指南14 本文の書き方 起承転結編その2
「今日は私、文章指南しない」
ええ……
先輩のいきなりすぎる発言に、僕はおどろくより引いた。
だってすでに彼女は机の上にスタンバイしており、僕の目の前には彼女のふくらはぎがあるのだ。
先輩のふくらはぎが視界に入ると、僕はもう、小説指南を受ける心の準備をするように条件付けられている。
人間パブロフとは僕のことであり、しかしベルが鳴ってもエサが出ないとなると、僕はエサもないのに間抜けによだれを垂らすしかないのであった。
「先輩、お願いだから指南してください。さもないとふくらはぎに噛みつきますよ」
「どういう脅迫だ……いや、うん。もちろん指南はするけどさ。後輩、今の私の発言におどろいただろ?」
「いえ、引きました。ドン引きです」
「そうか、おどろいたか」
「いえ」
「これから指南する『転』の項目では、『読者におどろきを与えること』を目標に『小プロット』を練っていくぞ!」
「話聞けよ」
「まずは昨日書いた文章を添付しよう」
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――目の前に女の子が落ちてきた!?
しかも、その音に釣られて衛兵があらわれた!?
いったいなにが起こっているのかまったくわからない!!
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寒い夜だった。
狭い裏路地にいる。人通りはない。俺は安心した。
見える範囲には家の壁が見えた。地面は土。特に感じることもない。
聞こえるのは虫の声と遠くの喧噪ぐらいで、静かだなと思った。
今までやっていたのは奴隷の買い付けだ。おかしなことじゃない。あくまで俺は仕事をしただけだ。
・『起』にある三つの『要素』
『主人公の登場』
『女の子が降ってきた』
『衛兵があらわれた』
・承の小プロット
衛兵に追われていたヒロインが、主人公を偉そうに巻きこんで、イラッときたサディスト主人公が、ヒロインに協力するふりをして魔法で奴隷にしたくなるような気持ちになる。
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「だんだんかたちになってますね」
「じゃあ、これから書くであろう『承』で起きる三つの『要素』を整理してみようか。『承の小プロット』から本文を想像して『要素』を抜き出すかたちだな! すでに『承』の本文を書いたつもりで抜き出してみてくれ!」
「実際に書いては駄目なんですか?」
「書いた方がやりやすいな! でも進行の都合があるから、後輩は書いた『つもり』でやってみてほしい!」
「ええ……まあ、いいですけど……ところで、なぜいつも三つなんですか?」
「三つ程度の事件も起きないようなエピソードは面白くないからな!」
「唐突にハードルを上げていく」
「まあ、それは半分冗談として、どんな小さな『要素』でもいいから、最低三つ、挙げてみることが大事だな。すると、その『要素』を組み合わせた際に状況が動きやすい」
「なるほど。ええと……作者視点での要素……事件ですよね?」
「そうだな」
「まずは、『主人公とヒロインが協力した』」
「うん。まあ、まだ後輩の頭の中にしかしっかりした話はないから、私からは想像しかできないけど、流れで言えば『協力して衛兵をまくか撃退する』ことになるな」
「なるほど。『まく』と『撃退する』だったらどっちがいいですかね?」
「主人公の性格や能力によるな! ただ、以前決めた『キャラクター』だと、『やる気を出せばすごい』のが主人公らしいから、それを示すタイミングは今だと思う!」
「うーん……『まく』のもなんかいいし、『撃退する』のもそれはそれでいいし」
「好きなだけ悩め! 自分が作った主人公の活躍を想像するのは楽しいからな!」
「『撃退』した際に色々問題起きそうだなーとか想像しちゃうんですけど、これってよくないことだったりします? ほら、衛兵と正面きって問題起こして、立場とかまずいかなって……でもそういうの考えると話が小さくまとまりそうかなーとか」
「どんな感じに話の舵を切るかは、作者の自由だ! 大変なことになったってあとで言い訳かリカバリーすればいい! ただ、扱いきれずに疑問のまま残すことになりそうなら、やめた方がいいな。『これどうなるの?』がずっと残るのは、読者として気持ち悪いから」
「なるほど。うーん……ちょっと『撃退』したあとの未来が見えないので、ここは『まく』ことにしましょう。『主人公がヒロインに協力して、衛兵をやり過ごす』で一つ目」
「うん! いいね!」
「で、二つ目の要素か……うーん……あ」
「なにか思いついたか!?」
「またゲスとか言われそうな気がするんですが……」
「もう慣れた!」
「ええ……ま、まあ、いいか……あの、勘違いしないで聞いていただきたいんですけど、ここで『ヒロインが主人公を好きになる』とか入れたら駄目でしょうかね?」
「後輩がいいと思ったなら、それでいいぞ! だって後輩の物語だからな! でも、なんでそうなったか教えてくれると指南しやすい!」
「一つは妄想具現化ということで面倒くさいヒロイン攻略の手間が嫌だった。っていうか女の子を攻略する手順とか、僕には想像つきませんし……」
「急に『友達のいない高校生男子設定』を思い出したな……」
「あと、主人公、サディストじゃないですか」
「うん」
「協力して、惚れさせておいて、奴隷に落とすとか、サディストとして気持ちいいかなって」
「うわあ……」
「引かないでください」
「い、いや、うん、えっと……とてもよく主人公の気持ちになれていると思います」
「セリフだらけのこの作品で、先輩まで丁寧口調にならないでくださいよ。読者が混乱するでしょう」
「いたらな」
「とにかく、二つ目の要素は『ヒロインが主人公を好きになる』で」
「主語は『ヒロインが』でいいのか? どっちかっていうと、『主人公が後に裏切るためにヒロインを惚れさせる』っていうように聞こえるけど」
「あ、たしかにそうですね。じゃあそれで」
「で、三つ目だ」
「ええ……もう事件はないよ……」
「がんばって!」
「……うーん……あ、でもこれ事件かなあ?」
「言ってみてくれ!」
「『主人公がヒロインの態度にイラッとする』とかなんですけど……」
「おっけー!」
「こんなささいなものでいいんですか?」
「うん。それに、ささいじゃないぞ! 今後の主人公の行動を決定づける、重要な感情の変化だ!」
「でもすでに『起』でイラッとし終わってるような気もするんですが……だから余計にいいのかなあ、って」
「つまり『起』でもイラッとし、『承』でもイラッとするんだな! 主人公の『奴隷にしてやる』って気持ちに共感されやすくなっていいと思う!」
「なるほど、『要素』を重ねてもいいんですね。じゃあ……『主人公がヒロインの態度にイラッとする』『主人公とヒロインが協力して、衛兵をやり過ごす』『主人公が後に裏切るためにヒロインを惚れさせる』ですね」
「これで『承』の要素を抜き出せたな! じゃあ、これから『転の小プロット』作成だ!」
「はい。これも、今抜き出した要素から妄想をふくらませればいいんですか?」
「そうだな! わかりにくかったら、登場するキャラクターの行動指針を整理しよう!」
「はい。ええっと……『主人公』は『ヒロインに力を貸すけどイラッとして、裏切るために惚れさせる』。『ヒロイン』は『主人公に偉そうに協力を求めた末、主人公に惚れる』ですね」
「うん! それを一文にまとめるんだ!」
「ええと……『主人公はヒロインに力を貸すが、その偉そうな態度にイラッとして、「こいつを最高のかたちで奴隷に落とすためまずは惚れさせよう」と目論み、行動する。ヒロインは主人公の思惑も知らず、協力してくれた彼に好意を抱いてしまう』ですかね?」
「そうだな! じゃあここで『転』ということで、『承』ではやらなかったことをやろう」
「なんです?」
「『登場人物の誰かが、○○という理由でびっくりする』という一文を入れる」
「……ええ……すっごいてきとう……」
「意外と重要だぞ! 『誰』が『どういう理由で』びっくりするかを考えてみてほしい!」
「びっくりねえ……惚れた相手に奴隷にされたらびっくりするでしょうけど、そのイベントはまだなんですよね」
「そうだな。まだそこまでいってない」
「ってことは……『主人公はヒロインが偉そうでびっくりする』とか?」
「うん! じゃあそれで! 抜き出した『承の要素』と、今作った『びっくりする』『転の小プロット』を入れてみよう!」
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――目の前に女の子が落ちてきた!?
しかも、その音に釣られて衛兵があらわれた!?
いったいなにが起こっているのかまったくわからない!!
▼
寒い夜だった。
狭い裏路地にいる。人通りはない。俺は安心した。
見える範囲には家の壁が見えた。地面は土。特に感じることもない。
聞こえるのは虫の声と遠くの喧噪ぐらいで、静かだなと思った。
今までやっていたのは奴隷の買い付けだ。おかしなことじゃない。あくまで俺は仕事をしただけだ。
・『起』にある三つの『要素』
『主人公の登場』
『女の子が降ってきた』
『衛兵があらわれた』
・承の小プロット
衛兵に追われていたヒロインが、主人公を偉そうに巻きこんで、イラッときたサディスト主人公が、ヒロインに協力するふりをして魔法で奴隷にしたくなるような気持ちになる。
・『承』にある三つの『要素』
『主人公とヒロインが協力して、衛兵をやり過ごす』
『主人公がヒロインの態度にイラッとする』
『主人公が後に裏切るためにヒロインを惚れさせる』
・転の小プロット
主人公はヒロインが偉そうでびっくりする。
主人公はヒロインに力を貸すが、その偉そうな態度にイラッとして、『こいつを最高のかたちで奴隷に落とすためまずは惚れさせよう』と目論み、行動する。ヒロインは主人公の思惑も知らず、協力してくれた彼に好意を抱いてしまう。
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「こんな具合で?」
「そうだな!」
「しかし小プロットだけ見てるとヒロインにイラつかされまくりですね……」
「だからこそ『奴隷にする』なんていう主人公の奇行でも気持ちよさが生まれるんじゃないかな?」
「あ、たしかにそうですね……ところで『結』も同じ流れでやるんですよね? 今やっちゃいますか?」
「それは『起承転結編その3』で!」
「ああ、やっぱり次回なのか……」
「さすがに残り千五百文字程度じゃなあ」
「やっぱり『結』ならではの要素が入るんですか? 『びっくりする』みたいな」
「まあそうだな。あと、『結』はプロットを参照しながら作るし」
「なるほど。しかし馬鹿みたいに丁寧にやりますね……先輩も普段こんな感じでやってるんですか? これいつまでも本文が完成しないと思うんですけど……」
「慣れると、これまでやってた作業が脳内で一瞬にして終わるようになるぞ!」
「ここまで約六万文字ぐらいありましたけど」
「無意識にできるようになる。で、無意識すぎるから、改めて整理しようとして紙に書いて、その紙をただ打ち込むのが面倒くさかったから会話形式にしたのが、この物語だな!」
「完全にチラシの裏じゃないですか……」
「あくまで個人のやり方なので被害を被る人がいたって一切の責任を負わない!」
「免責事項」
「というわけで本日は終了! お疲れ様でした!」
「お疲れ様です」
先輩ぴょん。
僕考える。
エンディングモノローグを最適化しようとがんばってみたが、意味がわからなくなっただけのようだ。
ただ、僕は思う。
『先輩ぴょん』はかわいいな、と――




