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ナディアの日々

ーーーーーーーーーーーーーーーーー。



「そこでフルコンボ逃しちゃってさぁ…」


「EXだろ?仕方ないんじゃねーか?」



友達と2人で歩く、いつも通りの帰り道。


「あ、やべ…今日のアニメ録画してねぇや…」

「ちょ…それは大惨事だぞ!?ダッシュだ!ダッシュで帰れ!」


アニメは1話見逃すととても悲惨な事になる。アニメを見た事のある人なら分かるはずだ。


「おう!帰宅部で鍛えた脚力を見せてやんよ!」

「それは威張れる事じゃない!世の高校生は部活に入って青春の汗を流してだな…」


走り始めた友達と共に走り出す。友達は足が速い。下手すると置いてかれる。


「聞きたくないっ!ていうか、お前も帰宅部じゃねぇか!同類だ!同類!」

「違う!僕は帰宅部のエースだから帰る事を余儀無くされてだな…」


本当は空手部に入った。いや、今も多分部員。けど、精神やらなんやらが合わなくて超幽霊部員状態なのだ。


「帰宅部にエースも何もあるか!」

「あるっ!証拠を見せてやろうじゃないか…うおおおお!」


硬いコンクリートの道を全速力で駆け抜ける。僕は走るのは嫌いだ。


だけど、友達とこういう風にバカな事するのはとっても楽しい…と、思ったり思わなかったり。


「…甘いなっ!俺の走りには第5段階まであるのだ!ぬお…っ!?ぐはっ!」



ドシャッ!という音がして、友達が地面に倒れこむ。


あ〜あ…今のは絶対痛かっただろうなぁ…コンクリートに顔からって…


「バカだなお前も…お〜い、大丈夫か〜?」


「ぐ…く…なんとか…」


満身創痍!って感じしてるけどね。まぁいいか。



ファーーン!


あれ、どっかからかクラクションが…ってあれ?



ーー友達が倒れた所は、道の真ん中で。その道をトラックが通過しようとしてる。


トラックは止まる気配がなく、顔を打った友達は事態を飲み込めてない。


「危ないっ!?」


言葉を発するより早く、足が地面を蹴り出す。幸い近寄ろうとしていた事もあって、距離はそう遠くない。


手を伸ばし、友達を突き飛ばす。


暴走トラックは止まらない。


時間の感覚がゆっくりになる。友達が向こう側の壁に衝突したのが見える。


真横にトラックが迫ってきているのも、見える。もう、数センチしかない。


なんとかして回避を…




ーーーーー無理。


流石にこの距離でトラックを避けるのは無理がある。突き飛ばす為に腕を前に出したから防御も出来ない。



ゴシャッ!


自分の体とトラックが当たる感覚がする。


痛みはない。けど、自分の体が壊れて行くのが分かる。


跳ね飛ばされる。地面に激突して体が跳ねる。


1回。2回。3回。



冷静に数を数えられる自分にびっくりするけど、ここまで冷静って事は、そういう事なんだろうか?



次第に視界が黒く染まる。トラックはまだ止まらない。僕を引きずって走り続ける。



ーーーーー腕、引っ張ればよかったじゃん。



そんなどうでもいい事を考えながら、僕の視界は全て黒に染まった。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



ベロベロベロ


「ぬひゃっ!?」


頬に生温い感覚を感じて飛び起きる。


…随分懐かしい場面を夢に見たもんだ…


「もうあれから…15年位かな?もう、あいつの声、思いだせないや…」


人は人の事を声から忘れてく。なんてどこかで聞いた気がするけど、その通りだ。


ーーー僕はあの後、何故か赤ん坊になっていた。


アニメやラノベを読んでいた所謂オタクだった僕は、これが俗に言う『転生』だと言う事にすぐ気づいた。


この世界はテンプレとも言えるような世界で、魔法が飛び交い魔物が人間と争う。そんな世界だった。


僕が生まれた家は随分と金持ちだったらしく、何不自由なく楽しい転生生活を…



ーーーー出来ないんだよなぁこれが…


ベロベロ


また生温かい感触が。


「ダー君…もういいよ。別に怪我してないから。お昼寝してただけだから。」


「がう?」


さっきっから僕の頬をベロベロしてるのは魔物の…種類はわからないけど多分とかげ。の(黒いからダー君って読んでる)僕の友達。



僕が転生生活を楽しめないのには理由がある。


まず1つ目。


僕はお金持ちの家に生まれた。いや、貴族って言うのかもしれないね。


だから何処に行くにもボディーガードがついて回る。誘拐対策だかなんだか知らないがやりすぎだ。


考えてもみて欲しい。もし君が…何処でもいいけど、例えば砂場で遊んでる時に


「一緒に遊ぼう?」


と誰かに言われたとする。


その子の後ろで厳つい筋肉モリモリマッチョマンの黒服が何人も立って睨みを効かせてたら、君はその子と遊びたいかい?


僕は嫌だ。そして僕の周りの子供達も嫌だったらしい。僕が近づくと蜘蛛の子を散らすように誰も居なくなった。




ーーーこんな状況で友達が出来る訳もなく、僕は一人寂しい幼少期を送る事になった。


2つ目。両親がおかしい。


いや、この世界では普通なのかもしれないよ?けどね?平和な国ジャパンで暮らしてた僕にとっては刺激が強い事が多いんですよ。


両親の寝室から聞こえる会話を一部抜粋してみよう。


まず父親。


『…この家邪魔だな…立ち退かせられないのか?』


『住民がどうしても退かないと…』


『仕方ない。消せ。』



仕方ないじゃねーよ!消すなよ!交渉をもう少し進めろよ!双方を合意させろよ!なんで始末してんだよっ!?


そんでもって母親の方だ。こっちは寝室じゃなく、僕の部屋での出来事だ。



「さ、どう?ナディア。この方かっこいいと思わない?」

「…多分、かっこいい分類に入るかと。」

「どう?一目惚れしちゃったりしない?」

「しませんが。」


「…じゃあ、こっちはどうかしら?この方もいい人で…」



この時、僕、12歳である。



なんで縁談持ちかけてんだよ!断れよ!12歳だぞ!日本じゃ小学生だよっ!



ズドン!


「がうっ!」

「あ、ごめんダー君…」


回想してたら木を殴ってた…やれやれ。


あ、そうそう。僕の今の性別は女の子です。なんでだろうね。萌えるからかな。それとも神の気まぐれかな。


でも、女だからといって弱い訳ではありません。


幼い頃から隠れて鍛錬を積んだからね。ナイフ術とか結構いけるよ?


…でもね。魔法がね。…ううっ…異世界に転生したからには魔法使いたいのに…どうやら魔法の才能はからっきしのようです。


なんでかなー…


おっと、話がそれてた。


3つ目!


貴族の家だから、しがらみやら礼儀やら作法やらが厳しい!


僕はそういうのが一番嫌いなんだっ!なんだあの食事の仕方はっ!なんであんなちまちま食うんだ!


なんで毎日ドレス着なきゃなんないんだよっ!ジャージとか着せろよ!キツイんだよっ!





…まぁ、このように家に居てもロクな事がないので、こっそり家を抜け出して遊びまわるわるのが日課です。


なんかそうこうしてる内に色んな魔物達と仲良くなっちゃったんだよなー。


皆基本いい子だよ。魔物は全部敵っていう考えは間違ってると思うな。


悪が育てたからって悪になるとは限らないんだよ…そこをわからないカタブツが多すぎるんだ。だから無意味な虐殺までする。しかもそれで喜ぶ奴とか居るんだ。本当救えないよ。


「なーでなでなでなで。」

「がうがうっ♪」


ほーらこんなに可愛いのに…


「…がうっ?」


ダー君の体がピクッと動く。


「…が、がうっ!がうがうがうっがうん!」

「そ、その叫び方はっ!」


この叫び方は天敵の襲来…と言ってもダー君にとっての天敵ではなく…







「おぉぉぉぉ嬢様ぁぁぁぁ!何処にいらっしゃるのですかぁぁぁぁ!出てきて下されぇぇぇい!」




僕にとっての天敵…じいやだ!



「見つけましたぞっ!」


「う、うわぁぁぁ!」


「お待ち下されっ!」



じいやは僕が生まれるずっと前から僕の家(リバルティー家って言うんだけどね?)で働いてる人だ。僕が始めて見た時から白髪に白ひげだったからもうかなりの歳だと思う。






思うんだけどっ!



「なんでそんな足速いのぉぉぉ!?」


「訓練の賜物でございますっ!」



このじいや、物凄い身体能力が高い。しかも、ボケる様子も全くなし。


特に足がべらぼーに速い。


僕だって別に遅い訳じゃない。体が動かせる様になってからずっと鍛える…とまでは言わないけど、結構動かしてきたし、森とか山も走り回ってる。鉄の四本足のドラゴンみたいなのと相撲して引き分けた事だってある。かなり強い方だと思ってる…けど、じいやは違う。



僕の走ってる時の擬音が



ダッダッダッダッ!



だとするならば、じいやは



ドドドドドド!



って感じだ。


まぁ、そんな何処の短距離選手だよってレベルの擬音を出すじいやから逃げ切れる訳もなく。


「さ、家にお連れします。」


「ふぇぇぇん…」


こうなる。


因みに今僕は猫みたいな持たれ方をしている。服の後ろの襟の部分で吊り下げられてる。


一応お嬢様だぞー。じいやの雇い主の娘だぞー。


…ぐすん。まぁ、じいやは悪い人じゃないけどさ。



「やだー!ナディアおうちかえらないー!」


ちょっと子供っぽくだだをこねて、手足をジタバタさせてみる。


「お嬢様ももう15なのですから…もう少し落ち着きを持って頂きたいものです。…ああそうそう。こちらをどうぞ。」



おっ。飴だ!この世界では…というか、この家では甘い物はとても貴重です。体に悪いとかで買ってもらえないのです。


「旦那様には内緒でお願いしますよ。」

「わかった〜」


じいやはたまにこういう風に、おやつをくれます。甘くて美味しいです。



「…では、帰りましょうか。」


「やだやだー!まだ帰りたくないー!」



ジタバジタバタ。


「あまり暴れないでくだされ。」



うわぁーん!もうおうちが目の前だよぉぉぉ…!



「さ、入りましょう。」


もうジタバタしても仕方がないかぁ…


「…ただいまー」






…もっと楽に、暮らしたいな〜…

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