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「散っていった」仲間たち③-2

「はぁ!? ケツ持ちにコリッツ商会だぁ!?」


 マーレからの思わぬ言葉に、無意識的に大きな声をあげる。

 そんな俺を見て、彼女は一層バツが悪そうに苦笑いをする。

 だが、それも無理もないだろう。


「うん……。なんか、『ウチが今より格安でやってやる』って言われてささ……」

「そうは言ってもな……。つーか、厭世(えんせい)氷刃(ひょうじん)の連中はどうしたんだよ?」

「あぁ、それなんだけどね……。この前の魔王侵攻の影響で、連邦としても防備体制を本格的に見直すことになったんだって。その流れで厭世さんたちも、本土に呼ばれたらしくてさ。もうウチの警備はできないって……」

「そいつぁツイてねぇな……。アイツらは数少ないウチのギルド所属のパーティーっていうよしみで、格安で受けてもらってたんだけどな」

「だ、だよねぇ……。ごめんっ! サマりん! 勝手に決めちゃって! 厭世さんたちがいなくなるって聞いてから、私焦ちゃって!」


 マーレは両手を合わせ、俺に頭を垂れる。

 ……彼女は随分と俺に気を遣っているようだが、むしろ気を遣うべきなのは俺の方である。

 返す返すも、彼女はウチの主力であり、生命線なのだ。

 

「い、いや! 事情が事情だし仕方ねぇよ! つーか……、全部丸投げした俺が言えることじゃねぇしな。お前は少ない選択肢の中、よくやってくれたよ!」

「サ、サマりんっ! ありがと〜! やっぱ持つべきものは懐の深い()()()()さんだよ〜!」


 マーレはそう言うと、目を潤ませながら、俺に抱き着いてくる。


 何かを試しているのか。

 はたまた、底抜けにお人好しなのか。

 マーレとはそれなりに長い付き合いだが、こういうところは今だに図りかねる。

 それと、俺はまだ彼女の中で『勇者』として認識されているのだろうか。


 ……だがそんなことは、些末な問題である。

 マーレにはああ言ったものの、中々に厄介なことになった。

 コリッツ商会と言えば、ハバド連邦を本拠に全世界に拠点を構える、世界でも有数の規模の財閥である。

 とは言え、それは表向きの話だ。

 その実態は、偽物武具の販売、国際協定で禁止されている薬物の取引、さらには人身売買の斡旋と、反社診断トリプル役満のいわゆる完全に()()()のアレである。


 ヤツらの最大の特徴としては、一にも二にも、人の弱みに付け込むその嗅覚だ。

 かくいう俺自身も、コリッツ商会系列の金融業者を名乗る男から、資金提供の話を受けたことがある。

 ……無論、丁重にお断りをした。

 相場の数十倍の利率を吹っかけてきたので、俺の理性も既のところで打ち勝つことができたのだ。

 というより、万が一受けていたら完全に終了である。

 全く……。俺が金に困っているという情報を、ヤツらはどこで仕入れたのだろうか?

 いずれにせよ、マーレとしても予算と時間との兼ね合いで、かなりギリギリの判断を迫られたのだろう。


 もちろん、このままでいいワケがない。

 いくらヤツらが格安で引き受けてくれると言っても、将来的には分からない。

 繰り返しにはなるが、ヤツらは人の弱みに付け込む天才なのだ。

 万が一、娼館のオーナーが勇者の俺であることがバレれば、どれだけ吹っ掛けてくるか想像も出来ない。

 そもそも、ケツ持ちとしてどれだけ機能するのかも未知数である。

 諸々のリスクを鑑みても、これまで店の()()()()の対処をまるっと引き受けてくれていた厭世の氷刃が、今後も引き続き担ってくれるのであれば、ソレに越したことはない。

 

 いやはや……。

 アバドが無計画に事を起こしてきたツケが、こんなところにまで及んでくるとは思わなかった。

 転売ビジネスなどには目もくれず、ヤツをもっと早くに屈服させておけばこんなことにはならなかったし、何より大量のニセ物在庫に頭を悩ませることもなかっただろう。 

 やはり、スケベ心など出すべきではない。

 

「……にしても、サマりんが一年も留守にして何してるのかと思ったら、まさか魔族の女の子をナンパしに行ってるとは思わなかったな〜」


 後悔の念に駆られていた、その時だった。

 マーレはパッと俺の身体に絡めていた腕を解き、ジトリとした視線と底冷えした声で言う。

 気のせいか。

 言葉の節々に棘がある気がする。

 やはり彼女は何か試しているのか……。


「……ナ、ナンパじゃねぇよ。ソイツはアレだ、アレ」

「アレ?」


 一見聖母のような微笑みに見えるが、明らかに目は笑っていない。

 ラムラのように表には出さないだけで、やはり彼女は彼女で俺に一物あるようだ。

 であれば、より丁寧な説明が求められるだろう。

 そう。今の俺の生活は、実質彼女の収入で成り立っているのだから。



「えっ!? シャロちゃんが人質!? そんでもって、アバドにはサマりんの指揮下に置いた上で、指示した街に侵攻させる。それで世界の緊張状態を維持させた上で、そこに付け込んで儲ける……。す、すごい。サマりんの言ってること、一つも分からない……」


 俺が話した『現状』は、これまで従順に従ってくれていたマーレすらも大いに困惑させる。

 こうして彼女の反応を見ていると、その歪さを再認識させられる。


「……大丈夫だ。大体、理解できてるぞ。そういうワケだから、お前にも色々と協力してもらいたいんだが」


「協力かぁ。でも具体的に何すればいいの?」


 マーレはそう言うと、人差し指を唇に当て、首を傾げる。


「まず手始めに。コイツの容姿に関する全てをプロデュースしてやって欲しい。人質つっても、年がら年中そばでビクついてるだけってのも、困りモンだしな」


「へ? てことは、サマりん。まさか、その子をウチの店で……」


「……違うから安心しろ。飽くまで、人間界においての最低限のドレスコードをクリアさせるってだけだ。一応、魔族ってことも隠してるしな。大体、ソイツに男の下の世話なんて100万年早ぇっつーの。だからまずは、何だ? 当面は、ラムラの手伝い辺りからやらせるつもりだ」


「ふ〜ん。そっかー。サマりんって基本()()だけど、妙なところで常識見せてくるよね〜」


「んなモン、常識もクソもねぇだろ……。シャロはまだ子どもだ。てかお前も、ちゃんと俺のことクズだと思ってたんだな……」


 俺の言葉に、マーレは『うん?』と首を傾げ、意味ありげな笑みを浮かべる。


「でも、そうだよね! じゃなかったら、エルサ陛下にあんな()()()しないか! お姉さん、サマりんがホントは優しい人だってコト、ちゃんと知ってるぞ!」


 マーレは得意げにウィンクをし、俺の小っ恥ずかしい過去を蒸し返そうとする。

 俺とたかだか二つほどしか変わらないというのに、時折こうして分かったような口を利き、歳上マウントを取ろうとしてくるのだ。

 

「……まぁそんなクズの言うことに、文句一つ垂れずに従ってるお前も大概だと思うけどな」


「えぇ〜、そうかなぁ〜。前も言ったけど、私はタダ楽しいからやってるってだけだしぃ〜。でも分かったよ。そういうコトなら任せて! シャロちゃん! 可愛くなりたいかー!」


 マーレは高らかに拳を上げて、シャロに問いかける。

 そんな彼女に対し、シャロは戸惑いつつも、小さな声で『うん』と応える。


「……そういうことだから頼むな。さっきも言ったが、別に普通でいいぞ。男の相手させるワケじゃねぇんだから」


「うん、分かってるよ。まぁでも、それなら安心だよね。シャロちゃんが引き抜かれる心配もないし」


「引き抜き? この辺りに競合なんていたか?」


「いや! そうじゃなくてさ。ほら! コリッツ商会って、人身売買もしてるって言うじゃん? 何かココ最近は、それがすごい顕著ってーの? 被害報告も増えてるらしいんだよね〜」


「そうなのか? でも人身売買って借金のカタに……、とかじゃねぇの?」


「普通はそんな感じなんだけどね。最近は、色々と巧妙になってきてるみたいでね。聞いた感じだと、ヘッドハンティングの話に託けてその流れで……みたいなケースも増えてるんだよ。半ば誘拐みたいな? 他国の娼館でも、同じような被害が出てるっていうしね。何かウワサだと、魔王軍をやめた幹部? が協力してるって話なんだけど……」


「魔王軍の幹部、ねぇ」


 マーレの話が事実であれば、由々しき事態だ。

 実態は反社とは言え、建前上商会で通っている組織が魔族と協力関係にあるなど、下手をしなくても制裁対象だ。

 もしその決定的な証拠が露見すれば、最悪、連合軍を組織され、一挙に本拠を制圧されることになるだろう。

 いや、本当に。

 全くもって、他人事とは思えない。

 ……だが待て。コレはひょっとすると。


「なぁ、マーレ。コリッツの本拠地ってどこにあるって言ったか?」


「へ? 確か、この島からちょっと西に行ったジフリン公国ってところだったような……。あっ! そう言えば厭世さんたちが呼ばれたのも、ジフリンだって言ってた気がする!」


 彼女からそう言われた時、ふと。

 俺の頭の中に、邪な計算式が浮かんでくる。

 ……これは我ながら、中々に良い手を考えついたものだ。


「……マーレ。至急、ギルドに集合だ。この無間地獄から抜け出す妙案を思いついたぞ」


 そう宣言し、ニヤリと口角を上げた俺を、マーレとシャロは不審者に寄せるソレで見ていた。

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