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第四話

 殆ど瓦礫と骨組だけと化した校舎の中。鬼はその姿を変え今は学生服を着た少年の姿をしていた。左手からは血を流し忌々しく恨み言を呟きながらゆっくりと一歩一歩足を進めている。


「くそ……どこ行った。まぁいい次、絶対殺す。目玉えぐって嬲ってそれから……」


「なぁ! 黒木君!」


 廊下の一番向こう側、瓦礫の山の陰から顔を覗かせて名前を呼ぶのは先程自分を傷つけた憎きクラスメイトだ。


「ああ? 羽杵はどこ行った?」


「俺を置いてどっか行った! なぁ!俺もまさかこうなるとは思っていなかったんだ羽杵さん捕まえるの協力するから仲間にならないか?」


 陳腐な作戦だと黒木は思った。ああして俺の注意を引いて、羽杵は俺に近づき先程の剣で俺を殺す算段なのだろう。この【放課後】が始まってずっと俺から逃げていた羽杵が今日に限って俺に捕まった。あの三河という男は羽杵にとってそれほど重要な人物だということだ。腹立だしい……。先程から瓦礫に隠れて手元を見せないようにしているのも剣を羽杵に渡しているのを悟らせない為だろう。カップルでの連携作戦か……リア充め。しかし、自分の怒り狂って探す為に校舎を壊すフリをして逆に隠れ場所を増やしおびき寄せる作戦はうまく機能したようだ。くそリア充が……

「いい案だが俺の腕切り落とす前に言うべきだったな!!!」

 羽杵がどこかで透明になりながら俺に近づいているのは都合がいいが、優先すべきはあの男だ。最初に得た能力なら剣は一本しか出せないだろう。複数の剣が主題の御伽噺は聞いたことがない。しかし、油断したとはいえこの手を切り裂いた切れ味は脅威だ。誘いに乗ってここはあの男を殺すべきだろう。羽杵が想定しているよりも更に早く!!!

「【鬼化】【橋造り】!!」

 能力を同時に二つ発動する。黒木の能力は最初に柊彩を殺して得たポイントで増やした【鬼化】そしてもう一つの能力は巨大なトンカチを出現させる【橋造り】両方とも使用中は目が見えなくなるデメリットがあった。

 黒木は無意識のうちに使うことをずっと避けていた【橋造り】を振り回した。【橋造り】はタダの巨大なトンカチではない。《《建造物に対する破壊と再生の効果を有する》》。

 【橋造り】の触れたところから瓦礫が時間の巻き戻しのように元の位置に戻り再生していく。先程まで自らの暴力で破壊しつくした校舎を今度は別の能力で元の姿に戻しながら黒木は瓦礫が無くなり見晴らしが良くなった廊下を鬼の脚力を使って一気に突っ走った。ここまで来れば羽杵も近くには居ないだろう。目は見えないが元に戻った校舎ではもう見る必要もない。ただ真っ直ぐ走って殴るだけだ。


「またポイントゲットッぉぉぉぉ!!!!」


勝利を叫びながら【橋造り】を振り上げ三河を肉塊に変えようとした直前――


「――鬼六!!!」


 その言葉を聞いた瞬間、黒木の能力が全て解除された。

「な!!!」

元の姿に戻ったが先ほどつけた勢いは止まらず、そのままもんどりを打って廊下を転げ三河の目の前で止まる。


「――やっぱり、お前の【物語】は【大工と鬼六】だったんだな」


【大工と鬼六】

 流れが速く橋がかけれない川に大工が鬼と取引をして橋を架けて貰う。その代償は大工の目玉。しかし無事橋が架かると大工は怖気づいてしまう。そこで鬼はさらにこう提案する「俺の名前を当てれたら目玉をとるのは勘弁してやる」

最期は無事大工が鬼の名前をいい当て鬼は川に消えていくのだがその鬼の名が鬼六だ。


「そりゃあ、透明になる能力とか剣だすだけの能力とかとこんな校舎ごと壊せるような能力じゃ不公平すぎるもんな」

「くそ!!!」

名前を言われたらその【放課後】中はもう能力を使うことが出来ない。まさかこんな短時間で名前と弱点を言い当てられるなんて……

 黒木は立ち上がり三河から逃げようと踵を返した。

「どこに行くの? 大分血が出てるわねでもこのまま放課後が終わればその腕も元通りね」

 目の前には黄金に輝く剣を持った羽杵さんが立っていた。


「なんで……隠れて俺を狙っていたんじゃなかったのか?」


**************************************

「羽杵さんは俺の剣持って近くで待機してくれないかな? 隙をみて斬れたら斬っちゃって」

「斬っちゃってって……それなら最初から私があいつの背後にまわって襲った方が良くないかしら?」

「無差別に暴れまわる鬼にどうやって近づくのさ、あいつは俺達が別れて行動すると思うだろう、羽杵さんは透明になれるからね。

そして、俺が声をかければなんにせよ俺を真っ先に殺しに来る。剣は俺を殺せば消えるだろうからね。まぁもし鬼六じゃなかったら俺は死ぬだろうけど、そんなの遅いか早いかの違いだけだし。俺が殺されてるときに羽杵さん逃げるか剣が残ってたら斬りかかるかしてくれたらそれでいいよ」

「駄目よあなたが危険すぎる」

「大丈夫。もしあいつが鬼六じゃなかった時の為のただの保険だよ。はい、剣」

そう言って俺は押し付けるように羽杵さんに剣を渡した。

「文句は後で聞くよ……よし行こう」

「わかった三河君がそこまで言うなら私も三河君を信じる」

「……後で聞くで思い出した……というかずっと言いたかったんだけど……俺、羽杵さんのこと好きなんだ付き合って下さい」

羽杵さんがまるで鳩が豆鉄砲食らったような顔をした。俺は続ける。

「返事は明日でいいよ」

 今度ではなく明日とちゃんと指定するのがポイントだ。今度だったらそのままずるずる曖昧になる可能性もあるからね。

 真っ赤になった顔でうつむく羽杵さん、かわいい……そう思って眺めていると突然ニッコリと満面の笑顔で微笑んでくれた。それは心臓が存在感、激しくビートを刻み始めるくらい素敵な笑顔で。お!! これいけんじゃね?!!と俺は一瞬思ったが、次の瞬間羽杵さんの姿が見えなくなった。

 「【猫の無い笑い】私の透明になる能力よ。便利だけど誰かに笑顔を見えないと発動しないの」

俺一人になった部室に羽杵さんの声だけ聞こえた。マジか……じゃあ黒木はあんな素敵な物を毎日拝んでいたわけか……許せん。

「行きましょう」

 部室のドアがひとりでに開く。おそらく羽杵さんが開けたのだろう。そうして俺達は鬼退治に向かった。


**************************************



そして、特にイレギュラーな事もなく無事に黒木を無力化して今に至る。目の前では血を流し跪く黒木と俺を冷たく見下ろす羽杵さんが立っている。


「彩の仇よ」


 羽杵さんは俺の貸していた金色の剣を黒木の胸元に突き刺した。それなりに血を流していたからだろう血は特に吹き出ず黒木はゆっくり倒れ込みうめき声を上げた。


「ああ、あああああ……こんなんじゃ。俺は俺は……」


 最初はこんな殺し合いするつもりじゃなかった。でも能力が作動して目が見えなくなって、心配して近づいてきた柊彩を誤って殺してしまって……もう本当に鬼になるしかなかった。

ああ……俺……最期まで羽杵さんに名前で呼ばれなかったな……


黒木が動かなくなる。

「羽杵さん……」

わかっていたとはいえ本当に殺してしまうなんて……

何か言おうと思ったが言葉が見つからなかった。中身おっさんなのに情けない。

 そこで最初と同じ笑い声が響いた。これが説明にあった【チャイム】だろう。

また目の前が真っ暗になった。


************************************


 目を開けるとそこは普通の校舎でチャイムが鳴る前の時のように廊下で羽杵さんと二人立っていた。

「取り敢えず今日は帰って休んで。明日ちゃんと私の知っていることは説明するから」

時計を確認するとまだ6時を指していた。

マジか!!2時間くらい経っていたはずだぞ!!

「ていうか俺と羽杵さん同じバスじゃね?」

「先に帰ってて私は確認したいことがあるから」

なんか避けられているようでもやもやするがしていると羽杵さんはどうやら勘違いしたようだ。

「大丈夫今日の【放課後】は終わりよ兎に角、明日ね……」

 呆気なく羽杵さんと別れる。俺は一人元に戻った校舎を出て何事も無く校門をくぐり普通の夕焼けの空の中帰った。

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