指南16 本文の書き方 話の締め方編
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奴隷契約完了の証である光が、あたりを満たした。
「ククク……バァーカ! 俺はなあ! お前みたいに偉そうで世間を知らないガキが大嫌いなんだよ!」
笑い声は、閉ざされた空間内部で幾重にも反響する。
部屋の中央で、ヒロインは青ざめた顔をしていた。
体も震えている。
怖がっているんだろう。
それでも、俺をにらんでいた。
「私を騙したのか!? 信じてたのに! だって、衛兵に追われてる私を、あんなに、優しくエスコートしてくれただろ!?」
「はあ? バッカじゃねーの? どう考えたって衛兵より『路地裏にいた奴隷商人』のが危険人物だろ? こんなのに騙されるから、テメーらお偉いお嬢様はチョロいっつーんだよ!」
「チョロくない!」
「いいや! チョロいね!」
「チョロくないってば!」
「いやいや、チョロいってば!」
「チョロくないの!」
「チョロいんだよ!」
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「先輩、話の締め方がわかりません」
僕は小説の文章を表示したスマホを差し出しつつ、先輩の前に正座した。
普段よりも、先輩が低い。実際、いつもの『椅子に座った僕と机に乗った先輩』という図式だと、僕が正面を見た時視界に入るのは、先輩のふくらはぎだ(正確には脛だが、その事実は今さらわざわざ語るまでもないだろう)。
しかし今、『床に正座した僕と床に立つ先輩』という図式だと、僕が真っ直ぐ正面を見た時には、先輩の膝が見える。
黒いニーソックスに包まれた、美しい膝だ。
その芸術性については僕では語彙が足りないので表現できない。
しかし普通に立った時に膝が見える長さのスカートで、いつも机の上、それも僕のほとんど目の前に立っているこの先輩は、実はパンツを見てほしいんじゃないかという予想が頭をよぎった。
先輩痴女説という楽しい妄想をしながら、僕は真っ直ぐ彼女の顔を見上げた。
気の強そうな童顔が見える――そうだ、僕は『先輩』というとすぐに『ふくらはぎ』を想像してしまうけれど、先輩はふくらはぎではなく、人間だったのだ。
新たな発見をしながら、僕は先輩の言葉を待った。
彼女は苦笑を浮かべて話を始める。
「いやあ……主人公とヒロインのセリフ回しはそれなりにものになってるのに、どうして最後でこの人たちは仲よさそうなケンカをしてるんだろう……」
「締め方がわからないんですよ。なんだか延々と痴話げんかみたいなことしてしまって……」
「逆にどうしてそうなるんだ……」
「ヒロインのモデルが先輩なので、なんかこう、自然と……」
「主人公のモデルはやっぱり後輩だもんなあ」
「いや、僕は心に深い闇を抱えたロリコンサディストではないですけど……」
「とにかく、今回、後輩には『話の締め方』を指南すればいいんだな?」
「そうですね。でも、話の締め方なんて共通したノウハウがあるものなんですか? それこそ物語によって無限に方法があると思うんですけど……」
「まあ、そりゃあ細かい表現とか、セリフ回しまで含めたら無限にあるけど……一応『これをやっておけ』みたいなのはあるぞ」
「へえ……ご教授願えますか?」
「もちろんだ! じゃあ後輩は『話の締め』ってなんだと思う?」
「それがわかったら、今回の指南は全カットされてますよ」
「正解は『メインコンセプト』だ!」
「……解説をお願いします」
「『コンセプト』がなにか憶えているか?」
「『話の主旨』ですよね。指南2でやりました」
「うむ! つまり、これまで後輩が書いてきた本文は、すべて『話の主旨』に沿ったものになっているはずなんだ」
「なるほど。たしかにコンセプトを早い段階から叩き台として、プロットや本文を作ってきましたからね。自然と『話の主旨に沿った話』になっているでしょう……まあ話が話の主旨に沿っているっていうのは当たり前のような気もしますが……」
「でも意外と主旨から逸れていくんだよなあ……だから本文書きながらもたびたび主旨のチェックはするし」
「なるほど」
「うん。でも、後輩の書いた本文は逸れてないはずなんだ。つまり、コンセプト、特に『メインコンセプト』に沿った話の流れになってると思う」
「そうですかね?」
「自信がないようだったら、簡単にたしかめられる方法があるぞ!」
「どのような?」
「『そろそろ話をまとめたいなあ』っていうタイミングで、主人公に『メインコンセプト』をセリフとして言わせるんだ!」
「……ずいぶん簡単ですね」
「まあ、初心者講座だからな。あくまでも『詰まった時に参考になるようなこと』だし」
「そんなものですか……でもメインコンセプトの文言そのままだと、ちょっとおかしいことになりますよね?」
「とりあえず見てみるか」
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★タイトル
・
★コンセプト
・先輩を飼いたい。
・メインコンセプト
なんか偉そうで不器用な先輩系女子と仲良くなりたい。ただしこっちが優位。
・ストーリーコンセプト
こちらを見下していた女の子に見上げられるようになる。
・キャラコンセプト
本心か偽装かは置いておいて、こちらを見下している女の子。
★あらすじ
・自分用あらすじ
奴隷という文化がある、剣と魔法とモンスターが存在する異世界。
女の子を奴隷にするのが仕事の主人公は、夜、お忍びで城から出たため逃亡中のお姫様と出会う。偉そうな人をひざまずかせることが趣味の主人公は、お姫様が偉そうだったので、言葉巧みに騙してお姫様を奴隷にしてしまった。
・掲載用あらすじ
★キャラクター
・主人公
男性。奴隷商人。
偉そうな人をひざまずかせることに快楽を覚えるサディスト。奴隷商人自体が人から見下される職業であり、彼の性格もあって、出会った人にはだいたい見下されたり拒絶されたりすることが多い。
普段はやる気がないが、やる気を出すとすごい。
・ヒロイン
王族の少女で、お城を抜け出して街の上を飛んでいた。
しかし途中でなんらかのトラブルに遭い、飛べなくなる。そこで出会った主人公に協力してもらい衛兵から逃げ切ることに成功するのだが、騙されて奴隷になってしまう。
主人公に『こいつ偉そう』と思われるぐらいには態度が偉そう。
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「つまり主人公に話を締めたいタイミングで『なんか偉そうで不器用な先輩系女子と仲良くなりたい。ただしこっちが優位』って言わせるっていうこと……?」
「そうだな。だから、もちろん、主人公の口調や性格、その場の雰囲気に合わせてアジャストしていく作業は必要になる。それでも不足を感じたら『ストーリーコンセプト』や『キャラクターコンセプト』も同様にアジャストしつつ当てはめてみるんだ」
「うーんと」
「こればっかりは、実際にあてはめてみて、色々調整していくしかない。この一言をいじるだけで慣れないうちは一時間とかかかると思う」
「たった一言で一時間ですか」
「まあ、人によるかな。ここに至るまできちんとキャラができてれば、そんなにかからないと思うから、まずはやってみてくれ」
「わかりました。ええっと……」
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奴隷契約完了の証である光が、あたりを満たした。
「ククク……バァーカ! 俺はなあ! お前みたいに偉そうで世間を知らないガキが大嫌いなんだよ!」
笑い声は、閉ざされた空間内部で幾重にも反響する。
部屋の中央で、ヒロインは青ざめた顔をしていた。
体も震えている。
怖がっているんだろう。
それでも、俺をにらんでいた。
「私を騙したのか!? 信じてたのに! だって、衛兵に追われてる私を、あんなに、優しくエスコートしてくれただろ!?」
「はあ? バッカじゃねーの? どう考えたって衛兵より『路地裏にいた奴隷商人』のが危険人物だろ? こんなのに騙されるから、テメーらお偉いお嬢様はチョロいっつーんだよ! なんか偉そうで不器用な先輩系女子と仲良くなりたい。ただしこっちが優位」
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奴隷契約完了の証である光が、あたりを満たした。
「ククク……バァーカ! 俺はなあ! お前みたいに偉そうで世間を知らないガキが大嫌いなんだよ!」
笑い声は、閉ざされた空間内部で幾重にも反響する。
部屋の中央で、ヒロインは青ざめた顔をしていた。
体も震えている。
怖がっているんだろう。
それでも、俺をにらんでいた。
「私を騙したのか!? 信じてたのに! だって、衛兵に追われてる私を、あんなに、優しくエスコートしてくれただろ!?」
「ああ、たしかに優しくエスコートして差し上げたさ。仲良くしたかったからな」
「じゃあなんでこんなひどいことを!?」
「仲良くなりたかったとも。テメェみたいな、偉そうで不器用そうな女とはな。ただし――」
「……?」
「――こっちが絶対有利の状態で、だがなあ!」
「……さ、最低だ……!」
「ハハハハハハハハ!」
ああ、世間知らずのお嬢様の罵倒が心地良い!
これだから――俺を見下していたヤツが俺より下になる瞬間は最高なんだ!
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「どうでしょう先輩、できてますか?」
「うん、すごくいいと思うぞ! 後輩のゲスさがにじみ出てる!」
「いやいやいやいや……小説の主人公と、小説の作者は、別物ですから! フィクションですから! 実際の人物団体事件などとは一切関係ありませんから!」
「これは、メインコンセプトとストーリーコンセプトを使ったのかな?」
「そうですね。主人公のセリフは、メインコンセプトをいじりました。あと、最後のモノローグはストーリーコンセプトを使いましたよ」
「どうだった? やりやすかったか?」
「そうですね。まあ、原型がかろうじて残る程度になるぐらい改造はしてますけど……なにもわからずやっていた時より格段にやりやすかったです」
「そうだろう! というわけで、後輩の初めての小説が完成だな!」
「まだまだ話全体としては冒頭部分って感じですけどね」
「そうだな。ここから、お姫様を奴隷にしてしまったことにより起こる事件とか、主人公の抱える背景とか、そういうものを掘り下げて話をどんどん展開させていくんだ!」
「なるほど。掘り下げるためには、今までやってきたプロット及び本文のノウハウを使っていくわけですね」
「そうだな! 物語はいくつものちっちゃい『起承転結』があって、一つのでっかい『起承転結』になる。コンセプトもそうだ。いくつものちっちゃいコンセプトを重ねて、一つのでっかいコンセプトを達成していく。今回教えたのはまさに基本だ! これからミクロにしたりマクロにしたり、後輩のものとして応用してくれ! ただし!」
「ただし?」
「ここで紹介したノウハウはあくまでも『個人の意見』だから、盲信したりしないように。このノウハウを使用して被るあらゆる被害に対し、作者は一切の責任を負いません!」
「免責事項。しかしまさか、僕が小説をいちおうの仕上げまでもっていけるとは、思ってもいませんでしたよ……今までありがとうございます、先輩」
「いやいや。あんまりお礼言うなよ。後輩のセリフも私のセリフも作者が一人で考えてるんだから、自分で自分に感謝して自分で自分にお礼を言うとか虚しいだろ?」
「それ言い出したら僕だって本当は文章完成させてないですからね。ここで仕上げた小説の掲載予定は永遠にありませんからね」
「まあ、ストーリー上、このあと後輩は『小説家になる夫』で書いた小説をさらしあげる流れになるわけだけどな」
「そうですね。……あれ? でも、まだプロットに埋まってない項目が二つありますね」
「うん。『掲載用あらすじ』と『タイトル』だ!」
「それも指南していただけるので?」
「しないわけにはいかないだろう! ただ、やっぱりこの物語の主旨が『ヒットする物語の作り方』じゃなくて『物語の作り方』だから、ランキング考察なんかは抜きで『自分用よりは売りを意識したあらすじ』と『内容に興味を持ってもらいやすいタイトル』を独断と偏見と独自理論で作り上げていくことになるぞ!」
「なるほど」
「だからもう、私たちの会話に読者がいたとして、ここから先は読む必要ないな! ここまで付き合ってくださった読者の方々、いらっしゃるかわかりませんが、お疲れ様でした! ありがとう!」
「これ書いてる時点でまだ六月ですからね。掲載日は七月半ばかな?」
「というわけでまたまた五千字越えてるからさっさと締めよう。お疲れ様でした!」
「はい、お疲れ様です。モノローグはもういいよね。では次回またお会いしましょう」




