welcome to my house(卅と一夜の短篇第12回)
残すつもりもなくて、残されるつもりもなくて、離れる予定すらなかった。
軽い気持ちで肝試しなんてしてしまったこと。
私たちが悪いとは思っているけれど、まさか、こんなことになるとは思っていなかったんだもの。
始まりはそう、本当に、だれが言い出したことなのかすら覚えていない。
私たちの住んでいる町には、肝試しスポットとして有名な空き家があった。
汚くて、いつからそこに人が住んでいないのか、それどころか、その家はいつからそこにあり、だれかが住んでいたのかすら、だれも知らない家だった。
噂によれば、その家の持ち主は、殺されたんだとか。詳しいところは知らないけれど、それからはこの家に憑りついて、家を訪れる人を呪い殺しているんだって。だからたぶん、家関連で殺されたんだろうね、たぶん。
何人かそこで恐怖体験をしたって聞いて、噂に信憑性が出てきた頃、私たちの間でも話題に上がったんだ。
それで「行ってみようか」という話になってしまった。
やめようと言ったって、臆病者だって言われるんだから、行くしかなくなっちゃうし?
月も星も明るくて、不気味さを感じない夜だったし、私もその場のテンションに任せてその家に入った。
人数もいたから恐怖が薄れていた、興味の方が勝っていた、最初は平気でいられた理由はたくさんある。
けれどその”家”の噂は、ただの噂ではなくて、興味本位で侵入した私たちに、やはり牙をむくのであった。
外にいるうちには、綺麗に晴れ渡っていたはずなのに、家の中に入った途端に、辺りは暗闇に包み込まれる。
窓はたくさんあったし、月明りが入ってこないはずがないのに。
「何、何よこれ、閉じ込められた……」
一緒に”家”に忍び込んだのは、私を含めて六人。
その中で最も臆病で、乗り気じゃなかった小柄な女の子あーたんが、早速帰ろうとしたらしく、扉を開けようとして呟く。
そんなわけがないと、私も扉を開けようとするけれど、本当に全く動くことがない。
先程、簡単に開くことのできた扉だ。
外側からだと開けやすく、内側からだと開けづらいとか、そういったことがあるのだろうか?
何にしても、だれもいないこの場所で、閉じ込められるだなんてありえない。
風だってほとんどなかったのだから、ありえるはずがない。
ガタガタ、ギシギシ、ペタペタ、ガタンッ!
どこからか、不気味な音が聞こえてくる。
扉が開いたり閉じたりするような音。だれかが歩いて、床が軋むような音。そして、足音。
だれも動いていないはずなのに、音は止まず聞こえてくるのであった。
「とりあえず、明かりが必要だろ。各自、懐中電灯を取り出せ」
逃げ出したくて、恐怖で頭が回らなくなって、冷静な判断などできそうになかった。
聞きたくないのに音に耳を澄ませて、背筋が凍るような心地になる。
そんな私たちに、リーダー気質の男の子しゅんが、逸早く冷静に戻り指示を出す。
二人ずつに分かれて、各部屋を回るつもりだった。
はぐれてしまう可能性も考えて、全員が懐中電灯を持参しているのだ。
今日は月が明るいから大丈夫だと思ったが、一応は持って来ている懐中電灯を、私は背負っているリュックから取り出す。
ちなみに他に入っているのは、携帯電話とジュースとお菓子である。
……携帯電話っ?!
そうだ、それがあるじゃないか。
お母さんに電話を掛けよう。そうしたらきっと、外から開けてもらえる。
ひどく怒られることだろうけれど、こんなところに閉じ込められるよりは、よっぽどましだった。
そう思って携帯電話を取り出すが、電源が付かない。
充電が、ない……?
どうして? 家を出る直前まで充電をして、満タンにしてきたはずなのに、なくなるわけがないのに。
「ミッション変更だな。この家を探検して、謎を暴くことではなく、この家から脱出すること。それでどうだ?」
ついさっきまで恐怖に震えていたくせに、余裕なふりをして、でもやはり声が震えている様子。
強がりなこいつは、中心になって肝試しを盛り上げていた男の子、ゆきただ。
怪奇現象を起こして人を怖がらせる、そいつがだれなのか暴いてやろうと、それが最初のミッションとなっていた。
提案したのはゆきたではなく、心霊現象についての本をよく読んでいる、クールでミステリアスな女の子りんたんなんだけれど。
「だ、脱出って、でもドアが開かないのに、どうしたら良いの?」
ゆきたに問い掛けるのは、引っ込み思案で流されやすいけど、意外と頑固なさきさき。
あーたん、しゅん、ゆきた、りんたん、さきさき、そして私の六人は中学二年生で同じクラス。いつも一緒に遊んでいる、仲良しグループであった。
それぞれが全然違うから、一緒にいるとすごく楽しくて、六人ならなんでもできるような気がするのだ。
今回だって乗り越えられる、六人が一緒にいれば、無敵なのだ。
そう思っているのに、体の震えは止まらなかった。
仲間を信じる気持ちが、信じたいという希望に、変わっていくようだった。
「脱出なら、朝を待てば良いんじゃないの? 謎を暴く度胸もないんなら、大人しく、家でお留守番していれば良かったものを」
押しても引いても、扉が全く動かないことを、りんたんも自分で確認していた。
しかし閉じ込められたことは認めても、未だに、心霊現象だとは認めたくないらしい。
彼女は頭が良くて、心霊現象を科学で証明しようとしている。
ここにきても、謎を暴こうなどと言える、彼女ほどの度胸は、残念ながらだれも持ち合わせていない。
とはいえ、それで怖いから無理と言うメンバーなら、最初から肝試しに参加などしない。
臆病者と言われたとしても、苦手だから無理だと断ることだろう。
「なんだと? 言ってくれるじゃないか」
最初に挑発に乗るのはゆきた。
「謎を残したまま、逃げ出すなんてできないな」
次に乗るのはしゅん。
「置いて行かないでよ」
三人が行こうという話になったので、最後に残ることを恐れて、あーたんが続く。
「気になるは、気になるもんね」
過半数に同意をするさきさき。
肝試しに行こうと話をしたときと、大体は同じ順番だった。
そして予定通り、怪奇現象の謎を暴くミッションがスタートする。
残すつもりもなくて、残されるつもりもなくて、離れる予定だってない。
軽い気持ちで肝試しなんてしてしまったこと。
私たちが悪いとは思っているけれど、まさか、こんなことになるとは思っていなかったんだもの。
まさか、閉じ込められるなんて。
まさか、朝が訪れないなんて。
まさか、だれも助けてくれないなんて。
まさか、怪奇現象の正体が私だったなんて、思っていなかったんだもの。
私ノ家ヘヨウコソ 一緒ニ遊ボウ モウ 離レナイカラ