「散っていった」仲間たち②-1
ラムラの懐柔……、もとい説得は成功したと言っていいだろう。
彼女は人一倍文句を垂れるところはあるが、何だかんだ言って最後の最後は協力してくれる。
だが問題なのは、ヤツだ。
ヤツは、職業柄無骨な性格と思いきや、存外に目ざとい。
俺が弱みなど見せれば、ここぞとばかりにそこに付け込み、淡々と理詰めで攻めてくる。
こちらがやり込める覚悟で対峙しなければ、ぐうの音も出ない正論によって、あっという間に絡め取られてしまうだろう。
よってここは、強気に、冷徹に。
そんな決意のもと、俺とシャロはゼルカの街の外れにある、某武器屋の扉の前に立つ。
「ちっ。相も変わらず閑古鳥がピーピー鳴いてやがるな」
中へ入るなり、俺は舌打ちを交えつつ、皮肉を溢す。
店内を見渡せど、先の冒険者ギルドに負けじと閑散としており、客らしき人間は一人もいない。
お得意の憎まれ口も少し勇み足が過ぎたかとも思ったが、安心した。
……いや、心底不愉快である。
入り口横のカウンターを見下ろせば、この店の主にあたる男が、おおよそ客に向けるソレではない、敵意を含んだ視線でまじまじと俺を見つめていた。
「おう。今日もソイツ元気だろ? ココんとこ毎日だぜ? よっぽどウチの店が気に入ったようだから、そろそろ名前の一つでも付けてやろうと思ってな。『勇者・サマリアはヴィジュニッツ随一の貧乏神』ってのはどうだ?」
男は冷めた顔で、俺に負けじと憎まれ口を浴びせてくる。
「そいつぁ、ステキな名前だな。だが『勇者・サマリア』を『戦士・ナザレ』に替えても通用しそうなところは大幅減点だ。その辺りの論理矛盾が、お前の文学的センスの限界なんだろうよ。悔しかったら精進するんだな」
俺がそう返すと、店主の男はむくれた顔で『どの口が……』と小さく溢した。
我ながら酷い論点のすり替えだが、まず以てこの舌戦、俺の勝利だ。
というより、あまりに馬鹿らしくて、反論する気も失せただけなのかもしれない。
戦士・ナザレ。
言わずもがな、俺の元パーティーメンバーの一人に当たる。
ナザレには、この武器屋の経営を任せている。
戦士然とした屈強な肉体に、薄暗い店内でもよく映える赤髪。
その様は、まるで内から湧き出る闘志を裏付けるようである。
……が、無骨なのは見た目だけだ。
ご覧の通りこの男は、店の経営を押し付けて、さっさと魔王討伐に逃げ仰せた俺に対して一物あるのか、事ある毎にチクリチクリと小姑のように悪態をついてくる。
戦士なら正々堂々と拳で語り合わんかい! などと言いたいところだが、純粋なフィジカル勝負ではやや分が悪いので、大人しく彼の当てこすりを受け入れる他ないのが厄介なところだ。
そんな取り留めのないことを、ふと思った矢先。
俺の真後ろから、人の気配がした。
「おう。いらっしゃーい」
ナザレが挨拶をすると、この店の数少ない常連と思しき中年の男が、『ちわーす』という生気のない掛け声とともに店に入り、店内の物色を始める。
しかし俺の存在に気付くなり、男の様子は急変する。
平身低頭媚び諂うような笑みで、俺に近付いてきた。
「やや! コレはコレは勇者様! このような場末の薄汚い武器屋に何の御用で?」
開口一番、失礼極まりない男の態度に思わず手が出そうになるが、何とかその衝動を抑える。
お前の方こそ、何の用だ。
冷やかしなら帰りやがれ!
だが、それでも良かった。
どうやら、俺がこの店のオーナーであることは公にバレていないらしい。
加えて、男の様子を見るに俺とナザレの関係も特段怪しんでいないようだ。
この島に来る時に形式上パーティーを解散したのが、功を奏したのだろう。
恐らく、冒険者ギルドの方もラムラが上手くやってくれているはずだ。
「い、いや。ちょっと、ベルチに野暮用があってな! ついでにこの剣も叩き直してもらおうと思って立ち寄ったんだよ! な? 店主さん」
俺はそう言いながら、手持ちの相棒をナザレに差し出す。
「ゆ、勇者様!? かの皇国の象徴ともあろうお方が、このような安物の剣など……」
男がそう言った瞬間、俺は自らが犯した過ちに気付く。
無論、それを見て慌てふためいたのは、常連の男だけではない。
何かを嗅ぎ取ったであろうナザレは、顔を青白くさせ、俺に耳打ちしてくる。
「お、おいっ! サマリア! お前、何でこんな安物使ってんだよ! 『ウリエルの聖剣』はどうした!?」
「……う、売った」
開幕早々俺が見せた『弱み』は、さしものナザレをも無言で天を仰がせる。
そんな彼の姿を見れば、さしもの俺でも『罪悪感』の三文字が頭にちらつく。
もはや『ウリエルだけに売り得るってね。てへっ』などといった、粋な茶目っ気で乗り切れる空気ではない。
「い、いや待てっ! 厳密に言えば質屋だ、質屋! だから取り返そうと思えば、何とか……」
「……取り返す見込み、あるのか?」
「そ、それは……」
口籠る俺に対し、ナザレは深い溜息を吐く。
そんな俺たちのやり取りを、男は呆けた顔で見つめていた。
「いや、すまない。コッチのことだ。んでダンナ。今日はどうしたんだい?」
ナザレはすかさず、男に対してフォローする。
「へ? い、いやっ! 新商品でも入荷してるかなって思って、ちょっくら覗いてみただけだから気にしないでくれ! 悪いね! 忙しいところ!」
「いや、それは構わないんだが……」
「今日のところは帰るとするよ! あっ。そうだ! 勇者様! あっしはこのゼルカの街で冒険者をしております、ケロンと申します。どうぞお見知りおきを」
「あ、あぁ……。よろしくな」
俺が小さくそう応えると、ケロンはまた張り付いたような笑顔で会釈をし、店を出ていく。
「……んで、そろそろ聞かせてくれるか? サマリアさんよ。この1年の成果とやらを」
男の背中を見届けたナザレは、本題を切り出してくる。
俺は軽く嘆息を吐きつつ、ナザレの要求に応じた。




