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指南13 本文の書き方 起承転結編その1

「……えっ、今さら『起承転結』なんですか? っていうかついに『その1』とか……」



 僕は今回のサブタイトルを見ておどろきの声を挙げた。

 もはや僕という存在はどこの次元平面上にいるのか、自分で自分の存在を見失いそうな発言だった。


 ただ、たしかなことは。

 僕の座る席。

 机の上には先輩がいて、僕の目の前には、黒いニーソックスにつつまれた、先輩の足があるということだけだった。



「もう作者は導入とか表記ゆれとか気にする気がなくなったみたいだなあ……」

「先輩、今『起承転結』なんですか? それってプロット作りの時に触れるべき話題では?」

「お、じゃあ後輩は『起承転結』ってなんだと思う?」

「そりゃあもちろん、『文章の構成や物事の順序』でしょう」

「辞書的にはそうだな。でも小説技法的にはちょっと違う。『ガイドライン』だ!」

「『ガイドライン』を日本語訳しても『起承転結』にはなりませんよ?」

「それは知ってる。ただ――後輩は今、どういう気持ちだ?」

「先輩の足を握りたい」

「そういうことじゃなくて、小説を書いてるだろ? で、次の展開に困ってるわけだ」

「なるほど。たしかに冒頭部分は書けそうですが、女の子が降ってきてからのシーンはちょっと迷いますね」

「だろ? そういう時に役立つのが、『起承転結』だな!」

「……役立つ?」

「考えてみろ。『起』の次に『承』があって、『転』『結』と続くだろ? こんなに便利な話作りの指針、他にないぞ?」

「ちょっと意味がわかりかねますが」

「後輩の話の冒頭を見てみよう」



==========================================

 ――目の前に女の子が落ちてきた!?



 しかも、その音に釣られて衛兵があらわれた!?

 いったいなにが起こっているのかまったくわからない!!





 寒い夜だった。

 狭い裏路地にいる。人通りはない。俺は安心した。

 見える範囲には家の壁が見えた。地面は土。特に感じることもない。

 聞こえるのは虫の声と遠くの喧噪ぐらいで、静かだなと思った。

 今までやっていたのは奴隷の買い付けだ。おかしなことじゃない。あくまで俺は仕事をしただけだ。

==========================================



「次第に面白そうな感じになってきてますね」

「この部分は『起承転結』で言うと『起』になるだろ?」

「はい」

「つまり、次はどうあがいても『承』なわけだな?」

「まあ、はい」

「じゃあ『承』ってなんだ?」

「はあ? ……ええと、『うけたまわる』ですかね? 『了解する』『引き受ける』……そんな感じかと」

「うん。つまり『起』で提起された問題を『引き受ける』わけだな。ちょっと『起』で起きた事件を整理しようか」

「整理もなにも、『女の子が落ちてきた』に尽きるかと」

「それが一番大きいな。で、あと二つ」

「……『衛兵があらわれた』?」

「あと一つ」

「ええ……もうなくないですか? それとも、この主人公は別な事件を引き起こしていたとかいう裏設定が?」

「まあそういう設定をつけたいなら好きにしていいけど……『主人公の登場』は事件じゃないのか?」

「あ……なるほど。主人公視点じゃなくて、読者あるいは作者視点での事件をたずねられていたんですね」

「そういうことだ。つまり、これからやるのは『作者としてどのように話を動かしていくかの思考方法』だな!」

「そのためのガイドラインが『起承転結』だと?」

「うん。で、『起』で起こった事件は三つ。『主人公の登場』『女の子が降ってきた』『衛兵があらわれた』。この三つの事件――私は『要素』と呼ぶけれど、これら『要素』を組み合わせたらなんとなく次の展開が予想できないか?」

「たしかに」

「念のためプロットも見てみるか」



==========================================

★タイトル


★コンセプト

・先輩を飼いたい。


・メインコンセプト

 なんか偉そうで不器用な先輩系女子と仲良くなりたい。ただしこっちが優位。


・ストーリーコンセプト

 こちらを見下していた女の子に見上げられるようになる。


・キャラコンセプト

 本心か偽装かは置いておいて、こちらを見下している女の子。


★あらすじ

・自分用あらすじ

 奴隷という文化がある、剣と魔法とモンスターが存在する異世界。

 女の子を奴隷にするのが仕事の主人公は、夜、お忍びで城から出たため逃亡中のお姫様と出会う。偉そうな人をひざまずかせることが趣味の主人公は、お姫様が偉そうだったので、言葉巧みに騙してお姫様を奴隷にしてしまった。



・掲載用あらすじ



★キャラクター

・主人公

 男性。奴隷商人。

 偉そうな人をひざまずかせることに快楽を覚えるサディスト。奴隷商人自体が人から見下される職業であり、彼の性格もあって、出会った人にはだいたい見下されたり拒絶されたりすることが多い。

 普段はやる気がないが、やる気を出すとすごい。


・ヒロイン

 王族の少女で、お城を抜け出して街の上を飛んでいた。

 しかし途中でなんらかのトラブルに遭い、飛べなくなる。そこで出会った主人公に協力してもらい衛兵から逃げ切ることに成功するのだが、騙されて奴隷になってしまう。

 主人公に『こいつ偉そう』と思われるぐらいには態度が偉そう。

==========================================



「見るのは『自分用あらすじ』と『キャラクター』ですね?」

「うん! 『衛兵』は『ヒロイン』を追ってた。『ヒロイン』は『飛んで逃げてたけど飛べなくなった』。そこに『主人公が居合わせた』。で、話の流れの中で、『主人公』は『ヒロインを奴隷にしたいと思うようになる』。人物がいて、それぞれの行動方針があるだろ?」

「っていうことは、衛兵に追われていたヒロインが、主人公を偉そうに巻きこんで、イラッときたサディスト主人公が、ヒロインに協力するふりをして魔法で奴隷にする?」

「『奴隷にする』はまだだな。『奴隷にしたくなるような気持ちになる』ぐらいでいこう」

「なるほど。わかりました」

「こうやって『起』で登場した要素を『承って』、『承』ができるわけだな」

「はい。なんだか頭の中でキャラクターが動き始めた気がします」

「だろ!? そういうのすごい楽しいよな! それが創作の喜びだ!」

「なるほど」

「今頭に湧いたような話の流れを、私は本文に書いて添付しておく。で、その流れをふくらませて本文にするんだ」

「なるほど。小さいプロットって感じなんですね」

「お、それいいな。じゃあ『小プロット』って呼ぼうか。じゃあ、今回決まった『承の小プロット』と、『起』にある三つの『要素』を本文に添付してみてくれ!」

「はい」



==========================================

 ――目の前に女の子が落ちてきた!?



 しかも、その音に釣られて衛兵があらわれた!?

 いったいなにが起こっているのかまったくわからない!!





 寒い夜だった。

 狭い裏路地にいる。人通りはない。俺は安心した。

 見える範囲には家の壁が見えた。地面は土。特に感じることもない。

 聞こえるのは虫の声と遠くの喧噪ぐらいで、静かだなと思った。

 今までやっていたのは奴隷の買い付けだ。おかしなことじゃない。あくまで俺は仕事をしただけだ。


・『起』にある三つの『要素』

『主人公の登場』

『女の子が降ってきた』

『衛兵があらわれた』


・承の小プロット

 衛兵に追われていたヒロインが、主人公を偉そうに巻きこんで、イラッときたサディスト主人公が、ヒロインに協力するふりをして魔法で奴隷にしたくなるような気持ちになる。

==========================================



「ついでに、『転の小プロット』と『結の小プロット』も考えちゃおう」

「……ええと」

「ただし、次回な!」

「ああ、『その1』ですからね……」

「うん。ここからは、『起』のあとの可能性について少し触れる」

「可能性?」

「『ガイドライン』によれば、『起』の次は『承』だろ?」

「そうですね」

「でも、『起』のあとを『転』にしたって『結』にしたっていいんだ」

「ガイドライン壊れる」

「まあ、応用的な話だから、今の後輩の文章に活かさなくてもいいんだけど、たとえば『起』で出てきた要素をまったく無視して『一方そのころ――』とか『落ちてきたヒロインにぶつかって主人公は死んだ』とかにする方法もある」

「いやいやいやいや……主人公死んだら物語終わっちゃうでしょ」

「つまり『結』になるわけだな。で、この『落ちてきたヒロインに殺された主人公』っていうのを『承った』うえで、新しく『起』を始めることもできるわけだ」

「『起結承起』になってるじゃないですか」

「まあ今の例だと『起結転承』が正解かな? 一回場面を転じてるわけだし、突拍子もないことが起こってるわけだから」

「はあ……なんていうか、アクロバティックですね」

「ようするに、『ガイドライン』はあくまで『ガイドライン』っていうことだな。慣れてきたら並べ替えてもいい。ただし、前に『文章作法』のとこで言ったけど、基本を身につけてからやるのが応用だ。いきなり応用すると話に振り回されるばっかりでいいことないぞ」

「でも、生まれて初めて書いた小説でアクロバティックなことやって成功してる人もいますよね?」

「そういう人はこの初心者講座めいたチラシ裏の話を読む必要ないな。天才だから」

「ああ……」

「まあ、そもそも『あくまでも一つのやり方』の紹介しかしてないわけだし、私の言ってることはあくまでも私が書きやすい方法だ。慣れたらオリジナルのやり方を身につけるのが、その人にとって一番効率がいいと思ってる」

「免責事項ですね」

「それももちろんあるけど、『自分に合ったやり方が一番いい』っていうのは真理だと思うのは本当だよ。この物語で語られるのは『作者の見出した自分に合ったやり方』だっていうことでもある」

「まあたしかに、起承転結を気にするタイミングがあからさまに遅いですよね。考えながらやってるつもりでその実直感で進んでるみたいな印象を受けます」

「そういうわけで、次回は『起承転結編その2』だ。『転』について指南するぞ!」

「はい。本日もありがとうございました」

「うん! お疲れ様!」

「お疲れ様です」



 先輩が机から飛び降りる。

 僕は『髪の描写も香りの描写もスカートの描写もブラジャーの描写も、なんなら空気の描写までしたし、これ以上先輩のこの行動になにを思えばいいんだ』と哲学的なことを考えた。


 だってまだまだ続きそうだし。

 ……九月までには終わるといいなあ。

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