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痛みが灰になったあと

 深度になる。

 その言葉が、胸の奥に沈んだまま、消えなかった。

 俺は、空を踏む。

 三歩目。

 その瞬間――

 深海心核が、いつもと違う脈を打った。

 ドクン。

 重い。

 だが、沈まない。

 今までの鼓動は「引き込む」脈だった。

 だが今のは――

 押し上げる。

 胸の奥。

 大釜が、強く打つ。

 ドン。

 少し遅れて。

 ドン。

 その間に。

 もう一つ。

 ズン。

 低い。

 重い。

 だが、温度を持っていた。

 俺は、眉を寄せた。

 星辰環が、右手の中で、わずかに強く光る。

 航路が、揺れる。

 今まで見えていた未来の線の上に――

 炎のようなノイズが走った。

 燃えているわけじゃない。

 だが。

 「燃える前のエネルギー」が、そこにある。

 天命書が、左手の中で、重さを変えた。

 確定じゃない。

 警告でもない。

 ――臨界。

 その意味が、言葉になる前に理解できた。

 前方。

 空が――

 暗くならないまま、熱を持ち始めた。

 光は、ない。

 炎も、ない。

 だが。

 空間が、膨張する。

 俺は、息を吸った。

 空気は、冷たい。

 なのに、肺の奥で――

 何かが、燃えた。

 痛い。

 だが、焼ける痛みじゃない。

 決意の痛み。

 俺は、足を止めた。

 タラリアの風が、薄く揺れる。

 だが、逃がさない。

 深海心核が、掌で、低く脈打つ。

 ドクン。

 その鼓動と同時に。

 俺の中の「諦め」が、少しだけ浮いた。

 消えない。

 だが、沈まない。

 俺は、理解した。

 ここは――

 感情のさらに奥。

 「感情が行動に変わる前の層」。

 前方。

 空間が、歪まない。

 裂けない。

 沈まない。

 ただ――

 膨らむ。

 そして、その中心に。

 小さな点が、あった。

 赤でもない。

 橙でもない。

 白でもない。

 だが。

 ――燃える可能性。

 ラジエルの書が、懐の中で震えた。

 俺は、取り出す。

 ページは、勝手に開いた。

【原初火】

【世界が「存在し続ける」と決めた瞬間の残滓】

【意志を、燃料にする神具】

【存在を、前へ進ませる神具】

 喉が、鳴った。

 さらに文字が浮かぶ。

【生命は、燃えたから続いた】

【文明は、燃えたから残った】

【運命は、燃えた瞬間に固定された】

【宇宙は、燃え続けている】

 ページの端に。

 最後の一行。

【原初火は】

【持つ者の「諦め」を燃料にする】

 俺は、息を止めた。

 深海心核が、掌で強く脈打つ。

 ドクン。

 その瞬間。

 俺の中に沈めていたものが――

 少しだけ、浮かび上がった。

 逃げた夜。

 諦めた瞬間。

 諦めたふりをした選択。

 全部。

 燃えやすい形で、そこにあった。

 声がした。

 今度は。

 胸でも、骨でもない。

 ――腹。

「――燃やすか」

 俺は、答えない。

 これは。

 問いじゃない。

 これは。

 ――覚悟確認だ。

 俺は、歩いた。

 一歩。

 空間の圧が、増す。

 二歩。

 呼吸が、重くなる。

 三歩。

 深海心核が、逆に――静かになる。

 沈める仕事を、一瞬やめた。

 俺は、理解する。

 ここは、沈める場所じゃない。

 燃やす場所だ。

 俺は、原初火の前に立った。

 それは、火じゃない。

 ただの――

 存在し続ける圧。

 俺は、右手を伸ばした。

 星辰環が、未来を見せる。

 燃え尽きる未来。

 壊れる未来。

 狂う未来。

 力に酔う未来。

 その中で。

 一つ。

 ただ、燃え続ける未来。

 俺は、それを選んだ。

 指先が。

 原初火に――触れた。

 瞬間。

 世界から、温度が消えた。

 代わりに。

 ――方向が生まれた。

 前へ。

 ただ、前へ。

 その圧が。

 俺の中を、貫いた。

 胸が、裂けそうになる。

 肺が、燃える。

 思考が、白くなる。

 その中で、一つだけ、残る。

 進め。

 理由はない。

 意味もない。

 だが。

 止まる理由も、ない。

 俺は、叫ばない。

 ただ、立つ。

 深海心核が、感情を沈める。

 始原音叉が、神具を揃える。

 星辰環が、航路を示す。

 天命書が、確定を刻む。

 境界鍵が、世界を切る。

 タラリアが、道を作る。

 そして。

 原初火が――

 全部を。

 前へ押し出す。

 その瞬間。

 点だった火が。

 静かに、収縮した。

 爆ぜない。

 燃え上がらない。

 ただ、密度を増す。

 そして。

 それは。

 掌の中に、収まった。

 熱くない。

 だが。

 ――止まれない温度。

 ラジエルの書が、静かに閉じる。

 遠く。

 世界樹の方向。

 空間が。

 はっきりと。

 ――こちらを見た。

 今度は。

 気づいた、じゃない。

 ――認識した。

 俺は、原初火を握る。

 深海心核が、逃げ道を塞ぐ。

 始原音叉が、位相を揃える。

 星辰環が、未来を開く。

 天命書が、確定を刻む。

 境界鍵が、世界を分ける。

 タラリアが、空を繋ぐ。

 そして。

 原初火が――

 俺を、止めさせない。

 俺は、空を踏む。

 一歩。

 世界が。

 ほんの少しだけ。

 ――「意志」を持った。


 一歩。

 世界が、ほんの少しだけ、意志を持った。

 ――その瞬間。

 原初火が。

 掌の中で。

 初めて――

 脈を打った。

 トク。

 小さい。

 だが。

 深海心核とは違う。

 これは、沈めない。

 揃えない。

 示さない。

 ――燃やす。

 俺は、足を止めた。

 止めた、つもりだった。

 だが。

 体が。

 前に、傾いていた。

 タラリアの風が、慌てたように強まる。

 支える。

 だが――

 止めない。

 星辰環が、右手の中で、激しく明滅した。

 航路が、乱れる。

 未来が。

 細くなる。

 選択肢が、減るんじゃない。

 ――加速する。

 天命書が、重くなる。

 だが、書かれない。

 確定が――

 追いつかない。

 俺は、理解した。

 原初火の副作用。

 それは。

 「止まる理由」を、焼く。

 胸の奥。

 大釜が、打つ。

 ドン。

 だが。

 次が、早い。

 ドン。

 早い。

 ドン。

 生命が、追い立てられる。

 深海心核が、掌で強く脈打つ。

 ドクン。

 その瞬間。

 恐怖が、浮かぶ。

 だが。

 燃える。

 怖い。

 だが。

 怖さが。

 ――前進の燃料になる。

 俺は、息を吸った。

 肺が、熱い。

 空気は、冷たい。

 だが。

 俺の中で。

 何かが、燃え続けている。

 視界の端。

 色が、消える。

 感情の色じゃない。

 意味の色。

 「迷い」の色。

 それが。

 薄れていく。

 俺は、眉を寄せた。

 危ない。

 直感が、叫ぶ。

 これは、強さではない。

 ――単方向。

 声がした。

 今度は。

 頭の奥。

「――止まるか?」

 俺は。

 答えられない。

 止まる理由が。

 浮かばない。

 原初火が、もう一度、脈打つ。

 トク。

 その瞬間。

 記憶が、一つ、焼けた。

 消えたわけじゃない。

 だが。

 ――重さが消えた。

 逃げた夜。

 本来なら、胸を締め付けるはずの記憶。

 それが。

 ただの、事実になった。

 痛みが。

 燃料になったあと。

 ――灰になった。

 俺は、息を止めた。

 これは。

 危険だ。

 深海心核は、感情を濃くする。

 だが。

 原初火は。

 「進むために不要な重さ」を。

 焼く。

 それが。

 行き過ぎれば。

 俺は。

 何を。

 大事にしていたか。

 分からなくなる。

 星辰環が、激しく震える。

 未来が、示される。

 前へ。

 前へ。

 前へ。

 だが。

 その未来の中に。

 「立ち止まる未来」が。

 ない。

 俺は、歯を食いしばった。

 境界鍵を、強く握る。

 冷たい。

 その冷たさが。

 俺と、火の境界を作る。

 俺は、低く言った。

「……燃えろ」

「……でも」

「……俺を、燃やすな」

 その瞬間。

 始原音叉が。

 強く、震えた。

 ……ィィン。

 位相が、揃う。

 大釜が、ドン、と打つ。

 生命を、引き戻す。

 深海心核が、ドクン、と打つ。

 感情を、戻す。

 星辰環が、航路を広げる。

 ほんの少し。

 ほんの少しだけ。

 「横道」が、戻る。

 俺は、膝をついた。

 息が、荒い。

 原初火は。

 掌で。

 静かに、燃え続けている。

 止まれない温度。

 だが。

 今は。

 暴走じゃない。

 推進。

 俺は、理解した。

 原初火の副作用。

 それは――

 「英雄化圧」。

 止まらない。

 迷わない。

 躊躇しない。

 だが。

 それは。

 人間を。

 少しずつ。

 削る。

 俺は、ゆっくり立ち上がった。

 深海心核を、胸に近づける。

 温かい。

 痛みを、戻す温かさ。

 始原音叉が、位相を保つ。

 星辰環が、未来を散らす。

 天命書が、重く、確定を待つ。

 境界鍵が、冷たく、線を引く。

 タラリアが、風で足場を編む。

 そして。

 原初火が――

 俺の背中を、押す。

 俺は、空を踏む。

 一歩。

 今度は。

 自分で、踏んだ。

 原初火に、押されたんじゃない。

 俺が。

 進むと、決めた。

 遠く。

 世界樹の方向。

 空間が。

 わずかに。

 ――頷いた。

 俺は、小さい息を吐いた。

「……燃えるのは」

「……前に進む時だけでいい」

 原初火が。

 静かに。

 ――応えた。

 トク。

 小さく。

 だが。

 確かに。

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