指南4 キャラクターの作り方
「よし、今日も私が小説の書き方を指南してやる!」
僕の目の前でテーブルの上に乗ったロリがなにか言っている。
彼女のニックネームは『指南先輩』だ。
文芸部で、というか僕一人に非常に迷惑がられている上級生である。
いや、本当に僕は彼女を迷惑がっているのだろうか?
迷惑がっていると思うことで、彼女と一定の距離感をたもとうとしているだけではないか?
そうだ、僕はこの関係が壊れるのが怖いのだ。
一歩踏み出す。
それだけで、僕らの関係は不可逆の変質をしてしまう。
今の居心地がいいこの場所が、さらに居心地がよくなる可能性もあるだろう。
けれど、その逆だって、同じだけの可能性、ありうるのだ。
だから、僕は思う。
こうやって、僕の使っている机の上に立ち上がる先輩の黒いニーソックス。
それを見ているだけで、今は満足しよう、と。
ニーソックス最高!
細い足最高!
そんな想いをこめて、僕は先輩に言った。
「先輩、いつもありがとうございます」
「お、ようやく後輩も私のありがたさがわかったか!」
先輩はふんぞりかえる。
僕がもう少し顔を前に動かせば、スカートの中身が見えそうだった。
今は、見えそうで見えない。
つまり最高の状態だった。
「なんだか僕のキャラクターが不当におかしな方向に行ってる気もしますが、先輩、本日のテーマをどうぞ」
「なんの話かわかんないけど……今日のテーマは『キャラクターの作り方』だ! 読んで字のごとくだな!」
僕らが部室で会話をしているという建前で話は進んでいるのにもかかわらず、先輩は至極活字的な表現をした。
やれやれ。僕は肩をすくめた。
「しかし先輩、読んで字のごとくと言われましても、あいかわらずざっくりしすぎていて、小説初心者の僕には難しいのですが」
「昨日書いた『あらすじ』は憶えてるか?」
「憶えていますとも。それに、メモもしています。このように」
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★タイトル
・
★コンセプト
・先輩を飼いたい。
・メインコンセプト
なんか偉そうで不器用な先輩系女子と仲良くなりたい。ただしこっちが優位。
・ストーリーコンセプト
こちらを見下していた女の子に見上げられるようになる。
・キャラコンセプト
本心か偽装かは置いておいて、こちらを見下している女の子。
★あらすじ
・自分用あらすじ
奴隷という文化がある、剣と魔法とモンスターが存在する異世界で、女の子を奴隷にするのが仕事の男性は、女の子を見下したいので、『奴隷にする魔法』を用いて女の子を飼う。
・掲載用あらすじ
★キャラクター
・主人公
・ヒロイン
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「昨日も触れたけど、このあらすじにはまだ入れきれていないコンセプトがあるな?」
「はい。キャラクターコンセプトが顕著ですけど、ストーリーコンセプトも、よく見ればメインコンセプトさえ入ってないですね」
「そうだな。実際にやってみてわかったと思うけど、あらすじは『コンセプトをもとに創造した文章』でしかないんだ。必要な要素をどう機能的に入れるかについては、まだまだ不十分だな」
「はい」
「そこで、今回はキャラクターを主眼に置いた話になりそうということで、このざっくりしたあらすじとコンセプトをもとに、主人公とメインヒロインを作っていこうと思う。そうすると不十分だった場所が埋まるはずだ!」
「なるほど。じゃあ、昨日ちょっと話題に出た主人公から、ですかね」
「そうだな。現在のところ、あらすじから受ける主人公の印象はどんなだ?」
「犯罪者予備軍、あるいは犯罪者、もしくは変質者でしょうか」
「この世界ならな。でも、『異世界』って明記してあるだろ? あとこの『男性』は仕事をしてるだけだ」
「ええと……」
「まず、主人公の性別は『男性』だな」
「そうですね。あらすじの際に決めましたし」
「で、主人公の職業は『奴隷商人』かな?」
「それが一番わかりやすそうですね。まあ、あらすじを見るに、『奴隷にするのが仕事』とありますから、奴隷の卸業者みたいな感じにも見えますけど……魚屋に魚をおろす漁港の人、みたいな」
「なるほど。じゃあそっちにするか?」
「うーん……たしかにそういうのも面白そうなんですけど、わかりにくいというか、新しい単語を創造する必要がありそうなので、今回は『奴隷商人』で」
「そうか。でも、独自設定とか独自の着眼点は大事にした方がいいぞ! 自分だけの物語は、そういう、人が気にしないところを気にしたり、人がやらないことをやったりすることで生まれるからな!」
「まあ、今回は『奴隷商人』で行きます。卸売業者と奴隷商人の違いが、僕にはピンとこないので……」
「じゃあ主人公の職業は『奴隷商人』で。それから、性格だな」
「性格と一口に言われても、どう書いたらいいか……」
「方法は色々あるけど、とりあえず『キャラクターコンセプト』のところを見ようか」
「『本心か偽装かは置いておいて、こちらを見下している女の子』ですね。でもこれは、出てくる女の子の性格ですよね?」
「うん。つまり『本心か偽装かは置いておいて、こちらを見下している女の子』がからんだ時に、面白くなる主人公がいい」
「なるほど。面白くなる、とは?」
「そこで出るのが後輩の個性だ! 漫才みたいにボケとツッコミ的な面白さを目指すのか、それとも状況を俯瞰した時に笑いが出るシチュエーションがいいのか、あるいは女の子が嫌なやつに従うことで気持ちいいと感じるのか、他か」
「……どれも、いまいちピンときませんね」
「後輩はなにがしたくて『本心か偽装かは置いておいて、こちらを見下している女の子』を飼いたいと思ったんだ?」
「うーん……いざ問われると『なんとなく』なんですよねえ」
「時間がかかってもいいから、自分の中で『これ!』と思うものを見つけてくれ! 提供する面白さが自分でわからないと、読んだ人も首をかしげるだけだぞ!」
「これ考えるのキツいですね……先に本文書いてみちゃ駄目でしょうか?」
「人によってはそれでいいと思う。でも、あくまでも方法論の解説だから、まずは一生懸命考えてみてほしい! 後輩ならできる!」
「……ううんと……あ、偉そうな人があらゆる権利を剥奪されて、一人以外に頼る人がいない状況に陥るのって、なんかものすごくよくないですか?」
「心の闇は深い」
「『指南1』の時の僕はもっとまともだったはずなんですけどね……」
「いや、最初からけっこう……う、うん。まあ、わかった。つまりそれが主人公の性格だな」
「はあ?」
「今、後輩が言ったような快感を覚える人柄だとすると、『偉そうな人をひざまずかせることに快楽を覚えるサディスト』かな?」
「僕の物語の主人公の人格が……」
「他にあればそれでもいいけど、私には『偉そうな人を奴隷に落として暗黒微笑を浮かべる若く見えるけど年齢不詳の男』しか浮かばないぞ……」
「まあそうなりますかね。でも小説初心者が書く主人公じゃないですよね?」
「そうだな。でも今回は難易度は気にせず、失敗前提でとにかく『話を作る楽しさと難しさ』を学んでいこう!」
「わかりました。主人公の性格はそれでいいとして、メインヒロインは?」
「それはもう最初から出てるだろ? コンセプトで決めた通りだ」
「『先輩』『こちらを見下している女の子』ですね。具体性がちょっと足りませんけど」
「ここに、主人公と相性がよさそうなヒロイン像を当てはめる」
「相性がよさそうな?」
「ようするに、サディストが満足するようなヒロインだな。コンセプト的にはすでに『偉そう』『人を見下している』あと、主人公が『偉そうな人をひざまずかせる』のが好きなんだったら、『話の流れで主人公にひざまずくことになる』『あらゆる権利を剥奪されて主人公以外に頼る人がいない状況に陥る』ヒロインだな」
「うわあひどい……」
「これ後輩の願望だからな!?」
「わかってます。わかってますけど……いざ文章でまとめられるとひどいですね」
「まあ、ヒロインのキャラクターはだいぶストーリーにかかわってくるタイプっぽいから、具体性はまだないかもだけど、とりあえず今決まったことだけ書いてみるといいぞ!」
「……では」
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★タイトル
・
★コンセプト
・先輩を飼いたい。
・メインコンセプト
なんか偉そうで不器用な先輩系女子と仲良くなりたい。ただしこっちが優位。
・ストーリーコンセプト
こちらを見下していた女の子に見上げられるようになる。
・キャラコンセプト
本心か偽装かは置いておいて、こちらを見下している女の子。
★あらすじ
・自分用あらすじ
奴隷という文化がある、剣と魔法とモンスターが存在する異世界で、女の子を奴隷にするのが仕事の男性は、女の子を見下したいので、『奴隷にする魔法』を用いて女の子を飼う。
・掲載用あらすじ
★キャラクター
・主人公
男性。
奴隷商人。
偉そうな人をひざまずかせることに快楽を覚えるサディスト。
・ヒロイン
偉そうで人を見下している少女。
話の流れで、あらゆる権利を剥奪され主人公以外に頼る人がいない状況に陥り、主人公にひざまずくことになる。
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「……あの、先輩、これを書いてみての率直な感想いいですか?」
「なんだ?」
「すごいひどくて、見ててドン引きするようなコンセプトとかキャラ設定なんですけど……この話読んでみたくなってきました」
「そうだろうそうだろう! なにせ、後輩の願望を煮詰めたものだからな!」
「これ、どこで読めますか?」
「後輩が書くしかないぞ!」
「そうなんですよね……」
「というわけで、次回は『ストーリーの作り方』だ!」
「ストーリー? プロットにはない項目ですね?」
「ここで言ってる『ストーリー』は、『キャラクター』の欄に書くものだ。言うなれば『キャラクターのストーリー』かな?」
「なるほど。普通、ストーリーの項目はなしで、キャラクターの欄に書くものなので?」
「いや、先にストーリーを考えるやり方もあるけど、それだとどうしてもストーリーにキャラが動かされてる感じがして、私は苦手だ」
「つまり先輩の独断というわけですね。この物語はあくまでも個人の感想ですからね。ここで語られる方法論を試して被る被害について僕らや作者はなんの責任も負わないですもんね」
「そうだな。次回、大まかなストーリーを書いて、『自分用あらすじ』と『キャラクター』を完成させたら、その次はいよいよ本文を書くからな!」
「はあ、しかしこうしてやっていくと、本文を書くまでかなりかかるんですね」
「そうだな。まあ、最初から運指に任せる方法もあるけどな!」
「ええ……」
「だからあくまで、私が言うのは『数ある方法論の一つ』だ! 後輩も自分なりのやり方を見つけたらそっちをやるんだぞ!」
「今回はやけに厳重に責任回避をしていきますね」
「キャラの作り方とストーリーの作り方は、たぶん特に個性が出るからな……今回の指導はわからない人にはさっぱりわからないだろうし、わかる人には言うまでもないことだったと思うんだ」
「まあ小説の書き方の指南本とか見ても、だいたいそんな感じですし……」
「後輩のキャラで小説の書き方の指南本を読んでる設定は、ちょっとキャラブレしてるぞ」
「おっと」
「とにかく今日はこれで終わりだ! お疲れ様でした!」
「お疲れ様でした」
先輩はぴょんと机の上から飛び降りる。
僕は先輩のブラウスから透けるスポーツブラのラインを見ながら、本日まとめたキャラクターの項目を振り返る。
着々と本文着手の時は近付いているようだ。
小説完成までに僕のキャラはどうなってしまうのか、それが不安でたまらなかった。




