第十二話 幸せな時間
今回はらぶらぶ、あまあま度がかなり高いです。慌てて書いたので誤字脱字があるかもしれませんが、とりあえず第十二話です。
しゅっと二人は海斗の家の側に転移してきた。早紀は二人になったとたん海斗に飛びついて、さっきの海斗を褒めちぎった。
海斗は早紀を優しく受け止めて早紀の褒め言葉を受け取った。先ほどもいろんな人にほめられたが、やっぱり早紀に褒められた方が嬉しい。
ぶら下がるように抱きついてくる早紀の腰を支えてやりながら家に入った。
「あ。これはちょっと見ちゃだめ」
今は早紀が買ってきた膨大な量の洋服を分けながらクローゼットに押し込んでいる途中だ。俺が何となく袋を手に取ると早紀が焦ったように俺の手から袋を取り上げた。
「・・・?」
「あ、こ、これは・・・その・・・」
恥ずかしがる早紀にようやく袋の中身に見当がついた。
「ごめんごめん、さ、続き続き」
「うん」
早紀の頭を撫でてやりながら言うと少し顔を赤らめてもじもじしながら、嬉しそうに頷いた。
片付けが終わったとたんに早紀は海斗に飛びついてきた。海斗がなかなか片付かないのでいちゃいちゃするのを禁止したのだが、先ほど頭を撫でた所為でスイッチが入ってしまったようだ。
正面から力一杯抱きついてきて海斗の胸に顔を埋めて幸せそうに頬擦りをした。
「ふにゃ・・・」
思わず漏れた声に自分でも驚いたが、海斗の前だから・・・と気にしなかった。
海斗は今まで誰も寄せ付けようとはしなかった自分の心を優しく、優しく解きほぐしてくれる。背中にまわされた腕と優しく頭を撫でる感触がとてつもなく心地よい。
これはもう、麻薬みたいな魅力を持っていた。おそらくもう、毎日これをしてもらえないと気がおかしくなるかもしれない。だけどもう深みにはまってしまって、何があっても抜け出せない、抜け出そうとは思えない。
「・・・早紀、ありがとう」
「ふぇ?」
突然お礼を言われて少し戸惑った。
「いや、早紀がこうしていてくれると、心が落ち着く。それに早紀とこうしているのはとても心地いいし・・・だから、早紀がここにいてくれることにありがとう、かな?」
思いがけない海斗の言葉に早紀の体がかっとなった。体の芯にぽっと火が灯ったみたいで、じんわりと体全体が暖められる感じ。それがとても気持ち良くて、この気持ちをなんとか言葉にして伝えようとした。
「え、あの、わたしも、海斗がこうして抱きしめてくれたりしたらとっても気持ち良くて、いつまでもこうしてもらいたいなっていつも思ってるし、てそうじゃなくて・・・」
言いたいことが上手く言葉にして伝えられないもどかしさに早紀は焦ったが、海斗はぎゅっと抱きしめて耳元で甘く囁いた。
「大丈夫。早紀の言いたいことは分かったから、ありがとう」
早紀の瞳は蕩けきり体の体重をすべて海斗に預けていた。海斗はこうして本人には何気ない行動によって早紀を落としていった。(自覚がないのがまた怖い)
あの後、二人でまた一緒にご飯を作ると二人で食べて、風呂に入った。
風呂から上がり居間でくつろいでいた海斗に風呂上がりの早紀がタオルを持ってとてとてと駆け寄ってきた。髪が濡れていて、いつもよりも魅力が倍増している早紀に海斗の心臓は高鳴ったがなんとかそれを押さえつけた。
「海斗〜、髪の毛拭いて〜」
「うん?いいよ」
早紀は海斗の座っているソファーの前にぺたんと座ると嬉しそうにタオルを差し出してきた。
海斗はそれを受け取って、痛くないように優しく、それでいて弱すぎないように丁寧に拭いていく。
「えへへ、気持ちいい」
早紀は海斗の足にもたれかかり気持ち良さそうに眼を閉じた。
「はい。できたよ」
ありがとーと言ってぴょんと飛び上がると、いつもなら飛びついてくるのだが(これは会って二日目で最早いつもと言えるぐらいの行動である)少し頬を染めてもじもじしている。
「・・・どうかした?」
「えっ?ううん、なんでも・・・ってなんでもない訳じゃなくて・・・その・・・そこ・・・」
と恥ずかしそうにして海斗の膝を指差した。
「?」
なんのことか分からずに首を傾げるしかない海斗に早紀は意を決したように顔を上げると、くるりと半回転しておずおずと海斗の膝に座ってきた。
緊張をほぐすようにほっとため息を吐くと、体の力を抜いてきた。
「・・・こういうこと。ちょっと恥ずかしかったから」
早紀の恥ずかしがるポイントとは海斗にはあまり理解できないものが多かったが気にせず早紀の華奢で柔らかい体を抱きしめた。早紀の頭がちょうど首筋のあたりにくる。
「あ・・・」
ため息を吐いてまた嬉しそうに笑う。体を預けてくる早紀からはシャンプーと早紀の匂いが混じった甘い、いい香りが漂ってくる。
二人の間に沈黙が流れる。それは気まずいものではなく、安堵感に満ちた、思わずその場に居合わせたものを微笑ませるような穏やかな沈黙だった。
早紀はあの後しばらくして寝る時間になって海斗と分かれて部屋に入ってベットの中に潜ったが、昨日の晩の海斗の腕の中で眠りにつく心地よさを体が覚えていて、なかなか寝付けずにいた。
そろ〜っとベットから降りる。海斗は武術の並外れた達人でもあるので、家の中の動きはすべて気配で分かると言っていた。最早人外の存在のような気もしたが海斗ならそれぐらいは・・・という気になって深くは考えなかった。
しかし、この状況では仕方がない。海斗に気付かれないように、自分の能力を最大限に生かして海斗の部屋に忍び寄った。
ドアを音を立てずにあけ、部屋の中にするりと滑り込んだ。どうやら海斗はぐっすりと眠っているらしい。
海斗の眠るベットに潜り込んだ。たちまち早紀の大好きな海斗の体温が感じられた。息をいっぱいに吸って海斗の匂いを吸い込むと、とたんに眠くなった。
心の中で海斗にお休み、と呟いてから早紀も眠りに落ちていった。海斗と額を合わせるようにして。
朝何か暖かいものに包まれる感覚で起きた海斗は眼を見開いた。早紀が海斗に抱きついて眠っていたからだ。海斗は普段から家中に気を張っていて、家で何かが動いたらすぐに起きるようにしている。それなのに隣に早紀が来ても気付かずに眠っていたのである。
鈍ったかな・・・とも思ったがすぐにその考えを打ち消す。早紀だから気付かなかったのだ。自分の心の奥の奥まで踏み込んでいる早紀だから気付かずに眠っていたのだ。
くすり、と笑って早紀のその絹のような柔らかな手触りの髪をもてあそんだ。早紀が起きるまでにこにこと幸福な気持ちに浸りながら笑って待った。
朝学校に行くと、ちょうど志乃が龍夜に昨日の海斗がおばあさんを助けたことを熱心に話しているところだった。
おはよ、と言って席につくと龍夜も若干興奮しながら海斗に昨日のことを聞いてきた。
いろいろと誇張された内容に苦笑しながら(海斗が床を叩き割ったとか一瞬で三十発ぐらい男に叩き込んで昏倒させたとか・・・どれも不可能ではないがやっていない)一つ一つ否定しながら真実を教えていった。
なんだよーと言って龍夜が志乃に抱きついた。志乃が嬉しそうに悲鳴を上げながら逃げていく。早紀と一緒に笑いながらその様子を見る。
海斗はふと思った。いつまでもこんな幸福が続けばいいのに、と・・・そんな海斗を不思議そうに早紀が覗き込んできた。なんでもない、と返して今はこの幸福に身を任せることにした。
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