は彼女、二人のこういった仲のいいのを見るためにからかったりしているのだがまだまだ未熟な二人は気付いてない。
そのままサリエスの転移魔法で学院へと向かった。
「ちっす、海斗、早紀」
「おはようございます、海斗君、早紀ちゃん」
「おはよう、二人とも」
「よっ、おはよ」
手早く朝の挨拶をし終えると四人は席に付いた。
龍夜と志乃も相変わらずのようだ。
早紀は相変わらず海斗にじゃれついていた。海斗はそれを快く受け止め微笑みながら早紀の頬やら髪をいじっていた。早紀は嬉しそうに微笑んでさらにじゃれつく。
龍夜達はその様子を見てあいかわらずだなぁ、と苦笑する。とは言うものの龍夜達もしっかりと寄り添っていたりしている。
要するに程度の差こそあれどちらもバカップルなのだ。
それはともあれ、蘭が教室に入ってきたので話がやんだ。
「よっし、ホームルーム始めるぞーホームルーム」
と、いきなりいかにもやる気のなさそうな声で始めた。しかし、これで案外これで男勝りな美人女教師は生徒にも教師にも人気はある。
「っと、その前に転校生だ。・・・入れ」
ぴたっとクラスの動きが止まった。誰の眼も爛々と輝いている。転校生とはこんなものだ。
がららっと扉を開けて入ってきたのは真っ黒な服を着た髪や目もまた真っ黒な少年と、こちらは対照的に華やかな衣服に身を包み髪は燃えるような赤の少女であった。
「篠宮 京介だ」
「篠宮 香です。よろしく」
「え〜、信じられんとは思うが二人は双子だ。二卵性双生児とかで似てないそうだ」
二人は頷いてからしてされた席に座る。と思いきや
「篠原 海斗、我々と勝負してもらいたい」
男の子の方が海斗の眼を真っすぐに射抜いて宣戦布告をしてきた。
その体からは戦士特有の『気』が立ち上っていた。それは思わず蘭が後ずさる程の大きさだった。
「わたしからもお願いします」
と、少女からは膨大な量の魔力が立ち上っていた。明らかに海斗を挑発している。
海斗ははぁ、とため息を吐くと
「断る」
とすっぱりと一刀両断した。京介と香は驚いたようだったがいきなり笑い出した。
クラス中が訳も分からず成り行きを見守っていると京介が口を開いた。
「ははは・・・いや、あの方があれほどまでにべた褒めするのだからどんなやつかと思えば・・・ただの腰抜けじゃないか」
なんですって!!??と海斗よりも先に早紀が思わず身震いを起こす程険のこもった声で言い返したが、京介はそんなものどこ吹く風。そのまま続きを続けた。
「ふん、俺はあの篠原 龍斗に剣術を、横の香はサリエス・クラージから魔術を授かっている。そして、俺たちの卒業課題がなぜかお前を二人で倒すことだ」
明らかに海斗を弱者と見立てた言葉に早紀はかっとなり、二人の弟子、と聞いて皆が唖然としていたが海斗だけは慣れているのかそれとも根が豪胆なのか平然としていた。
そして、重いため息を一つ吐くといかにも面倒くさい、といった感じで口を開いた。
「・・・またか・・・あの二人の俺に対するいたずらはだんだんエスカレートしてきてるな・・・なあ、お前ら教えてもらったのは何年間だ?」
「三年間だが、どうした?俺は篠原流剣術を修め、香は魔術の極意を授かっている。お前なんて相手にならないんだよ、俺たち二人を一人で相手にして勝てるのはあの二人ぐらいだぞ?」
事情を知っている龍夜達はいかにも誇らしそうに話す二人を見て苦笑を禁じ得なかった。その二人掛かりでも敵わない二人を同時に相手をしても海斗は勝つだけの実力を持っているのだ。
早紀はいかにもサリエスさんらしいなあ、とくすりと笑った。しかし、それが彼の逆鱗に触れたらしくきっと睨みつけてきた。
「何がおかしい!・・・もしかしてお前、俺の言っていることが嘘だと思っているんじゃあないのか?」
彼に詰め寄られてあわてて早紀は海斗の陰に隠れる。早紀が近くにいて大丈夫な男性は海斗と龍夜ぐらいなのだ。
その様子を見てちっと舌うちをすると京介は隣の香に向かって話しかけた。
「なあ、無理矢理しょっぴいてでもこいつとやるか?こんな奴なんで卒業課題になったかは知らないが・・・しょせん、あのデスデーモンを倒す程の実力を持っている俺たちには敵わないだろう」
それを聞いて香がこくんと頷く。ここまで話して気付いたが暗い印象の京介は饒舌で、華やかな印象の香はあまり喋らないようだ。
ちなみにデスデーモンとはAクラスの魔獣で、普通ならば一個中隊で掛かる程の魔獣である(ちなみに海斗は六歳の時に瞬殺)。十分誇れる成績なのだが、海斗にしてはまだまだランクは低い。
何しろ海斗は神獣と呼ばれている、ドラゴンを五体を二十秒で倒すことができる。それに、海斗はサリエスや龍斗とぎりぎりで勝ってると思っているが、実はそうではない。海斗は二人をなるべく傷つけないように手加減をして戦っているのだ。それにそれに初めて気付いた二人は、戦慄を覚えずにはいられなかった。
何しろ海斗は、この世で最強の二人が全力で戦っても相手はこちらを怪我させないように手加減をする余裕まであるというのだ(いつも二人が戦った後ぴんぴんしているのはこのおかげ)。
自分が無意識に手加減していることにはもちろん気付いていない海斗だったし、さらに二人が手加減をしてくれている、とも思っていた。
「いいからこいっ!あ、これは理事長からの許可状だ」
と、彼は強引に蘭に一枚の紙切れを押し付ける。そこにはサリエスの達筆な字でこの二人と海斗との戦闘を認め、授業免除とする。なお、龍夜と志乃、早紀は本人が希望すればついて行ってもいいとのことだ。
もちろん三人はついて行くし、この二人はやる気満々だしで海斗は重いため息を吐くしか無かった。自分は平穏な学院生活をして早紀や龍夜達と仲良くできればそれでいいのに・・・と、しかしその想いは誰にも届くことは無かった。
「そうだ。俺も後で見に行くからな」
がくっと海斗は肩を落とした。
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