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十二人十二色

転生(?)少女がやってまいりました。

作者: 枯木榑葉

※1/22 誤字修正しました。

「僕、えっと、あの、その……。み、瑞穂先輩のことが、その、す、好き、です。つ、付き合ってくれませんか!?」


 桜の花びらが風に吹かれ辺りを舞っているなか、私の一つ年下の後輩である水無月葵くんが、熟れたリンゴのように顔を赤くして私に告げる。

 日本人特有の黒い髪に少し茶色の入った瞳。男子にしては身長が低く、私とそんなに変わらない。全体的に整った顔で、目は大きくパッチリ二重とまるで天使のような容姿をした彼が、赤い顔で涙目に加え上目使いでの告白。背後には桜の木もあり破壊力は絶大だ。早く、早く答えないと、私の理性がぁ!


「本当? ……嬉しい。これからよろしくね?」


 私も頬を赤く染め、目から涙をポロリと落としながらも笑みを作り言葉を返す。いわゆる、泣き笑い、というやつだ。

 うおぉぉぉ! 涙がぁぁぁ!! 全然泣きたい気分じゃないのに涙がでるぅぅぅ! 私の涙はそんなに安くないっ!!


「は、はいっ! よろしくお願いします! ……あの、瑞穂先輩……」

「ん?」

「えっと、その、いきなり、なんですが……。キス、してもいいですか?」


 私は恥ずかしさでさらに真っ赤になりながらも、そろそろと頷く。もはや私の顔はゆでダコよりも赤いかもしれない。

 私たちはお互いに熱っぽい視線で見つめ合い、どちらからともなくそっと唇を重ねた。



 しばらくそのまま動かずにいると、どこからかしっとりとしたバラードが聞こえてきた。

 その音が聞こえた途端、私は勢いよく葵くんから離れる。そこに先程までの甘い空気は一切存在しない。顔を赤く染めていたのは見間違いだったのか、と疑いたくなるほどの速さで顔の赤らみは消えていた。


「ふはぁー! 終わったぁぁ! これで全クリだね! お疲れ、自分!!」

「あーあ、何でおまえなんかとキスしないといけないの? 最悪。俺の唇が汚れた」


 そう言いながら、葵くん、いや、こいつは生意気なくそガキで十分だ。くそガキは制服の裾で唇をごしごしと擦る。それを見た瞬間、胸がチクッと痛んだ気がした。これだと私がくそガキから拒絶されて悲しんでいるみたいではないか。絶対に気のせいだ、痛くなんかない。


「煩い! くそガキ! 私もあんたなんかとキスしたくなかった! 私の唇が腐れる!」


 私も負けじと唇をぬぐう。それを見て一瞬、ショックを受けたような表情をしたくそガキ。え、なんで? と私が思う暇もなくすぐにその表情は消えうせ、今度は目を吊り上げ私に向かって唾が飛びそうな勢いで反攻してきた。


「なんだと!? おまえな、他のやつらは俺とキスできるおまえを羨ましがってんのに、おまえも素直に喜ぶぐらいしろよ!」

「誰がするか! 私はしたいなんて思ってない! 変われるもんなら他の人と変わりたいわ! この二重人格!!」

「仕方ないだろ、そういう設定なんだから!!」

「だったら普段も設定通りにしなさいよ! 設定の性格なら私、あんたのこと可愛くて好きなのに!!」

「なっ! お、男が可愛いとかあり得ないだろ!?」


 くそガキは怒りからか一気に顔を真っ赤に染め上げ、私に食って掛かる。何々喧嘩? やってやろうじゃないの! ボッコボコにしてやるわ! あ、でも私、痛いの嫌なんで。殴らないでくださいね。


「まあまあ、二人とも落ち着いて。瑞穂ちゃん、これで全部クリアしたね。おめでとう」

「っ!?」


 突然聞こえた声に私たちはビクリと肩を大きく揺らして驚いた。声の聞こえた方へと目を向けると、見目麗しい十人の美形男子たちが横一列に並んで立っていた。

 あ、何でだろう、笑いが込み上げてくる。ぷーくすくす。横一列、横一列って! 無駄に場所取ってるよ! どうせならさ、二列や三列に並べば? 余った人は外から号令。ほら、ちゃんと横と縦揃えて! 後ろに直進! 駆け足!! これぞ、集団行動。そして、そのまま何処かに行ってくれるとなおよし!

 なんて、現実ではあり得ないわけで。さあ、現実をみようじゃあ、ありませんか。


 声からして、私たちを止めに入ったのは私と同じクラスの霜月侑都くんだと思う。その侑都くんは穏やかな笑顔で私を見ていた。あぁ、その笑顔、癒されます。まさしく、あなたが私の天使。見た目だけのくそガキとは違うわ。もうオーラが出てるよ、天使オーラが。

 あと、脳内で集団行動とかさせててごめんなさい。ちなみに、侑都くんは集団行動にやる気を見せない生徒会副会長に注意していたよ。真面目だね。

 私は侑都くんに祝いの言葉を貰ったことが嬉しくて、侑都くんのもとに駆け寄り、そのままの勢いで抱きついた。侑都くんは体が一瞬硬直したみたいだったけど、笑って抱き返してくれた。


「侑都くん! ありがとう!」

「お疲れ様。頑張ったね。あ、それと、ごめんね。オレのルート、怖かったでしょう?」

「あー、確かに。結構怖かった」


 侑都くんはヤンデレを担当している。最初は甘く和やかに進んでいただけに、ヤンデレルートに入ったときは本当に怖かった。


「でも侑都くんは本当はいい人だよね! 天使の皮被った生意気なくそガキと同じで設定と実際の性格が全く違う! 何て言うか侑都くんの実際の性格は天使だね! 格好いいし性格もいいなんてもうサイコー!! 私のお嫁さんになってー! 」

「お嫁さんって……。お婿さんじゃないの?」


 侑都くんが苦笑しながら訊ねる。

まあ、普通はそうだよね。でも……。


「侑都くんはお婿さんよりお嫁さんの方がオイシイと思うの!」

「オイシイ、ね。でも、やっぱりオレはお婿さんの方がいいな。オレだと役不足?」

「そ、そんなことないよ! きっといいお婿さんになると思う!」



「瑞穂」


 私たちが和やかに会話を楽しんでいると、葵くんが仏頂面で私の名前を呼んだ。

 何で不機嫌そうなんだろう。ここに来るまでに何かあったのかな? だとしても、その不機嫌ですってオーラを撒き散らさないで欲しいんだけど。近所迷惑だよ。

 そんなことを思っていると、私の肩に葵くんの手が置かれた。触れられるとは思っていなかったからか、ビクッと過剰に反応して跳ね上がる私の体。


「会話するのはいいけど、瑞穂はいい加減早く侑都先輩から離れろ」

「別にオレは気にしないけど……」


 葵くんはそんな私の反応も侑都くんの事も無げな弁明も、気付いているだろうにすっぱりと無視をして、私を力づくで侑都くんから引き剥がす。あの、ちょっと強引すぎやしませんか。倒れるかと思ったんだけど。


「あぁー、私の精神安定剤がぁー」

「オレは薬か?」


 私は無理やり温かみを消され、ムッとしつつ未練たらたらで侑都くんに向かって両手を伸ばしながら言うと、侑都くんはカラカラと笑いながらツッコミをいれた。

 うん、その表情も素敵です、侑都くん。あなたはそのままでいてください。


「なんだよ、そんなに抱きつきたいのか。抱きつき魔かよ。変態」

「何ですってぇ!?」

「なんだよ、事実を言っているだけだろ!?」


「それにしても、今日で物語は終わりだから明日からまた四月だね」


 今まさに喧嘩が始まりそうな雰囲気に陥った時、侑都くんが話題を変えてそれを制し、しみじみと言葉を発する。侑都君が止めるんだから仕方ない。

 あぁ、それにしても本当に、明日からまた始めからなんだ。だけど、どうだろう。今回で主要攻略対象全員をコンプリートしたわけだ。明日から、また全てリセットされてやり直し、何てことはあるまいな。さすがにもう嫌だよ?


「消されるにしても、消されないにしても、どのみち四月から始まることには変わりはないだろ。この一年間しか設定されてないし」


 私の考えを読んだかのようなジャストなタイミング。何で私が考えていることが分かったんだい、葵くん。




「だよね。何て言ったってここは、……乙女ゲームの世界なんだから」



 ここは『十二人十二色~あなたの好きな性格の人がきっといる~』という、何ともふざけているかのような題名の乙女ゲームの世界。私の名前は皐月瑞穂でヒロインを担当している。つまり、十二人もの美形男性キャラクターを次々と攻略しなければならない。なんだかこう言ってしまうと私は魔性の女みたいだ。でも所詮乙女ゲームとはそういうものでしょう?


 世界背景は現代日本のどこにでもある普通の私立高校。実は攻略対象は人外、というものは全くない。あくまで普通の高校なのだ。

 美形が十二人も集まっている高校を普通と言っていいのかは甚だ疑問ではあるが。

 種類豊富な数多な性格の人々を攻略できることを売りにされているだけはあり、ツンデレにヤンデレ、鬼畜にショタに俺様などなど、十二種類の美形たちが用意されている。しかも、なんと名前を知ることができれば、モブキャラすらも攻略できてしまうのだ!

 いや、もう、数多過ぎるだろう……。てか、攻略できるならモブって言わないよね。隠しキャラじゃないの?

 モブキャラだから簡単に恋に落ちる、というわけではなく、ちゃんと筋の通った物語になっている。製作者には頑張ったね、偉いね、と言いながら頭をなでなでしてあげたい。


 そうそう、ちなみにこの世界の人たちはここが乙女ゲームの世界だということを知っている。自分がなんの担当なのかもちゃんと理解している。私の場合はヒロインだし、くそガキと私が勝手に呼んでいる葵くんはショタ系純情天使ちゃんな後輩という設定の主要攻略対象、穏やかで真面目なクラスメートかと思いきや実はヤンデレだった主要攻略対象は侑都くん、という感じ。

 モブキャラはモブキャラで私たちの物語を傍観したり、モブキャラ同士で恋愛したりとこの世界の生活を各々楽しんでいるようだ。よかった、よかった。


「明日は始業式、か。何だかんだ言ってもう、最低でも十二回は経験しているんだよね。バットエンドとかもあったから実際には十二回なんて余裕で超えてるけど。途中で数えるの止めちゃったからな。……はぁ、次こそ私の夢が叶うといいんだけど……」


 舞い散る桜の花びらを見ながらつぶやいた言葉。私は何回この夢を望んだのだろうか。





 きちんと決められた時間に起きて家を出る。今日は昨日の予想通り、始業式が行われる日。あぁ、やっぱり設定からは抜け出せない。ずっとこの一年間をループし続けなければいけないんだ。私の夢は、叶わない。


 学校に着いたので、クラス分けが張り出されている場所に向かう。自分のクラスは変わらないのではっきり言って行かなくてもわかるのだが、これは侑都くんとの最初の接触、つまりイベントなのだ。このクラス分けの時に一度会って、教室で後ろの席の人を見て『あ、さっきの……』となるのだ。

 イベントは避けては通れない。避けようとしても勝手に体が動いてしまう。体が自分の意思とは関係なく勝手に動く感覚、アレは最悪だ。もう二度と経験したくない。だから私は自分から、自分の意思でそこに向かうようにしている。


 遠くから張り出されている場所が見えてきた頃、いつもとどこか違う、そんな感覚にとらわれた。そして、その理由もすぐにわかった。モブキャラの皆さんがいつにも増してガヤガヤしているのだ。

 何があったんだろう。


「ねえ、何があったの?」

「あ、うん、なんかね……って皐月さん!? 何でぇ!?」


 私の疑問はするりと口から出ていた。私の疑問を聞いたモブキャラの女子生徒が答えようとして、すっ頓狂な声をあげる。本来イベントのときはモブキャラと主要人物は設定で会話するようになっていない限り話すことは出来ない。なのに会話が成立したため驚いているのだろう。

 だけど、彼女のそんな声は私の耳には入ってこなかった。なぜなら私と侑都くんの名前の間、今までは見やすいようにと考慮された少しの隙間しかなかった場所に、私の知らない"東雲沙奈"という名前があったのだから。

 もしかしたら、今回は私の夢が叶うかもしれない……。そう思った瞬間だった――





 乙女ゲームの世界に転生した女の子が攻略対象を次々と攻略していき逆ハーレムを作る、そういう話を最近聞いたことがある。だから、きっと"東雲沙奈"はその転生者なのだ。そして私の主要攻略対象たちを根こそぎ奪い取り、逆ハーレムと築き上げるのだろう。

 そのように自己解釈したら私が起こさなければならない行動が自ずと分かった。


 そう、私は"東雲沙奈"と主要攻略対象たちの仲を、



 ――――取り持たなければならないのだあああ!!


 やったぁぁああああ!! きたぁぁぁあああああ!! この人たちが引っ付いてくれたら、私の夢へ向かって大事な第一歩目になる! いや、むしろそれでほぼ私の夢は叶うも同然だろう。これは確実に"東雲沙奈"に逆ハーレムと作ってもらわなくては!


 そう判断した私の行動は早かった。すぐ後ろの席になった"東雲沙奈"、いや沙奈ちゃんにマシンガンのようにガンガン話しかけ、放課後は一緒にどこかに寄り道するほど仲良くなった。私の下心ありありの感情に気付かないほど純粋無垢な沙奈ちゃん。素直で明るく、ちょっとドジなところは加護欲をそそる。きっとそんなところが男の子のハートをキャッチすることだろう。こんないい子を好きになれるなんて幸運に思えよ、主要攻略対象たち。



「なにニヤニヤ笑ってんだ。キモイからやめろ。東雲先輩もどうしていいのか分からなくておろおろしてるだろ」


 突然聞こえた声によって私の意識は思考から引きずり出された。目も前にはムカつくくそガキ、葵くん。設定の呪縛から開放され、今は本来の性格を表に出している。そもそもイベント以外の何もない平和な時は本来の性格が表面に出ていたから、設定の性格を見なくなった、と思えばそんなに変化はない。

 何故貴様がここにいる。最近日課になっている木曜日の放課後にやる沙奈ちゃんとの勉強会のために、沙奈ちゃんと仲良く図書室に向かっているところなのに。邪魔するな。この道の先には図書室しかない。葵くんは本なんて読まないし、勉強も図書室でするより家でするほうがはかどると言って、図書室には一切近づかない。なのに、何故ここにいる。あ、大事なことなので二回言いました。

 あぁ、でも、これは使えるかもしれない。


「ごめんね、沙奈ちゃん。そんな時は何も見なかったことにして記憶から消去してくれると嬉しいな。それと、もう一つごめんね。私、急に用事を思い出しちゃって、今から一時間くらい出掛けないといけないの。それまで図書室で待っててもらえないかな?」

「え? そうなの? わかった、待ってるね」

「うん。ありがとう、沙奈ちゃん。それでは、お二人さん、ばぁいばぁーい。仲良くねー」


 そう言って身を翻し颯爽と去る。

 邪魔者は消えるから、葵くんを手玉に取るために好感度を上げるんだよ、沙奈ちゃん。頑張って、影ながら応援してるからね。


「待てよ」


 しかし、私の立てた予定は無残にも崩された。身を翻したまでは良かったのだが、去ろうとしたら葵くんに手首を掴まれたのだ。


「痛い痛い痛い。痛いよー。放してよー。私の腕は繊細なんだよー。折れちゃうよー」


 そこまで痛くはなかったのだが、放してもらえないかなぁ、と思って軽い口調で主張してみた。そしてすぐに後悔した。葵くんがさっきよりも力を強めてきたからだ。


「いった! ちょっと! 何なのよ!? 本当に痛いんだけど!」

「『何なんだ』は俺の台詞だっ!!」

「……は?」


 葵くんが急に声を荒らげ言った台詞のせいで、私は口を半開きにして固まるという何とも間抜けな格好をさらしてしまった。


「え、なに? どういうこと? 何で怒ってるの? 訳が分からないよ」

「訳が分からないのは俺の方だって言ったよな。おい、どういうつもりなんだよ」


 葵くんが先ほどの激情をきれいに隠した何の表情の乗っていない顔で冷然と告げる。普段よく怒っている人が無表情になると怖いんだな。葵くんの怒った顔の中で一番怖いのは無表情だ、そう深く心に刻んおこう。


「何関係ないことを考えてんだよ」

「んぐっ!?」


 何故ばれたし。葵くんに心の中を覗く能力でもあったのか? お見逸れいたしました。


「……」


 葵くんが鋭い目線で私を睨んできた。怖い怖い怖い、怖いって葵くんよ。もう変なことを考えるのは止めるので睨まないで下さい。

 そう心の中で唱えると、葵くんの視線が先ほどよりは幾分柔らかいものに変わる。

 いや、だから何で私が考えていることが分かるんだって言いたい。もしかして本当に心を覗く能力でもあるの? 切実に問いた――って、ヒィ!? ゴメンナサイ! ちゃんと現実を見ます。だからそんな絶対零度の眼差しで睨まないでっ!!


「あの、えっと、まず何に対して怒っているのかを教えてもらってもいいかな」

「分からなわけ? あんたがこの一ヶ月間オレにしてきたことを思い出せば、すぐにわかると思うんだけど」


 この一ヶ月間に私が彼にしてきたこと? ふっ、多すぎてどれだか判別の仕様がないな。あきらめ……、ごほん。えーと、私何をしてきたかな。思い出すよ、ちゃんと思い出すから!


 私がしてきたことって言ったら、イベントを沙奈ちゃんに押し付け――いや、代わってもらったことがあげられるかな。

 設定の呪縛から開放されたからもうイベントとか発生しないのかと思っていたら、何気に発生しちゃうみたいなんだよね。主要攻略対象にプリント渡してきてとか呼んで来てとか。だから代わりに沙奈ちゃんに頼んだ。用事があるからいけないのって言って。

 でも、あまりにも代わってもらいすぎると沙奈ちゃんに悪いから、届け先がモブキャラだった時は沙奈ちゃんが頼まれたものであっても代わりに行ったよ。まあ、そこに下心が全くなかった、とは言わないさ。だってあったもの。バリバリあったもの。下心ありありでモブキャラのところに行きましたよ! 私の夢に近づくために重要なことなの! 悪い!?


 他には、ばったり主要攻略対象に遇った時に、沙奈ちゃんがいかに素晴らしいか力説しておいた。そこに沙奈ちゃんがいた時は、二人の仲を取り持って話が弾んできた頃に沙奈ちゃんを残して私は退散。

 あとは……。主要攻略対象からの電話は全て無視した。緊急の伝言の場合は先生から直接電話をしてもらえるように頼んでおいたから、支障はない、はず。さすがにメールは事務的な内容の場合も考えて、読みはしたけど個人的なものの場合は返信をしなかった。

 沙奈ちゃんも自分の逆ハー要員と友達が親しげだったら嫌だろう。実際にはここまで徹底する必要もなかったかもしれない。でも何処から誤解が発生するか分かったものではないから、用心をしておいて越したことはないだろう。


 私がこの一ヶ月間にしたことといえばこれくらいかな。え、どこかに怒りを買うようなことあった? まあ、電話に出ないのは悪かったかもしれないけど、そこまで怒るようなことだろうか。


「そこまで分かっているのにどうして俺の気持ちが分からないんだよ」

「どわっふぉい!?」


 えええぇぇええぇえええ!? まさかの私の回想まで分かっちゃってるの、葵くん!! こっわ! 凄い通り越してもう怖いよ! 怖すぎて変な言葉が出ちゃったよ! 『どわっふぉい』って!!


「おまえ、本当はそこまで鈍くないだろ」


 葵くんが私に近づいてくると、左手で私の手を握り、私の右頬を包むように右手を添えて、射抜くような視線で私を見つめる。

 あ、私の『どわっふぉい』はスルーですね。ありがとうございます。助かります。私の乙女としての尊厳は守られたなりぃ!

 葵くんが握っている手に力を加えてきた。力はすぐに抜かれたのだが、たとえほんの数秒だったとしても痛いものは痛い。

 ぎゃぁっ!? 手が! 手が今ぎゅって! 潰されるかと思った! 見た目天使で非力そうなのに、意外と力はあるんだね。やっぱり男の子だったんだ! あ、いや、今まで女の子だと思っていたわけではなくてだね……。その、男の子にしては力がなさそうっていうか、もやしっ子っていうか……ごにょごにょ。


 なおも余計なことを考えていると、葵くんの目が一瞬獲物を捕らえるかのような光を帯びた気がした。

 えっと、真面目にしろってことですね。了解しました。


「瑞穂。本当は分かってるだろ。俺の気持ち」


 目を閉じゆっくりと息を吐く。覚悟を決めた私は目を開き、じっと葵くんの目を見返した――





「瑞穂先輩! 一緒に帰りませんか?」


 放課後、帰る準備をしていると、きらきらと天使のような笑顔で葵くんが話しかけてきた。


「え、どうしたの葵くん。不良から天使にジョブチェンジしたの? 私もギャップ萌って好きだけど、ここまで萌えないギャップって初めてだよ。むしろ気色悪いよ」

「はぁ!? おまえが設定の性格が好きって言ったんだろ!」

「あ、もしかして気にしてたの? かーわーいーいー! 頭を撫でてあげるから近くにおいでよ」


 葵くんをからかおうと、ふざけた口調で葵くんを呼ぶ。どうせ葵くんは要らんとか言って怒り出すことだろう。葵くんとの口喧嘩は何気にストレス発散になる。私は結構前から彼を必要としていたようだ。

 そんなことを考えていると、急に教室がざわついた。なんだろうと気になった私は、意識を引き上げ、目を見開き驚愕した。


「え」


 私の手の届く範囲に葵くんが顔を赤くしてそっぽを向きながら立っていたのだ。


「頭、撫でてくれるんだろ。早くしろよ」


 葵くんが拗ねたような声で催促してくる。数秒間きっちり固まった私は、驚愕から立ち直ると口からくすりと笑いが漏れる。私はそっと葵くんの頭上に手を置き、髪を整えるように撫でた。


「うん。……あ、えっと。その、今までごめんな――」

「謝罪ならいらない」


 葵くんがムスッとしたまま言葉を重ねてきた。そのことに私はまたも笑みをこぼす。


「わかった。……これからもよろしくね、葵くん」

「あぁ」


 私の夢は叶わないかもしれない。それでも、私は葵くんと一緒にいたい、心の底からそう願った。

主人公の夢の内容は一切決めておりません。そのため皆さんで好きなように想像してください。

気付いている方もおられるかと思いますが、主要攻略対象は十二人といいながら、作中には葵くんと横一列の美形男子十人で十一人しか出てきておりません。一人足りていないんです。その足りていない彼については、続編という形で書きたいな、と思うのですがどうなるか分かりません。※続編書きました。

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