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指南先輩のはた迷惑なラノベの書き方講座  作者: 稲荷竜


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8/18

指南8 本文の書き方 文章作法編

「先輩、本文の書き方がわかりません」



 屈辱なことに。

 僕は部室で、先輩にそんな弱音を吐いてしまった。


 クラスにおいては『ねえ、あの人の声聞いたことある人いる?』と噂され。

 職員室においては『真面目だけど無口だね』と苦笑され。

 たまにしゃべると『黙ってた方がいいかもね』とフォローされる。


 そんな体育で『二人組作ってー』と言われることをなにより恐れる僕が、あろうことか先輩に対し弱音を吐くという展開である。

 先輩は僕の声を聞くと「待ってろ」と言って、僕の目の前の机にのぼる。

 それから口を開いた。



「でもな後輩、ただ『本文の書き方がわかりません』って言われても、それだけじゃどうしようもないぞ」

「まずは『文章作法』みたいなものが、さっぱりです」



 僕は先輩の小さな膝小僧をながめながら言った。

 かわいい膝だ。膝小僧などという生意気そうな呼称ではなく、『膝深窓の令嬢』とでも表現したくなるような、黒いニーソックスに包まれた完璧な膝だった。



「『文章作法』? ああ、あの『?』のあとに『。』は書かないみたいなアレか」

「そうですね。そのあたりを教えていただければと思うんですが……」

「たぶん誰かがまとめてるからググれ」

「ええ……」

「だって膨大だし暗記科目だし、なんなら普通に出版されてる小説読めばわかることだし、解説役としてイマイチ燃えないっていうか……」

「じゃあ、ちょっと書いた冒頭があるんで、文章作法の観点から添削してくださいよ」

「お、そういうのならいいな! じゃあ見せてくれ!」

「はい、これです」



 僕はスマホを持った右手を真っ直ぐ上にのばした。

 視線を上げるついでにスカートの中を見ちゃおうとか、腕をあげるフリしてスカートめくっちゃおうとか、スマホと間違えて先輩のくるぶしにタッチしようとか、そういう邪念も浮かんだけれど、僕は首を横に振って、振り払う。

 そういえば黒い靴下+上履きがスマホの画面に見えるという発見をしたのだけれど、これはきっと『あーあるある!』と言われてしまうぐらいの『あるあるネタ』なので、セリフにはしない。

 スマホを受け取った先輩はしばらく画面を見ていた。

 ちなみに、スマホ画面にある『冒頭の文章』は以下の通りだ。



==========================================

女の子は逃げていた。―空を飛んでいる。衛兵が追ってきていたけれど、女の子は飛んでるから大丈夫だ。でも急に女の子が落ち始めた。びゅーん。「なにがおきたんだ!?。」女の子は喋った。男性は路地裏で空中百メートル先の出来事に気付くはずもなかった。男性はおどろいた。「…なんだ女か」男性はしゃべった。女の子は10秒ぐらいかけて落ちてきた。すごい音だった。どかーん!!!!!!!その音に気付いた衛兵はいっせいに近付いてきた。

==========================================



「……うわあ」

「ちょっとそういうリアルな反応やめていただいていいですか?」

「う、うーん……なるほど。これを『文章作法的な観点で』直せばいいんだな? 他の問題点には触れなくていいんだな?」

「はい」

「あの、でもちょっと、改行していい?」

「お任せしますけど…………でも、改行は別に作法じゃないですよね?」

「微妙なところかなあ。これから投稿しようとしている『小説家になる夫』だと、改行が多い文章が多いな。まあでもあえて改行せずにスピード感与えちゃうみたいな表現技法もあるし、それからわざと文章作法無視した文章っていうのもあるけど……」

「……」

「後輩のは単純に知らないだけっぽいから、改行して、あと文章作法に従った修正するぞ」

「お願いします」



==========================================

 女の子は逃げていた。

 ――空を飛んでいる。

 衛兵が追ってきていたけれど、女の子は飛んでるから大丈夫だ。

 でも急に女の子が落ち始めた。

 びゅーん。

「なにがおきたんだ!?」

 女の子はしゃべった。



 男性は路地裏で空中100メートル先の出来事に気付くはずもなかった。

 男性はおどろいた。

「……なんだ女か」

 男性はしゃべった。



 女の子は10秒ぐらいかけて落ちてきた。

 すごい音だった。

 どかーん!!



 その音に気付いた衛兵はいっせいに近付いてきた。

==========================================



「えっと、こんな感じかなあ?」

「この意味深な空行はなんですか?」

「そこ、視点ブレだから空行入れた。女の子視点がいきなり男性視点になってて、男性視点がいきなり女の子視点になってて、最後は今までいなかった衛兵視点になってる。っていうかこの中の誰でもない視点がけっこうある。この短さでこれだけ盛れるとか、わざとか?」

「まあメタ的に言えばわざとですけど、僕というキャラクターは真剣にやってます」

「文章作法的なことだけ言うと、『』「」とかを使わない場合、行頭は1マス空白にした方がいいな。まあ、ネット掲載だとその限りでもないけど、『小説的には』な」

「勉強になります」

「あと、カッコの時は文末に『、』『。』はいらない。「なにがおきたんだ!?。」を「なにがおきたんだ!?」にしておいた」

「はい」

「それから『…(三点リーダー)』は基本、偶数単位で使う。「…なんだ女か」を「……なんだ女か」にしておいた。『―(ダーシ)』もそうだな。まあこっちは『二個以上』っていう感じもするが……五個ダーシとか使ってる人たまに見るしな」

「はい」

「あと、表記ゆれな。まずは『喋った』と『しゃべった』があったから、両方ひらがなにしておいた。漢字にしておくことを『閉じる』、ひらがなやカタカナにすることを『開く』なんて表現したりするな」

「なるほど。なぜ今回は『開いた』んですか?」

「私の基準だと『自分で書けない漢字は開く』っていうふうにしてる。まあ、格好いい場面であんまり『開いて』いるのも格好悪い気がするから、雰囲気で閉じたりもするけど……」

「つまり『個人の判断による』っていうことですね。っていうか場面に合わせて『開く』『閉じる』を調整してたら表記ゆれしません?」

「まあそうだな。あ、あと、漢数字と算用数字が混在してたから、算用数字に統一したぞ。小説的には漢数字のがいいけど、これから投稿する予定の『小説家になる夫』みたいな横書きだと算用数字のが読みやすいからな」

「でも僕らの会話も数字の表記揺れはありますよね?」

「一応、この話はあえてやってる。作者が『読みやすさ』を直感的に判断して、算用数字であるべきところは算用数字、基本は漢数字って感じで書いてるみたいだぞ」

「それ『気まぐれ』じゃないですか」

「そうだな。まあ前にもちょっと触れたけど、この話は小説の書き方を解説しつつ、話自体は反面教師みたいなデザインだから」

「反面教師を言い訳に好き放題してるだけのような……っていうかセリフばっかり並びすぎですよ。描写も地の文もなさすぎですし」

「……後輩が言うのはなんか違うような……えっと、んで、『どかーん!!!!!!!』を『どかーん!!』にしておいた。基本的に『!(エクスクラメーションマーク)』と『?(クエスチョンマーク)』は三つ以上は並べない」

「でも僕、三つ以上並んでる小説読んだことありますよ」

「あれは意図があってやってるから。少なくともなんにも知らないでやってはいないはずだ。まずは基本をおさえて、そのうえで表現するのにふさわしいと思えば、十個でも百個でも並べたらいい」

「なるほど。本一冊分『!』を並べたらそれだけで一冊出版できますね」

「たぶん考えた先人はいただろうけど、『さすがにないわ』って思ってやらなかったアイディアだな……」

「それで、他には?」

「あとは『!』『?』のあとには空白を入れるべきだな。どかーんのあとに入ってなかった。まあ、改行しちゃったけど。ああ、『』の末尾の場合は空白いらないぞ」

「はい」

「視点が飛び飛びなのも含めて、そのあたりは『文章作法』と呼ばれるものとは違うだろうから省くぞ。まあ、他の作法とか私が言った作法について、やっぱりググるか、ちょっと作法のあたりに注目して出版物を読むかしてみたらいいと思う。おすすめは後者」

「ためになります」

「かく言う私もすべての『文章作法』を知っているわけじゃない……これは私が今まで書いてきた経験から判断している部分も大きい。今回の解説に限らず、まるでこの物語で語られている内容が真実であるかのように考えたら痛い目に遭うし、痛い目に遭っても我々も作者も責任は負わないから、自分で調べて自分で憶えるのが一番いいな。あと」

「あと?」

「娯楽媒体は『面白ければいい』っていう価値観が大きい。それでも『作法が気になって本文どころじゃなかった』っていうような場合もあるけど、本文がきちんと面白いなら、作法は最低限で大丈夫だ」

「その『最低限』がわからないんですけど」

「私が今言ったのは、たぶん『最低限』に分類される」

「わかりました。参考にします」

「あくまで『参考に』な。誰かの理屈で誰かみたいに書いても、それは誰かの書く文章にしかならない。自分の考えを大事にがんばってくれ」

「じゃあ僕はあえて改行なし、表記ゆれあり、三点リーダーは奇数でやっていくべきなのではないですか? それも突き詰めればオリジナリティになるのでは?」

「好きにしたらいいよ。それでなお読んでしまう面白い物語に私は興味あるし」

「しかし実際、文章作法の無視だけがオリジナリティなんて作品は存在しないでしょうね。僕は先輩を困らせるのが趣味みたいなところがあるのでわざと言ってみただけですし……」

「心に闇を抱えた性格の悪いサディストだ……」

「それは僕の創作物の主人公ですよ。やだなあ、創作と現実をごっちゃにしないでください。主人公は作者ではありません。よくあるでしょ? 『この物語はフィクションです。実際の人物、団体、事件等には一切関係ありません』って」

「まあとにかく、『文章作法』について、私から言えることは以上だな」

「参考になりました。早速続きを書いていきます」

「あーそのー……ちょっと待ってほしい」

「なんでしょう?」

「明日以降、本文についていくつか指南するから、文章を書くのはその後だな」

「はあ、なんだかよくわかりませんが、それが先輩の意見であれば、僕はあくまでも『初心者担当キャラ』として提案に従いますけど……」

「うん、助かる」

「またおあずけですね」

「そうなるかな……悪いけど」

「わかりました。でも、僕がおあずけされたぶん、僕も今度先輩に『おあずけ』してもいいですよね?」

「なんか怖いからやだ。……はい、解散。今日は解散! お疲れ様でした!」

「えー……お疲れ様でした」



 先輩が、机の上からぴょん、と降りた。

 今までの指南はすべて、机の上で行なわれていたのである。


 うん、せっかく指導してくださっている先輩にこんなこと言うのもなんだけど……

 机の上に乗ってる人に、作法を指南する資格はないんじゃないかなと思いました。

なお、この物語から表記ゆれは駆逐されておりません。運筆優先でやっておりますので、温かく見守ってください(反面教師)。

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