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Ib -BadOver-

作者: 三柴 樹

 暗く、その暗さ故にどこか不気味な雰囲気を持った美術館を、しおれかけた赤いバラを持った一人の少女が、憔悴しきった様子で歩いていた。

 その美術館の中に展示されている作品の数々は芸術的なものばかりだが、しかしその作品の独特な雰囲気が、現在の暗い美術館の不気味さをより一層助長させていた。


 例えば、首はないがその体型は見事なプロボーションである、『無個性』という像の数々。

 例えば、こちらを見つめる目だけの、『心配』という画。

 例えば、生命の象徴とされた大きな、見事なバラの像。


 これら以外にも多くの作品が、美術館には飾られていた。


 少女はさきほど自身が見た、あの巨大な絵を思い出す。――あの絵はそう、まるで飛び込めるようだった。だけども、怖くてとても飛び込めなかった。だって、またここのような、わけのわからない所に繋がっているかもしれないのに、とてもじゃないけど、無防備に飛び込むことなんてできない、と。

 そして、少女は一瞬迷ったのだ。その結果、絵はもう少女を受け入れようとはしなかった。否――もう送らなくてもいいと、判断したというのが、この場合は適切なのかもしれない。


 そこから、現在だ。少女はこのくらい美術館から、脱出するための道を探していた。

 窓は固く閉ざされており、出入り口も同じだ。では、どこから脱出すればいいのだろう。ずっとそう思いながら、歩いていた。しかし、出口は見付からない。

 ……さっきの自分の判断は間違いだったのだろうか、と、少女は不安がった。もう、足が痛い。このまま歩くのはいやだ。

 そう思っていたときだった。


「あら、イヴ!」


 つかれきった状態で歩いていた少女に、背後からそんな声がかかる。

 少女を呼んだのは、パーマがかった紫色の髪、ぼろぼろのコートを着た青年。そのまま怒っているような口調になり、こう言葉を続けた。


「ダメじゃない、一人でこんな所まできちゃ! 危ないでしょう? 怪我したらどうするの、心配したんだから!」


 それは自分のいう事を聞かなかった、という横暴な発想から来る発言ではなく、この少女――イヴという少女をいたわっていることがうかがえる、掛け値なしの真心からくるもの。


「……あっちの方に出口を見つけたのよ、さ、一緒に行きましょ?」


 ニッコリと笑い、そう青年は言葉を続けると、少女に手を差し出す。

 少女は彼の胸を垣間見る。胸ポケットにささっていたはずの青いバラが消失していた。

 思わず少女は後ろにさがった。バラがない、なら、これは偽者? しかし、少女の背後は壁、背中がぶつかる。その瞬間。

 壁からいきなり出現した黒い手が、少女のバラを奪い取る。そして、しおれかけたバラの最後の花弁をむしりとった。

 あ、という声をあげる暇すらないほどに、一瞬の出来事。その瞬間の後に、少女の全身を耐えがたい激痛が襲う。表情をゆがめ、倒れる。立っていることができない。これらの後に少女にやってくるのは、猛烈な眠気。やはり抗うことなどできずに、少女はそのまま眠った。

 しかし、そうなってもなお、青年の顔は、微笑んだままである。意識を失うその時に少女はその顔を見、そして理解した。





 ――この青年は本物などではない、ということを。





「……イヴ、イヴ!」


 眠っていた少女の肩が揺さぶられる。目を開けると、そこには先ほど同様の青年がいた。

 青年は心の奥底から心配していたのか、涙ぐんだ声、目は赤くなっていた。

 少女はごしごしと目をこすると、短く大丈夫、と返答した。


「よかった……無事だったの」


 ほっとした様子で言う青年に対して、少女はうなずいた。青年はその返答を受けとると、安堵の息を漏らしつつ、立ち上がる。少女も立ち上がろうとするが、どうにもこうにも、上手に立ち上がれない様子である。


「……イヴ、おんぶしてあげようか?」


 その様子を見かねたのか、青年は苦笑まじりにそう少女によびかける。

 少女は少し顔を赤らめたが、しばしの逡巡の後、うなずいてそう返答した。


「はい、これでオーケー」


 イヴを背中に乗せた青年は、朗らかな口調でそう返答する。

 そのまま歩き始めつつ、青年はまたイヴに呼びかけた。


「この場所を出たら、一緒にマカロンを食べにいきましょ? 安くておいしいカフェ、しってるんだから」


 その誘いに、少女はニッコリと笑って返答する。



 やがて彼らはそのまま美術館に消えていく。

 彼らが去ったその場には、一つの、花弁が全てむしられたバラだけが落ちていた。



 ***


「今回のゲルテナ展、来てよかったわねー」

「あぁ、有名な作品が勢ぞろいだ……それに、やっぱり感動を覚えるよ、ゲルテナが残した最後の作品である、例の作品がここに来るなんてね」

「あぁ、あの……女の子の絵ね」

「うん、お、ほら、これだ。かわいい女の子だね。どことなく君に似ているんじゃないか?」

「まったく、あなたったら。なぁに、それ? ……あれ?」

「どうした?」

「……どうしたのかしら。なんだか、この絵を見たら涙がとまらなくなっちゃったわ。不思議」

「確かに不思議だね。うーん、ゲルテナの作品は何処と無く不思議なモノも多いけど、まさか見てなくなんて意外だなぁ」

「私も……ごめん、ちょっと休んでくるわ。一息つきたいの」

「そうかい? じゃあ、僕はもう少しこの絵を見ているよ」






「『イヴ』をね」



Ibをプレイしたのが1.02の頃で、そしてこれを書いたのが二年前だったような気がします。


メモ帳の中に埋もれていたので、今回それをコピペして書いてみることに。

というかこれを投稿した段階では小説家になろうで2次創作は全面禁止になっていたのに許可されているのね。

知らんかったですわ……


それにしても、某劣等生には許可は下りていないのかなぁ、と思ったり思わなかったり。

私は読んでいないんだけどね!!!



ここまでこんな駄文を読んでくださった皆様に感謝です。


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