表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

子泣きじじい

掲載日:2026/05/21

 子泣きじじい。柳田國男『妖怪談義』により記され、水木しげる『ゲゲゲの鬼太郎』により全国区となった、有名で人気者な妖怪である。


 もちろんそれは、物語としての子泣きじじいの話であって、現実ではそうはいかなかった。何しろ、泣いている赤ん坊をおぶったが最後、どんどん重くなり、終いにはその優しい人間を押しつぶしてしまう。


 人の優しさにつけこみ殺してしまう、とんでもない存在なのだ。


 さて、ここはある地域の山の中。旅人が汗水垂らしながら、この峠道を越えようとしている。思ったよりも進んだな。この調子だと、予定より早く目的地へ着けそうだ。


 彼がそう考えていたとき、どこからか赤ん坊の鳴き声が聞こえる。


 こんな山道に赤ん坊が存在するはずがないのだが、この旅人は持ち前の正義感で探し回り、程なく見つける。


 かわいい赤ん坊である。こんなところに捨てられて可哀想に。どれ、里まで連れていってやろう。


 男にも妻子があった。自分の子供と重ねてしまったのだろう。なんの疑いもなく赤ん坊を背負い、また歩き出した。


「しめた。最近は噂を聞いた人間が警戒心を必要以上に持ちおって、全然ひっかからん。今どきこんな見上げた、阿呆な若者がいるとは。お礼に押しつぶしてやろう」


 子泣きじじいの真骨頂、ここぞとばかりに体重を重くする。さすがに旅人も異変に気付き、これは噂に聞いた子泣きじじいだ、と思い出した。


「ははは。勘付いたか人間。だがもはや手遅れ。貴様はわしの体重に押し潰されて、死ぬのだ」


 大抵の人間はここで心折れ、そのままなすがままになってしまう。だが、この旅人は猛者であった。


「へっ、妖怪ごときが何言ってやんでぇ。俺ぁ江戸じゃあちっとは名の知れた相撲取りだぜ。お前みたいな小者が、俺を押し潰そうなんざ五百億年はえぇや」


 旅人は持ち堪える。それどころか、軽快な足取りで歩き続けている。燃える子泣きじじい。


「ほほほ、なかなか骨の入った人間だ。久々に本気が出せるというもの」

「俺の筋肉に勝てるものなど、この世の中にはいねぇってんでぇ。かかってこいやとーへんぼくが」


 体格こそ大きめと小さめだが、でかい漢たちの裸と裸の、意地と意地のぶつかり合い。これぞガチンコ、これぞセメントである。


「人間、なかなかやるのう。貴様に敬意を評し、最大のチカラを解放してやるわい」

「けっ、神でも鬼でも持ってこいやぁ。耐えきってみせらぁ」


 一人と一体の質量が最高潮まで高まったその瞬間、空間はまばゆい虹色の閃光を放つ。


 大地、空、風景、空気、理、神話、そして空間。差異なく飲み込む一瞬の光。善意も悪意もなく、冷たさも暖かさもない、圧倒的な創造の暴力。


 この日、すべては創られた。


 これが後の世に言う、ビッグバンである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ