【実況】梅田ダンジョン潜入――底辺YouTuberが最後に見た景色
「はぁー。またあかんかったわ……」
俺は今日アップした動画の再生回数に落胆した。
二時間前、再生回数三十。
表示された文字は冷たく、動画でバズる難しさを思い知った。
「滝畑トンネル、遠かったんやぞ。ちくしょー」
幽霊が出るとの噂のトンネルならイケると思ったんやけどな。
やっぱり、なんかワンアイデアほしいな。
いつものコーヒーがひらめきをくれるわけでもない。でも、この気持ちを落ち着けたい。
俺はインスタントコーヒーをカップに入れ、お湯をそそぐ。
……苦い。
お前まで俺に現実を教えてくれんでも、わかってるって。
画面に映る夜のニュースは、ひとしきり今日のニュースを伝え終えたらしい。
『特集です。三年前に突如、出現した謎の建造物。政府は研究者と自衛隊の派遣を同時に進めていますが、井崎さん、どうみますか?』
『はい。新宿、栄、梅田と日本は三箇所に出現していますが、ニューヨークでの調査が昨日、発表されたばかりです』
梅田か。俺の住んでるミナミの少し上やな。
思わずテレビに釘付けになる。
『先ほども私たちが伝えましたね。詳細を教えてくれますか?』
唾を飲んで前のめりになる。
さっきまで落ち込んでいたのに、どっかに行ってしまったみたいや。
『中に入ると、異様な生き物が跋扈しており、軍の調査も困難を極めています。また、死傷者も出ており、調査は一旦中止して体制を整えて調査したいと、ホワイトハウスは発表してます』
……これやな。
俺は次の動画のネタを見つけてしまった。
テレビを消してスマホで動画を検索する。
しかし、中に入ってみたというような動画は見当たらない。
代わりに警備にあたる警官にイタズラをするというのはたくさん出てきた。
「なんや、みんなしょっぼいな。今度、偵察がてら梅田に行ってみよかな」
確か駅からちょっと入り組んだ、曽根崎のお初天神に出来たんよな。
なんかツイッター見てたら「ダンジョン」なんて呼ばれてるわ。
うわ、神社なくなったからって、ダンジョン拝んどる……。シュールやな。
そんなこんなで、ネットを見ていたらいつの間にか眠ってしまったようで、また新しい朝をアラームが告げる。
「うう……。かいしゃ、いきたく、な……」
でもアラームが呼び続ける。
仕方がないので今日もお賃金のために働くとしますか。
今日は良い日や!
残業も回避できたし、まだ日も沈んでいない。
そうや、梅田行こ。
善は急げと言うし、動画は早くアップしたほうがええし。
そんなら御堂筋線乗って、梅田に向かお。一区間で五分くらいやろ。
「うげっ。やっぱ人多いな……」
ミナミと違って人の行き来が早い。
みな、まっすぐ迷いなく進んでいる。
俺もミナミに籠もってんとキタにも遊びに行かなな……。
そう思いながら、泉の広場に向かった。
ホワイティ梅田は心斎橋より密度がある。
行き交う人、様々な店。飲食店のにおいに足を止めそうになるが、そうはさせてくれない。
泉の広場は昔来たときと変わっていた。
地上への階段を上がると、御堂筋に出る。
マップを頼りに方角を確認して、ミナミに下り、右に折れる。
商店街を直進すると目の前には「ダンジョン」が広がっていた。
「これが、例の」
周りを警官が取り囲んで規制線が引かれている。
ここをどう突破するかやな。
近くの太融寺といえば、ハッテン場としても有名だが、彼らに聞けばノンケの俺の貞操もヤバい。
今日はぐるりと一周りして帰るとするか。
スマホでダンジョンと警官を撮りながら一周。
東通り商店街の方なら立ちんぼがいるし、話も聞けそうや。
「は? タダで話するわけないやん」
「ですよねー。なら」
俺は五千円を取り出し、女の子の反応を伺う。
フリフリの女の子はお札を一瞥し、奪い取った。
「……やっす。まぁ、ええわ。ポリなら三交代制やろ。朝の七時とかが狙い目なんちゃう? あいつら眠そうにしてるし」
「あざっす、地雷パイセン」
「うっざ。客ちゃうならどっか行ってや」
情報料としては十分な対価をもらって、俺は地下街へと降りていった。
「……やっぱ数日、通ってみるかぁ」
立ち食いそばはどこでもウマい。
五千円の出費と安いそば。
今日の成果に心は満たされていた。
「当日はどうするか……。配信でやってみるか。横動画やったらバンされそうやし」
休日の朝からベッドの中でスマホ片手にメモをとる。
GoPro、懐中電灯、ピンマイクに水筒に……。
てか、三年も経ってるからなのか、警官もたるんどったな。
私語混じりで市民に道案内。これじゃ、厳重な警備なんて言わんやろ。
こないだの立ちんぼ一斉摘発はめっちゃイキってたけど。
すぐにまた立ちんぼ出てきとるし、意味わからんよな。
ま、そのおかげで地雷パイセンに情報もらえたワケやけど。
朝の七時やったら視聴者もあんま来んやろけど、誰もしたことないことして、バズれば勝ちやん?
布団の中でニマニマする俺は、まだ温かさの中で二度寝についた。
起きた時にはもう夕方だった。
「はーぁっ? 寝すぎやろ、俺!」
起き抜けのツッコミは置いといて、俺はスーパーに駆け込んで弁当と明日のパンを買いこむ。
「にいちゃん、今日はえらい遅かったねぇ」
「いやー、寝すぎちゃって。あ、今日も美人さんですね」
「レジ打ちにおべっか使ても、割引はないかんね。……ペイなら来週、五パーオフやで」
「ほんま? 覚えとくわ。ありがとーね!」
馴染みのおばちゃんには愛想よくすべし。
これが処世術ってモンや。
弁当は店の近くで作っているらしく、まだ温かく美味しかった。
明日。
荷物を持って下見、あるいはダンジョンに入ってやるんや。
男を見せろ、下村大耀。
翌朝、午前四時。
俺は髭を剃り、髪を整えた。
「――うっし」
頬を叩き、鏡を睨む。
財布には一万五千ちょっと入れて、昨日の晩に仕込んでおいたリュックを確認。
カメラに懐中電灯、ピンマイク、そうそうスマホも入れとこ。
『昨夜未明、新宿で火災がありました。現場からは身元不明の遺体が……』
テレビを見ながらズボン、シャツ、上着を羽織る。
ベルトに手をかけ、少し緩めた。
リュックを背負って姿見に立つと、登山客のようなフツメンが出来上がっていた。
「いやいや! イケメンやん。って、んなわけ無いやん!」
朝からテンション上げてかな、やってられん。
もしかしたら建造物侵入罪でしょっぴかれるかもしーひんし。
なんだか悪いことしてるみたいやん。いや、あかんのは承知やけども。
でもな、わくわくもしとる。
子どもの頃、遠足に胸躍ったジブンが懐かしいわ。
ガタン、ゴトン――。
電車に揺られて、俺は行く。
梅田のダンジョンに。
なんか、こう言うと地下街のことみたいやな。ややこしい。
うつらうつらする間もなく、冒険の地に降り立った。
時刻は午前六時。
俺、ハリキリすぎちゃう?
ガキじゃあるまいし、大人なりの時間の過ごし方をするとするか。
俺はマクドに行って、コーヒーを一杯頼んだ。
苦味が強くて、少し雑味のある一杯。
朝は食パン食べてもうたし、朝マックは入らん。
あんま満腹で挑むと動けんくなるからな。
「……それにしても」
店内は夜のおねーさんやら、夜行バスの客で意外にも繁盛していた。
ペチャクチャ喋る女の子は大阪に来たばかりなのか、目を輝かせている。
対してキャバのおねーさんは足を広げて机でグースカ眠っていた。
「夜職も大変なんやな」
男の客はくたびれたスーツに虚ろな目だ。
休日出勤アンド残業おつかれさんっした。
帰って寝るだけにしたいからマクドで朝食なんやろうなぁ。
俺も経験あるから、わかる。
俺はスマホでショート動画を浴びていた。
コーヒーの苦さとブルーライトでだんだん目が冴えてきた。
午前六時四十五分。
席を立ち、お初天神に向かう。
マクドの喧騒が俺に拍手を送っているかのようだった。
行きすがら人の少なくなった道を歩いていく。
「朝マック、食いたかったぁー」
隣で美味しそうに食べてる女の子がちょっとだけ羨ましく、後悔してる。
でも走ったりすることを考えると、俺の選択は間違ってないはずや。
さて、泉の広場の地上に着いた。
周りを見渡すと、気だるそうな例の地雷パイセンの姿があった。
「はよっす、地雷パイセン!」
俺は手を振り、小走りで近づく。
パイセンは身をよじり、俺を避けた。
「こないだのしょぼいやつやん。今日はもう引き上げるんやから、どっか行ってんか」
しっしっと虫を追い払うように手をやるパイセンは、こないだと同じ服装をしていた。
「あー、いやいや。顔見知りには普通声かけるやん? そんなツンケンせんといてや」
「はぁ? 行きずりですらないやろが。今度、会ったらぶち殺すかんな」
言葉は物騒やけど、表情は笑ってる。パイセンってここで生きてんねんな。
「今日はダンジョンの下見ないし潜入調査や。配信するから、よかったら見てってや」
「アンタ、ユーチューバーやったん? どうりでしょぼいはずやな。……てか登録者二桁て。ネットでもしょぼいやんけ」
そう言いながら、俺のチャンネルを登録ボタンを押してくれる。
これが、ツンデレってやつ? なんかクセになるやん。
「朝やし、日曜とはいえ、見てくれる人少なそうやろ? 地雷パイセンが見てくれるって思たら気合入るし」
「見るとは言ってないやろ。時間があったら見ますねぇーっていう社交辞令もわからんのか」
通知をオンにしてくれているのは、優しさなんか?
「まぁまぁ、とりあえず行ってくるわ! もしニュースで『下村大耀が逮捕された』ってなったら察しったって!」
「へーへー。ウチも眠いんやからはよ行けや」
ジト目のパイセンが俺を見送ってくれる。
お初天神に着くと、眠たそうな警官がくっちゃべってる。
「警官も人間やもんな。そら、たるむわな」
改めてダンジョンの外観を観察する。
入口らしき門は石造りで外国の建物のようだ。
石柱が二本、五メートルほどそびえ立ち、灰色と緑が朝日に照らされていた。
所々、苔むしてて大樹と一体になっている。
右にそれると人気も少なく、警官もあくびをしながら体を揺らしている。
スマホで時間を確認すると時刻は午前七時三分。
あのダルそうな警官がここを離れるのも時間の問題や。
右側の区画の下側は植え込みで見えなかったが、裏を返せば伏せていれば見つかりにくいってことやろ。
――今日しかあらへん。
覚悟を決めるんや、大耀。
午前七時二十分。
警官がしょぼしょぼと正門側に向かっていく。
……今や!
俺は腰を落としたまま規制線を乗り越えた。
植え込みをかき分け、ダンジョンの足元まで潜り込んだ。
「これが……」
そびえ立つダンジョンを見上げると、風が吹き抜け俺を威圧している。
伏せた状態を維持したまま、辺りを見渡す。
どこかに身を隠せて撮影準備のできる安全な場所はないか。
正面の門から入るのは目立つ。他に入口はないモンか。
GoProを頭につけ、録画の確認。
大きく息を吸い、ゆっくりと吐く。
懐中電灯を地面に置いて、スマホ配信用のグリップを用意する。
「中に入ってから配信するとして、すぐに操作できるようせな」
電波が安定しているかは知らんけど、宇宙の空が拾ってくれるやろ。
軍手をはめると、決心がついた。
モバイルバッテリーの用意も十分。懐中電灯も点くけどここじゃ目立つから、これも探索用や。
土埃のにおいが顔に近い。
俺は目ざとく侵入経路を探す。
石造りのひび割れを目で追うと、一メートルほどの穴が空いていた。
「ここからならイケるか……?」
このまま地面に伏せていれば中に入れるはず。
腕時計の時刻は午前七時四十二分を指していた。
早く入らんと、見回りが来てまう!
「ええい、ままよ!」
リュックを前に背負って、ほふく前進で進んでいった。
中は湿気と冷気が充満している。
廃墟に似とるな。
そうや、GoProにスマホで配信準備、懐中電灯に……土で汚れた服をはたいて、きれいにしとこ。
『【大阪・梅田】お初天神ダンジョンに入ってみた』
入力された文字に誤字脱字がないか確認して、配信ボタンを押す。
あっけなく配信され、閲覧数が伸びるのを見守る。
一、三、八、十三。
コメントには「おは」と「釣り?」の文字が不規則に並ぶ。
「どもー。普段は廃墟の横動画上げてるシモムーでーす。今回は大阪梅田に出現したダンジョンに入ってみたで。ここ、めっちゃ寒いんやけど」
『不法侵入じゃん』
『通報しました』
『マジか』
不法侵入、上等や。
廃墟探索の時はもちろん許可取るけど、有名になるには度胸も必要やろ?
閲覧数はどんどん伸びる。日曜の朝やのに、意外とみんな起きてんやな。
そして、とあるコメントが俺の目に飛び込んで来た。
『まゆてゃ:うわ。マジで入っとるし』
「まゆてゃ? って、地雷パイセンっすか?」
『うん(笑)』
「マジかー! パイセン、俺が捕まったら迎えに来てやー!」
『まゆてゃ:ないわ』
……と会話しているうちに、他コメで目的を思い出した。
『てか、マジでそこダンジョンなの?』
『身内配信? 抜けるわ』
「あぁ! ちゃうって。ちょっと待って、中の様子見せるわ」
スマホのボタンでインカメから外カメに切り替える。
中の様子が見やすいように懐中電灯で辺りを照らす。
黒い配線のようなものが天井に張り付いていて、調査が進んでいるのがわかる。
『天井のって自衛隊とかが電気通すために設置したやつ?』
『意外とフツー』
『暗すぎチビるわ』
懐中電灯の灯りは奥に吸い込まれていて、外観より広い。
「めっちゃ広ない? 外から見た時は狭そうやったけど」
こんな場所、見たことないなぁ。
洞窟というには人工的な造りで、なんかゲームがリアルに来たみたいや。
「とりあえず、この通路、進んでみるわ」
コツコツ、靴が鳴る。反響して聞こえる音は、俺を震えさせた。
『RPGのダンジョンみてぇ』
『CG?』
『海外の建物?』
『まゆてゃ:手ブレやば』
「いや、怖いもん。震えるのは仕方ないやろ。ここ、大阪やで」
ジンバルも買い足さんとな……。
配信についてちゃんと調べたつもりやけど、あかんかったか。
閲覧数は三桁通り越して四桁。
これでバズれば、俺も有名ユーチューバーや。
ここでインカメに切り替える。
「なんか進んでも景色変わらんから、切り替えるわな」
『ラノベみたいな配信やな』
ラノベってのはよくわからんけど、事実は小説より奇なりって言うしな。
「なに? こんなん本とかにはよくあるん?」
コメントを積極的に拾うのもコツって書いてあったので実践してみた。
『ダンジョン配信っていうジャンルがなろう系であるんだよ』
ほえー、興味ないわ。
「そうなんや。本とか読まんから知らんかったわ。博識やな!」
本より楽しいモンがあるしな……。
たまには知的にラノベ読んでみるのもええかも。
『アニメとかにもなってるから、見てみ』
ああ、そんなら見やすいかも。
コツコツ……。進んでも進んでも曲がり角が見つからない。
部屋もない。ただの通路や。
「なんか全ッ然、進んでる気がせんのやけど。まじでなんなん?」
『引き返せばいいのに』
『やっぱ釣り?』
「釣りちゃうよ。マジでずっとなんもない。……あ」
懐中電灯の灯りが行き止まりをとらえた。
スマホを外カメに切り替え、映す。
『行き止まり?』
『左右に照らしてみて』
言われたとおり、ライトを左右に照らす。
……曲がり角や。
左右どちらにもあって、どっちに行こうか迷ってまうな。
「やっとや。どうしよ。右は……同じような通路で左はなんか木の根が邪魔しとるな」
面白そうなのは左やけど。
『右かな』
『左!』
『引き返せ、馬鹿』
『画面映えなら左?』
『右右右右』
そんなら俺の興味のある方やな!
「左行くわ! でも木の根の間、進むからインカメにしとく」
『まゆてゃ:歩きにくそ』
インカメにして木の根のあいだを無理やり進んでいく。
頬に擦り傷が出来て軍手で拭うと、血が滲んだ。
「普段、廃墟行ってるけど、ここはどこよりも体力使うわ」
『おっさんのASMR会場はここです』
「うっせ!」
コメントに悪態をついても、寄る年波には勝てない。
木の根を手に置き、息を整えた。
アラサーってそんなにおっさんか?
それは置いといて、視界の違和感に気づいた。
「なんや? 水?」
違う、粘液や。
わかった時にはもう遅かった。
首に生暖かい感触がのしかかる。
思わずスマホを落とし、両手で巻き付くそれを引き剥がそうともがいた。
「ぐ、うぅぅ! たすけ……!」
黒いケーブルのような生き物はぬめっていて上手く剥がせない。
もがくほどに締め付けられ、顔に吸盤が張り付く。
「げえっ! 硬っ……! いた、い! とれっ」
視界の端でスマホが俺を映しとるのが見えた。
コメントと、首に巻き付く黒いケーブル。テラテラとした質感? あ、懐中電灯のおかげか。
俺が最後に見た光景は、丸い口の中央にある吸盤と、内側にびっちり生えた牙。
これは大きな――。
『まゆてゃ:帰ってくるんちゃうかったの』
『おっさんの触手プレイ会場は(ry』
『ミイラになった』
『グロ注意』
頭につけたGoProがコロリと地面に落ちた。
下村大耀、アンタ、ここに帰ってくるんちゃうかったの。
ゴテゴテにデコったスマホを握りしめ、ウチは配信画面を閉じる。
「まゆ、どしたん?」
「ん、ちょっとね」
あみてゃが朝マックを頬張りながら尋ねてきた。
こんなん、どう説明すれば、ええの。
黒いナメクジみたいなのが巻き付いて、おっさんをミイラに変えた。
ウチは口に手を当て、トイレに駆け込む。
「――っ。マジ、キツイって。冗談やって、顔見せてくれな、あかん、やろっ」
便器の中に食べたてのバーガーがウチを見つめる。
流して、ポケット消臭剤を振りかけ、洗面台に両腕を突っ伏せた。
鏡を睨むと、せっかく上手くいったつけまがボロボロや。
「ツレがODで死んだ時でもこんなひどい顔、ちゃうかったやろ……」
両親が心中した時も、引き取先の家で殴られた時も、こんなに心をえぐられたことはなかった。
なかった、のに……。
外が騒がしいな。
そら、リアルタイムなんやから当たり前か。
店員がトイレのドアを開けると、驚いたよう会釈する。
ウチも目を伏せ、会釈してトイレから出た。
「まゆ、外、騒がしない? なんかあったんかな」
「……ダンジョンでなんかあったみたいやで」
「えー? まだニュースにもないのにわかるん?」
「なんでやろな」
『先日起きた梅田の事件を受け、政府は警備を強化するとともに、このようなことがないよう、より一層地方との連携を取り組むとのことです』
『次のニュースです。新宿で建造物侵入罪で男を逮捕しました。逮捕されたのは松谷雄大容疑者で、容疑を全面的に認めています。松谷容疑者は「梅田の事件を見て、興味が湧いた」と供述しております』
大耀、あれからダンジョンに入る人があとを立たなくなったよ。
アンタのせいや。
ポリの警備もザルやけど、ファーストペンギンが死んだら意味ないやろ。
アンタ、でっかい蛭にやられたんやってな。
ニュースではやらんけど、リークしてる人がおったわ。
あの配信動画もめっちゃ切り抜かれて削除してもまたアップされる。
イタチごっこやね。
『次のニュースです。ダンジョンへの探索を民間に委託することが決定しました』
これが、アンタが望んだ未来なんか?
なんでなんや……。




