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紫剣総合学園は、この国に五つあるうちの一つ、陰鬼を駆逐するためにできたエスカレーター式の学園だ。
――陰鬼。
いつからか、そう呼ばれていた。
いつからいるのかも、なぜいるのかも分からない。
ただただ人間を喰い散らかす存在。
それを人間は恐怖を込めて陰鬼と呼ぶ。
「……」
屋上は解放されてはいるものの、今は誰もいない。
昼休みや放課後ならば分からないが、今は死んだように静かだ。
それはそうだろう。
今は授業中だ。
屋上にひとり、男子生徒――沢瀉倫之助がいた。
前髪はひどく長く、くせっ毛なのかすこしだけうねっている。
さらに女子生徒がするような、赤い眼鏡をかけている姿は、目立つどころか妙にちぐはぐで、逆に目立たない顔が余計目立たない。
たぶん、倫之助の第一印象は「赤眼鏡」だろう。
それくらい、その存在が目立たない。
ぼんやりと立っている姿はまるで亡霊のようだが、赤い眼鏡の奥の目は黄金色で、妙にぎらぎらとしていて、何かを探しているような雰囲気がある。
視線は校庭だが、そこには何もない。
やがて視線を外し、屋上から姿を消した。