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第八話

さてさてここは……


【チャイム】が鳴りやみ周りを見渡すとそこは弓道場だった。目の前に的が並び数本の矢が刺さっている。

 おー刺さってる刺さってる。へー矢ってアルミなんだ……木の矢使ってるかと思ってた。

 おもむろに一本引き抜いてみる。どうせ【放課後】が終われば元に戻るんだし、別にいいだろう。そのうち羽杵さんに許可貰って校舎の窓をたたき割り、盗んだバイクで走り出すのもいいかもしれない。学校からは出れないけど。

 思ったよりすごく軽いので遊び半分で矢を振り回してみる。そう言えば前は箒が金の剣に変わったんだっけ? これも剣に変わんないかな? そう思いながら振り回していた次の瞬間持っていた矢が重さを増し振り回していた手を止めるとそこには黄金の剣が握られていた。

 おお!! 剣になった! じゃあ次は……元に戻れ!!


「……」


元に戻らない。

 まぁいいか。剣に変える能力が使えることが分かっただけでも大発見だ。

 これ以上羽杵さんを待たせるのも悪い。時間が経ちすぎると余計な心配をかけてしまうかもしれない。

 俺はそのまま剣を片手に集合場所へと向かった。


********************************



 集合場所は我らが1年3組の教室だ。

入るとそこに羽杵さんが待っていた。自分の机に座り教科書とノートを広げている。

 いつもと違って眼鏡をかけていて妙に艶めかしい雰囲気を醸し出している。


「何してるの?」


「今日の数学の復習。三河君もやったら?」


「お、おう……何と言うか……こんなことしていいの?」


「別にいいのよ。黒木君が居なくなったおかげで今【放課後】は平和よ。尾皆君達が何か企んでたとしても今は私たちに出来ることは少ない。ガイドもまだ何も言ってこないんでしょう?」


「まぁね……でもほらさっき試してみて分かったんだけど、剣出すのは出来るみたいだ」

「それはよかった……改めて見ると綺麗な剣ね。その鍔の所についてるの本物かしら?」

 この剣は全て金色だが鍔の部分に紅い宝石が輝いていた。

「これルビーだね。多分本物だと思うよ? まぁ本物だからってどうも出来ないけど……」

「でも、どんな物語か手掛かりになる。たしか触ったもの全部金に変える話とかあったはずよ」

「まぁ大体予想はついているんだ。ただどういう理由でへそ曲げているのかが分からないだけで……」

「ごめんなさいね、アリスは分かっているだろうけど煙に巻いて教えてくれないし……」


「羽杵さんが気に病むことはないよ。これは俺と俺のガイドの問題だし」


「そうね、でも出来るだけ早くガイドと和解してね。この放課後じゃ丸腰に近いんだから……あとね、アリスで思い出したけどアリスによるとテストの成績によってはポイントが付与されるかもしれないんですって」


「マジ!」


「勉学も青春の一部って考えらしいわ、だから勉強しましょ……三河君成績はどんな感じ?」


「実は……俺未来から来たじゃん? 10年以上前のことだからほとんど忘れててヤバいかも……」


「そうだったわね……まぁ最初の中間試験は教科も8教科でそんなに範囲も広くない。今から【放課後】利用して勉強すれば大丈夫よ。私も教えるし」


「助かるけど…まぁいいか」


こんな変な状況で勉強しろと言われても。


「こんな集中できる環境もないわよ? 騒音もほとんどないし一日が24時間以上になるんだから有効活用しないと」


「あ! でも俺教科書とか全部カラオケに置いてる……」


「カラオケ?」


「ああ、興梠達と行ってるんだ。俺が羽杵さんに振られたから行こうぜって話になって」


「へ~楽しそうね」


「なんかゴメンちゃんと勉強するから!!」


「別に謝らなくていいわ。怒っている訳じゃないし……勉強も大切だけど友達とは仲良くした方が良いと思う。別にポイントが得られるからって理由じゃなくて一度しかない学生生活なんだからね。まぁ未来からきたあなたの方が良く分かっていると思うけど」


「そうだね……青春は一度きりだからね……」


 未来の羽杵さんにも言われた。『高校時代楽しかった?』

 あの言葉の真意は未だに分からないが、羽杵さんは今どう思っているのだろうか?


「羽杵さんは……その仲いい女子とかいないの? 昼も一人で弁当食べてたし……」


「私昔から何というか……人と衝突することをすごい恐れててね。別に適度に周りと合わせればいいんだと思うけど私の場合焦ると相手に冷たく接してしまうの。それでも一人だけ友達はいたの。それが柊彩。同じ中学でね。この高校に絶対一緒に入ろうってくらいが仲良かった。でも【放課後】の初日に黒木君に……」


「そうだったんだ……」


 その柊彩という女の子は結局僕は知らない。未来も今ももう存在しない人だ。でも羽杵さんはすごく悲しい顔をする。例え世界から消えても羽杵さんの心の中には確かに存在するのだ。


「その人とはその……付き合ってたの?」


「付き合ってた? 彩は女の子よ? ただの友達」


「友達!……ならいいんだ……変なこと聞いてゴメン」


「いいわ、他の人の机から教科書適当に使えば? 残念ながら放課後終わったらのノートに書いても元に戻っちゃうからただ写すだけってのはあまり意味がないけど、理解してない所を教えるのはできるから。頑張りましょう?」


 置き勉している奴の教科書を借りて。羽杵さんの隣の席を羽杵さんの机とくっつけて座る。ふと隣で勉強を再開した羽杵さんをみてさっきから気になっていた事を聞いた。


「……羽杵さんて眼鏡かけてたっけ?」


「【放課後】中は薄暗いからかけてるの。眼鏡は持ち歩いているけど学校じゃあまりかけた事ないわね」


「普段からかければいいのに」


「邪魔だしね、そこまで視力が悪いわけじゃないの。コンタクトもしてないし……もしかして三河君眼鏡かけているのが好きなの? 眼鏡フェチってやつ?」


「……そこまでじゃないけど……なんかグッとくる」


「ふふ、わかった。考えておくわ」


 無駄話はそこまでにしておいて、机に向き直り再び教科書と向きあう。そこでポツリと羽杵さんが呟いた。


「そういえば……お兄ちゃんも眼鏡好きかも……」


 どうやら羽杵さんのお兄さんとは趣味が合うかもしれない。俺達は初めて何もない平和な放課後を送れたと思った。

 ただ隣の羽杵さんが気になって勉強はあまり頭に入ってこなかった。

 しょうがないよね。


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