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指南18 推敲のお話

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★タイトル

・お姫様を奴隷にしたけどなにか質問ある?


★コンセプト

・先輩を飼いたい。


・メインコンセプト

 なんか偉そうで不器用な先輩系女子と仲良くなりたい。ただしこっちが優位。


・ストーリーコンセプト

 こちらを見下していた女の子に見上げられるようになる。


・キャラコンセプト

 本心か偽装かは置いておいて、こちらを見下している女の子。


★あらすじ

・自分用あらすじ

 奴隷という文化がある、剣と魔法とモンスターが存在する異世界。

 女の子を奴隷にするのが仕事の主人公は、夜、お忍びで城から出たため逃亡中のお姫様と出会う。偉そうな人をひざまずかせることが趣味の主人公は、お姫様が偉そうだったので、言葉巧みに騙してお姫様を奴隷にしてしまった。



・掲載用あらすじ

 奴隷商人である主人公は、ある日、空から降ってきたヒロインと出会う。衛兵に追われる妙に偉そうな彼女に巻きこまれるようにしてともに逃亡することになるのだが、主人公は『偉そうな相手をひざまずかせることが趣味』のサディストだった。

 主人公は身分の高いらしいヒロインを、どうにか奴隷に落としてやろうとするのだが……?


★キャラクター

・主人公

 男性。奴隷商人。

 偉そうな人をひざまずかせることに快楽を覚えるサディスト。奴隷商人自体が人から見下される職業であり、彼の性格もあって、出会った人にはだいたい見下されたり拒絶されたりすることが多い。

 普段はやる気がないが、やる気を出すとすごい。


・ヒロイン

 王族の少女で、お城を抜け出して街の上を飛んでいた。

 しかし途中でなんらかのトラブルに遭い、飛べなくなる。そこで出会った主人公に協力してもらい衛兵から逃げ切ることに成功するのだが、騙されて奴隷になってしまう。

 主人公に『こいつ偉そう』と思われるぐらいには態度が偉そう。

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「よし、今日も私が小説の書き方を指南してやる!」



 最終回なので、一話と同じ入り方をした。

 話の締め方は『キャラクターにコンセプトを語らせる』以外にもこんな方法があるのだと、文字数の都合で前々回入れることができなかった指南をする先輩であった。


 というわけで僕の目の前にいるロリがなにか言っている。

 彼女は指南先輩というニックネームで親しまれている、文芸部の天使だ。


 僕はあらためて彼女との思い出を振り返る。

 目を閉じれば浮かぶ、彼女のふくらはぎ、膝頭、ふともも、くるぶし……

 揺れるスカートのひだ、それからなんといっても黒いニーソックス。

 今までしてきた描写はほぼすべて彼女の足にかんするものばかりだったので、必然、僕の思い出も彼女の足にまつわるものばかりだった。

 そのわりには脛の描写がない。彼女が目の前に立っていて、僕の視界にふくらはぎがおさまるのであれば、もちろん僕は脛も見ているはずなのだが、あまり詳細に脛というものを意識していなかったのだろう。


 脛。

 そういえば足フェチの集いというまがまがしい会合においてさえ、脛の魅力を熱く語る逸材はいなかったように思える。

 まあそもそも僕というキャラの当初案はロリコンであって、別に足に深いこだわりはなかったわけなのだが、話が進むにつれなぜか足のことばかり考えるようになってしまっていた。

 これがきっと『キャラクターが勝手に動く』ということなのだろうと僕は感慨深く思った。

 ちなみにこの作品はフィクションであり、実際の人物、団体、事件とは一切関係なく、小説読者にしばしば誤解されるような『作者=主人公』でもないことをここに明記しておこう。

 その根拠として作者の性癖はというと……


 おっと。

 僕は話が作者の性癖語りに及ぶ前に、物語を展開させる必要性を強く感じた。

 なので、僕も『物語の最初のセリフを使うと物語が締めやすい』という理論を実践するべく指南1と同じ切り返しをすることにした。



「ありがとうございます。お引き取りください」

「今日教えるのは『推敲』だ!」



 先輩はできる女なので、指南1のような人の話を聞かないセリフを言い放った。

 これまでの数々の指南で、先輩がそう傍若無人でもなく、むしろ懐深いくせになぜか机に乗るという奇行だけはやめない、リアリティのない謎のキャラクターに仕上がってしまっていたのだけれど、最終回において一話の流れを踏襲するという手腕は、さすがという感じだった。



「しかし先輩、推敲と言われても、僕はそんな難しい言葉、意味がわかりませんよ」

「後輩は『推敲』ってなんだと思う?」

「だからわからないって言ってるでしょう」

「答えは『見直し』だ!」



 指南1の流れを踏襲したいばっかりに、ほとんど無意識でしゃべっていた。

 キャラが動いていないなと思いながら僕は義務感に任せて先輩に質問する。



「でもそれって、『推敲』を簡単な言葉に言い換えただけですよね?」

「簡単に言い換えたら悪いのか!?」

「いえ、悪いっていうか、まあ、はい……で、その推敲っていうのはなにをすればいいんですか?」

「自分の書いた文章を友達に音読してもらう! 以上!」

「おっとお? 最終回だからってヘイトを稼ぎに来ましたね? ヘイトコントロールについての指南してないのに技術だけ使うのやめてくれます? この物語が作者のチラシ裏だっていうことはわかっているでしょう? 友達いると思いますか?」

「いやいや……でも実際、これが一番なんだよなあ……(※試したことはありません)」

「これまではいちおう実践経験をもとにした指南だったはずが、急に空想指南になりましたね……まあ、理由ぐらいは聞きましょうか。どうして『推敲』は『友達に音読してもらう』のが一番なんですか?」

「一人でできることには限界があるからだよ」

「やめてくださいよ。最終回だからって急に絆の尊さみたいなのを説き始めるの……そういう話の仕組みを分解されると、今月末に投稿する予定の『セーブ&ロードのできる宿屋さん 十章』を冷めた目で見られてしまうじゃないですか。小説を冷めた目で見られるほどつらいことはないんですからね(※宿屋さんはまだ最終章じゃありません)」

「いやあ、でも事実だし……あのな、作者って、実は、自分の書いた小説を読む時、実在する文字を読んでないんだよ」

「つまり小説を書く人間の頭がおかしくてドリームランドが見えていると?」

「言い方はアレだけどだいたいあってる。作者じゃん? 自分の頭の中に『正解の文章』があるんだよ。だから、実在する小説を読み返してるつもりで、頭の中の小説を読み返してるっていうケースがままあるんだ」

「ああ、なるほど」

「一例を挙げれば、『とおりすぎて』を『とおりぎて』って書いてたとしたって、作者の中ではこれが『とおりすぎて』に見えるんだよ」

「ありますねえ……まあ、僕はまだ掲載してない設定なので、本来は同意できないんですが」

「話を戻すと、こういう場合に必要なのが、『第三者的視点』だ。だから誰か協力してくれる他者に音読してもらうのが、推敲では一番いい方法だと想像できる」

「なるほど。でもアマゾンでさえ買えないものを『これ使えばいけるよ!』とか言われたところで、それはもうウルトラレア持ってない人に『そのステージ、ウルトラレアのユニット使えば簡単じゃん』って言うようなものですよね」

「唐突なソシャゲ」

「友達がいない場合に有効な方法などはないんですか?」

「もちろんあるぞ! ここからが経験に基づいた指南だ!」

「悲しいなあ」

「まず、一番いい方法は『日を置くこと』だな! 指南の最初の方で、後輩が書いたプロットを後日自分で見返して『うわあ』ってなってたろ? つまり、時間を置くとけっこう冷静になれるものなんだ!」

「なるほど。でも時間を置けない場合もありますよね? 『小説家になる夫』……もういいかな。『小説家になろう』において毎日投稿が求められるケースは少なくないですから」

「だからこの作者は毎日投稿やってないんだよなあ。私たちの話はライブ感出したいから、平日午後四時、学生が部活やってそうな時間に毎日投稿の形式だったけど」

「まあそれについては、最終的に午後三時に毎日投稿になっていますが……でも昔は毎日投稿しようとがんばっていた時期もあったはずでは?」

「だから今より誤字脱字前後矛盾などなどが多かったんだ」

「ああ……」

「その時にやっておけばよかったなあ、って思うことはある」

「それは?」

「テキスト読み上げソフトの導入」

「なるほど。インターネット上に転がっている『音読してくれる友人』を利用するというわけですね」

「そうだな。ただ、あいつらは読み間違いも多い。『聖剣』を『ひじりけん』とか読むから調教は必要になってくる」

「まあ、リアル友人だって調教が必要な場合はありますし……」

「フォローのつもり?」

「そのつもりでしたが失敗したようですね。『時間を置く』『音声読み上げソフトの導入』、他には?」

「『印刷する』」

「印刷って、紙に印刷っていうことですよね?」

「そうだな。PCやスマホの画面で見るとわからなかったことが、紙媒体にするとけっこうわかるようになる場合も多い。作者はPDF使うの苦手だし、赤ペンとかでチェック入れられるっていうのもおすすめしてるポイントかな。ただ……」

「ただではないです」

「そうなんだよなあ。紙代とか、印刷代とかがかかる。まあその程度はどうにかなるとしたって、一番厄介なのは『かさばる』ことだな。処分も困るし。だから作者は今はやってない」

「昔はやってたんですか」

「ほら、紙に印刷すると、なんかプロっぽいじゃん」

「ああ……」

「新人賞応募も、ちょっと前までは印刷した紙を送りつけるのが主流だったみたいだけど、今はデータだけでOKの出版社だって多いみたいだな」

「印刷しなくても、普段PCで見てるなら、たまにスマホで見たりiPadで見たりすることで気付くこともありますよね」

「そうだな。だから『印刷する』の肝は『普段とは別な媒体で見ること』かな」

「なるほど」

「ちなみにこの物語は『なろう』に予約投稿したのちに、なろうのページで推敲してる。作者は普段、縦書きができるもので小説書いてるよ」

「算用数字を好まないのはそういう背景なんですね。たしかに、縦書きだと漢数字の方がおさまりがいい気がします。特に三桁以上の数」

「あと、算用数字は使うと推敲がめんどうくさくなるんだよ。『一応』って漢字で書くと『一』が入るじゃん。でもこの『一』は『1』には直さないタイプの『一』じゃん?」

「まあそうですね」

「『十把一絡げ』なんかもそうだよな。でも数字を見るといちいち確認しないといけないじゃん。それが算用数字であるべきなのか、それとも漢数字のままでいいのか、少しだけどシンキングタイムが入る」

「まあほとんど一瞬で判別できる案件ではありますが……ややこしいのもありますよね。たとえば僕が今発言した『一瞬』とか。熟語なのか、それともまばたき一回分っていう意味なのか、まばたき一回分なら算用数字なのか、とか」

「うん。で、その『わずかなシンキングタイム』を数万、十数万、あるいは数十万文字分重ねていくわけだな」

「うわキッツ」

「ということもあって、作者は基本漢数字でやってる。これもこれで『エレベーターにある一階のボタンを押した』とかいう描写をする時、『エレベーターの表記を描写してるなら算用数字だけど、モノローグだし漢数字でいいのか?』みたいなのもあるんだが……」

「1長1短なんですね」

「それは漢数字でいいやつだ。……まあ、というわけで、本当に何度も何度も繰り返し述べたことだけど、この物語で語られる技術などはあくまでも『いち個人の意見』にすぎない。またこの物語は『作者が自分のノウハウを自分で確認するために書かれたもの』だ。これを読んだみなさんにも、自分なりのやり方を見つけてほしいし、このやり方でうまくやれなくても一切責任は負わない」

「免責事項」

「ただ、掲載した本当の理由もここで語っておこう」

「もうメタ発言に遠慮がなくなりましたよね、僕ら」

「うん。まあ、以前は『化学反応』がどうこうみたいな話をしたけど……本当のところ、作者は小説を初めて書こうっていう時に色々調べたんだけど、自分に役立つ『小説の書き方』を見つけられなかったんだよな」

「古い話ですよー。古い話ですからねー。今はもうあるかも知れませんからねー」

「なので、色んなパターンの『小説の書き方』があれば、誰かの役に立つかもしれないと思って、『小説の書き方の一種』として自分の考えをまとめて掲載した、みたいな背景もある」

「なるほど」

「あとは予想以上に書けちゃったから掲載しないのもったいないみたいな貧乏根性だな」

「真面目な話をしたあと、ギャグっぽく落とそうとするのは、語っているキャラに羞恥心があるよということを暗示する手法ですね」

「まあそうだけど分析することで『技術的にやったのか』『本当に恥ずかしかったのか』が曖昧になっていくな……」

「ということで、すべての指南は終わりですか?」

「たぶん!」

「力強く推定された……」

「明文化できていないノウハウはまだまだあるからなあ……あと、基本編で話すことじゃないなと思ってできなかった指南もある」

「もはやチラシ裏の役割すら果たせていないのか、この物語は……」

「ともあれ、後輩の書いた小説も、推敲をしたらいよいよ投稿だな」

「はい。まあエア小説をエア掲載するだけなんですが……」

「それが終わったら、次は文化祭に向けて小説を書こう!」

「…………ああ、ありましたねえ、そんな目標」

「そっちが本来の目標だよ!? ここから始まるのは、メタネタ一切なしの、文芸部の先輩後輩が文化祭に向けて会誌を作っていく現代学園青春コメディだからな!」

「その発言がメタの塊なんですが……あと僕としては先輩とのラブがほしいです」

「ごめんなさい」

「フラれた!? ええ……この世界で描写されてる男女、僕と先輩だけなのに……?」

「いや、先輩に向けて『先輩を飼いたい』とか素直に言うメンタルの持ち主はちょっと無理っていうか……」

「リアルな理由やめてくださいよ」

「ところで文化祭の小説どうする?」

「もう僕は自信ないです……だってなにを書いたって『先輩を飼いたい』とか『先輩を解体』とかになるに決まってますから……こんな恥ずかしいコンセプトの小説を、顔見知りもいる文化祭で『私が書きました』みたいに顔をさらしながら掲載するメンタルの強さはないです」

「うーん、じゃあ、そうだな……次は『計算でコンセプトを作る方法』を指南するか!」

「そんな方法があるなら、それは一番いいと思いますけど、小説を一つ書いたぐらいの僕に果たしてできるかどうか……」

「大丈夫だ! 簡単にできる方法がある! じゃあ、後輩は『計算でコンセプトを作る』ってどういうことだ思う!?」

「わかったら苦労はしてないんですけど」

「うん。答えはだな――」



 という感じで。

 僕らの文芸部活動は続いていく。


 お見せするほどの話はもうないけれど、これからも僕とはた迷惑な先輩は小説を書き続けていくことだろう。

 いいことなのか、悪いことなのか。

 それはきっと、まだ誰も知らない。

 推敲について話すつもりが文章校正の話っぽくなってるけど気にしないでください。

 ここまでお付き合いしてくださった方、ありがとうございました!

『指南先輩のはた迷惑なラノベの書き方講座 ~応用編~』の投稿予定はございません。

 それではよい夏休みを!


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