第七話
「困ったことになったわね……」
【放課後】が終わり、空が下の夕焼けを取り戻すと羽杵さんがそうポツリと呟いた。
「協定自体はいいと思う。でも問題は尾皆君の能力。一応合言葉を決めておいて、【放課後】中は必ずお互い目の着く所で行動しましょう。ちょっとでも目を話したら合言葉で確認。これで最悪変装してる尾皆君に後ろから刺されるってことは無くなると思う」
「前から思ってたけど【放課後】ってチャイムなる時学校に居なかったらどうなるの? 極端な話ずっと学校休めばいいんじゃない?」
「外にいても家に居てもチャイムは何故か聞こえてくる。そして気が付くと学校に連れて来られるのよ。学校のどこに飛ばされるかわからないからその分少し不利ね」
なるほどだから尾皆達は生徒会室で【放課後】を迎えるという言い方をしていたのか。確かにグループ組んでも開始時にばらばらになってしまうのでは隙が出来てしまう。
とまぁ、真面目な雰囲気なのはわかるが俺は実はさっきから気が気ではないのだ。さっき尾皆が最悪なタイミングでやって来たせいで《《昨日の返事を聞けていないのだ》》。
「ねぇそれでさ……さっき尾皆が来る前の話だけど……」
「でも一度経験してみるのもいいかもね。今回でこの場所ばれてしまったわけだし、ランダムな場所から【放課後】が始まるってことは尾皆君たちも私たちを捕捉しずらいはず。明日は学校の何処か集合場所決めて学校の外から【放課後】迎えてみましょうか? 始まる場所に何か法則性を見いだせれば何かと便利でしょうし。流石に尾皆君も昨日今日でいきなり約束破ることはないでしょ?」
「いや……それも大事だけどさぁ羽杵さん?」
「それなら尾皆君がもし変装して近づいて来た時の練習も出来るし……逆に今しか試せない事かも……」
「ねぇ? 羽杵さんさっきからわざとやってる?」
「……」
羽杵さんは俺に目を合わそうとしてこない。ここは俺も真剣だということを伝えよう。
「昨日の返事を聞かせてほしい」
羽杵さんの目を真っ直ぐ見つめ静かに言った。威圧感を与えてしまうかもしれないが出来るだけ声色を優しくすることで相手の正直な気持ちを聞く手段だ。
「私……三河君のことそんな嫌いじゃないの。あの時は近づくなって言ったけど私と急に親しくなったら他の人から狙われる可能性があった。今となってはもう遅いけど巻き込みたくなかったの。結果としては黒木は最初脇役と信じてくれた。もし仲良くしていればもっと警戒していたと思う」
「どうして? どうして俺を庇ってくれたんだい?
「三河君って私のお兄ちゃんに似てる」
「お兄ちゃん?」
「なんか少し頼りない所とか時々変な所で勘が良かったりとか……でも神経の太さは全く似て無いけどね」
「だから私単純にあなたとお兄ちゃんをダブらせているだけかもしれない……」
「でも俺のこと嫌いではないんだよね?」
「うん……まぁ」
ここは作戦を変えよう。既成事実を作って【あれ? これもう俺達付き合ってるんじゃね? 作戦】だ。既成事実って言い方はなんかあれだが要は【放課後】を利用して出来るだけ一緒に行動し仲良くなろうという作戦だ。このままごり押しだと羽杵さんが逃げてしまう可能性がある。
「羽杵さん今度の土日空いてる?」
「えっと日曜なら……」
「良かったらどっか遊び行こうよ。尾皆も言っていたでしょ? デートとかカラオケとかでポイント溜まるって。行こうよ」
「別に俺とお兄ちゃんとダブらせても全然かまわなけどさ、俺のこときらいじゃないんだったら一緒に過ごせば俺自身を好きになる可能性もあるじゃん? まぁ卒業まで長い付き合いになるんだからさ。あんまり深く考えず仲良くしていこうよ」
「うん……そうね……確かに。ポイントもあるし、【放課後】もあるし」
「じゃあ連絡先教えて? どっか行きたい所の希望ある?」
「えっと……何か外で食べたいかも……私買い食いとか外食とかあんまりしたことがなくて……」
「わかった。じゃあ高校生らしいジャンクな物を食べてブラブラしよう」
よっしゃーーーーーーーーーーー!!!!!! よっし! よっし! よっし!
契約とるより簡単だった。伊達に営業のスキル磨いてねーぜ!!
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「意外と宗吾いろんな曲知ってたな」
次の日の放課後、興梠や他のクラスメイト数人とカラオケに行った。昔の流行りの曲は歌えるかどうか不安だったが、まぁ雰囲気でどうにかなった。これから流行るアーティストの曲など歌ってみたりしたら興梠からそう言われた。
「あとお前今日奢れよ? 羽杵さんとうまくいってるならその幸せを俺にも分けろ!」
「いやーでも俺今度の日曜デートだから金が……」
「死ね!!!」
マイクで絶叫され小さい部屋にキンキン響いた。昨日羽杵さんに近づくなと言われて慰められた時とえらい違いだ。他の奴らも口々に爆ぜろ、奢れなど罵って来る。
「お前らも彼女作ればいいだろ!」
まぁ正確には彼女じゃないが
「いやぁ、ないわぁ……いきなりクラスで一番の子に告白するとかちょっと考えられないわぁ」
「お前一度2M以内に近づくなとか言われて何でデートの約束するまでに出来るんだよ」
「清潔感と一回死ねって言われない限り諦めないのが肝心だな。簡単だろ?」
「そんなのお前だけだろ!!」
俺はしばらくぶりに笑った気がした。
いいねぇこういうのも青春だよな。昔はわかんなかったけど。
時計を確認する
別にカラオケの時間を延長しようって訳じゃない。学校外で迎える【放課後】に思わず身構える。
6時になった瞬間にまたあの不快な笑い声が聞こえる。目の前が暗転した。
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